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カカの天下  作者: ルシカ
852/917

カカの天下852「お酒の味は?」

 こんにちは、トメです。


 雛祭りではヒドイ目に遭いました。まぁなんとか逃げ切ったのですが、『シュバッ』を使えない身としては厳しい逃亡劇となりました。まぁそれはさておき。


「かんぱーい!」


 今は久々にテンと飲んでます。しかしこの乾杯、実は五回目くらいです。


「今日はほんとテンション高いなぁ、雛祭りにでも何かあったか?」


 むしろ何かあったのは僕の方だったりもするのだが。


「はっ、この年で雛祭りなんかやらねぇよ」


「だろうな。しかしテンの場合、年齢関係なくやってなさそうだ」


「んだとぉ? これでも子供の頃はかよわい女の子だったんだぞ。自分のことも『オレ』じゃなくて『私』だったしな」


「ふはははは!」


「なぜウケる!?」


「試しに私って言ってみ」


「何よ、私が私って言うのがそんなにおかしいっていうの!?」


「ぶはははは! オカマだ」


「そりゃひでぇだろてめぇ!」


 だってこんなに男らしいテンが女性言葉とか。ウケるし。


「そういや雛祭りっていえばな? カカたちが妙なことをしてたぞ」


 気のせいか、テンの肩がびくりと揺れたような。


「……妙なことって、どんなことだよ」


「なんか『あーかーさーたーなー♪』って歌ってた」


「冗談抜きで妙だな」


「カカたちが子供じゃなかったら間違いなく通報されてたな」


 真っ先に捕まるのはタケダに違いない。


「あー、そのな? オレがテンション高い理由ってのが……そのカカたちのことなんだよ」


「おまえも変なやつだな。『あーかーさーたーなー♪』で興奮するのか?」


「ちげぇよ! あーっとな……」


 テンは言いにくそうに口をもごもごしながら、


「カカたちが、卒業式で、オレを泣かそうとしてくるんだよ」


 泣かそうと?


 『あーかーさーたーなー♪』で?


「おまえらアホだろ」


「話は最後まで聞け!」


「『あかさたな』を最後までってことは『わ』で終わりまで聞けばいいのか。それとも『ん』まで続くのか、その日本語講座」


「ちげぇ! あのな、もうすぐ卒業式だから」


「卒業式にようやく『あかさたな』を習うのか。小学校六年間で一体何を学んでいたのやら」


「は、な、し、を、き、け!!」


 おっと、酔いに任せて調子に乗りすぎたか。


「あいつらが勝手に決めやがったんだよ! オレが卒業式で泣いたら、中学まで担任をやれってな!」


 ……は?


「なんだそれ、無理だろ」


「ああ、無理なんだよ」


 小学校から中学まで『担任が一緒』なんて話は聞いたことがない。ましてやテンは貴桜小学校に勤め始めたばかり。いきなり異動などできないだろう。


「なんでそんな約束したんだ?」


「したくてしたんじゃねぇよ、あいつらが押し切ったんだ」


 苦い表情で言葉を漏らすテン。しかしなるほど、言われてみればあっさりと想像できることだった。『テンカ先生と離れたくない』『じゃあついてきてもらおう』『無理矢理にでも』なんてカカたちの考えそうなことじゃないか。


「でも、無理だよなぁ。いくらなんでも」


「ああ、無理だ」


 悲しいかな、世の中はそこまで甘くできていない。


「おやじ、ビール!」


 だから大人は酒を飲む。


「おやじ、ビールもってこい!」


 人に絡む。


「おやじ、ハゲてるぞ!」


 ヤケにもなる。


「おやじ、そのハゲを取れ!!」


 わけのわからないことも言ってしまう。


「おやじ! てめぇ店員なら――あ客か」


 迷惑もかける。


「って客かよ!? おまえいくらなんでも」


「トメ、さっさとビールもってこい! ハゲさすぞ!」


「おまえどうしようもないな!?」


 そう、どうしようもなくてやりきれないんだろう。


 テンはこの日、いつもよりも多く酒を飲んだ。


「なぁトメ」


「なんだ」


「にげぇ」


「そうか」


 苦いのはビールか、世の中か。


 とりあえず、この酔っ払いの世話をしなければならない僕の気持ちも苦かった。




 ビールは苦いのが旨いのですが。


 世の中は……


 少しくらい甘くてもいいのにねぇ?

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