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カカの天下  作者: ルシカ
856/917

カカの天下856「卒業式」

 テンカだ。


 卒業式はいたって普通に終わった。ときどき教頭がにやりとして「おお!?」と期待する生徒や父兄がいたが、何もなし。カカたちもその保護者たちもおとなしかった。昨日のインパクトが強かった分、拍子抜けだ。


「ふぅ……」


 ため息をつく。


 オレは教室で一人、教卓の上であぐらをかいていた。教師にあるまじき姿だが、別に誰も見てねぇし構わねぇだろ。


「んー」


 静かな教室を見渡す。


 生徒のいない学校というのは信じられないくらい音がしない。シン……という表現がぴったりくる雰囲気がある。


「暇だ」


 そう、暇だ。やることがない。


 いやまぁオレは教師だし、それが仕事だし。卒業生の次は入学生が来る。もちろん在校生のことも考えなければならない。暇などと言っている暇はないのだが。


「騒がしいのがいなくなったからなぁ」


 今日はともかくとして、昨日まで本当に毎回毎回騒がしかった。


 あぁ最後の最後まで……昨日の卒業式なんか傑作だ。ちなみに開式と閉式のじーさんはカカ曰く「タケダ医院のじーさん友達」らしい。何の経由で病院のじーさんに面識があるのか知らんが、まぁ面白かった。あと「鯛は鮮度が命! だって腐ってるのが降ってきたら笑えないモンね!」とも言っていた。そこで腐っても鯛とかいうネタをうまく仕込めば笑いはとれないだろうか、などと考えてしまうあたり、あいつらに毒された証拠か。


「卒業式、お笑い版は終了。続いて本番も終了いたしました、ってな」


 いっちょ最後に、成績表でもつけてやるか。


 カカ、あいつは阿呆だ。途方もない阿呆だ。でも誰よりもいいやつだ。テストの成績は悪いが、生徒としては満点だった、個人的評価でな。


 サエ、頭がよすぎる。可愛いすぎて腹黒いってのは一番タチが悪い。でもまぁ、雰囲気が悪くならない程度に上手いことやって楽しくしてたよな。 


 サユカはツンデレだと思っていたが、いつの間にか普通におせっかいな子になってたな。トメに対してデレデレになってたせいでツンをどっかに置き忘れてきたんじゃねぇのか。ま、優しいやつだ。


 イチョウ、委員長。あまり目立たないながらも面倒くさがりやなオレに代わってよく働いてくれた。あれでもっと喋れば面白い性格なんだけどな。もっとがっつけ。


 インド、カレー屋。


 ニシカワ、バカップルは死ね。


 アヤ、バカップルはくたばれ。


 タケダ……は、オレの教室の生徒じゃねぇや。ああ、そういや昨日の卒業式に向けて『オレが郊外へ逃げようとした場合に「どすこーい!」と身体で止める役』として練習してたらしいけど、結局は無駄な努力に終わったらしい。オレまっすぐ屋上目指したからな。


 ちなみにこのために五キロ太ったらしい。どうでもいいが。


 あとは……名も無い生徒どもだな。あいつら名前を覚えろ覚えろとうるせぇんだよなぁ。


 覚えてほしかったらカカたちに負けないくらいのインパクトを持てってんだよ。


 ……まぁ。


 覚えてないわけねぇがな。


 全員覚えてるさ。


 どいつもこいつも大好きだった。


 初めての生徒ってのが、こんなにも思い入れが深くなるもんだったとはなぁ。オレは大人になった、二十代も後半、世間に冷めてきている年齢だ。なのにここまで涙が出るとは。オレも所詮は人の子だったか。


「……くく、ははは」


 思い出すたびに泣けてくる。この三年近く、あったのは楽しいことばかりなのにな。笑えることばかりなのにな。


 なんでこんなに悲しいんだ?


 なんでこんなに寂しいんだ?


「はははは」


 笑えてくる。おう、笑ってんだよオレは。


 泣いてなんかいねぇ。


「うし!」


 パン、と両頬を叩いて気合を入れる。


 明日からまた仕事だ。ガキどもがオレを待っている。


「景気づけに飲もう!」


 祝い酒しねぇと。普段はぜってー口にしねぇが、今日だけは断言しよう。可愛い教え子に乾杯ってな。




 ――翌朝。


「うえええええぇぇ」


 気持ち悪ぃ……飲みすぎた……


 卒業式でしんみりした後にトメを誘うのは気まずくて、一人で飲んだんだが……どうにもペースが速すぎた。どうやって帰ったか記憶にねぇ。


「ほらテンカ先生、さっさと仕事しなさい」


「へーい」 


 職員室で吐きかけるもんじゃねぇな……教頭のお小言にうんざりしながら教材に向かう。文字を読む。三秒で挫折した。だりぃ。


「あー……受け持ちの生徒がいねぇから楽なはずなんだけどな」


 教師は仕事が多い。


 本当に。


「楽なはずなんだけどなぁ」


「あれ、それってもしかして当てつけですかー?」


「まさかっ、きっとテレてるだけなのよっ」


 聞きなれた声が聞こえる。昨日おさらばしたはずの声だ。


「……なんで、いるんだ?」


 ガンガンする頭を押さえて横目で見ると、そこには見慣れた三人が。


「なんでって、宿題の答えを言いにきたんだよ」


「あ? なんのことだ」


「む、自分で問題出しといて忘れてんの? これから私たちがどうするか、だよ!」


 あー? そんなことテキトーに言ったような気もするなぁ。


「こほん、えーと。中学生になるにあたり、私たちの変わらないものは……テンカ先生が友達だということです!」


 ……先生が友達、ねぇ。


「そゆことで、これからもよろしく」


 オレとてめぇらが対等ってか?


 バカにされたもんだな。


「ふん、悪くねぇな」


 でも口元には笑みが浮かぶ。


 体裁も年齢も関係ねぇ。こいつらとの繋がりが切れないならそれでいい。まぁ、切れても元気に育ってくれれば、それでよかったんだがな。


 んー。


 いや、でもやっぱ嬉しいわ。うん。


「よし、友達認定もらったよ」


「じゃ先生って呼ぶのも失礼になるよねー」


「そうよね、なにせ友達だものねっ!」


 ……んあ?


「じゃあテンカ先生をなんて呼ぼうか会議」


「テンカって呼び捨てで呼んでみたいー」


「さ、サエすけってば大胆ね。わたしは普通にテンちゃんかなぁ」


「私としてはテンテンテンテンテンテンをおすすめする」


「長いわっ」


 むか。


「るっせぇ! 担任じゃなくなったがな、オレが教師であることにゃ変わりねぇんだ! 先生と呼べ!」


「わかったよテンテケテン先生」


「先生をつけりゃいいってもんでもねぇ!」


「じゃーテンテケテン」


「先生をつけなきゃいいってもんでもねぇ!!」


「テケテケは?」


「そりゃ妖怪の名前だ!」


「んじゃ略してケケ先生」


「オレの名前はどこいった?」


 ったく。


 昨日飲んだくれたオレはなんだったんだかね。


 あー。


 楽し。


 頭は痛いが、今日も頑張りますかね!


「ケケをもっと短くして、毛先生はどうかしらっ!」


「いっそハミ毛先生にしよー」


 よし、とりあえず張り切ってこいつらぶっ飛ばそう。




 卒業式三連、終わりです。

 ここぞとばかりに泣かせてやろうかとも思ったんですが、やはりテンカ先生の性格でしょうかね、思いのほかさっぱりとした仕上がりになりました。

 学校から離れても、きっと楽しく一緒に騒いでくれることでしょう。


 さて、卒業式も終わったことですし。中学へと向けて、次回はちょっと重大発表が……あるやも。

 多分、「えーっ」てなります。

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