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カカの天下  作者: ルシカ
844/917

カカの天下844「おひさしぶり?」

 こんにちは、トメです。


 今日の仕事も終わり、「あー疲れた」といつも通りに呟きながら寄った商店街。


 夕飯の買い物をしていたときに声をかけられてしまいました。


「よ、トメ!」


 こんな感じです。


 男です。


「ん、どうしたトメ」


 馴れ馴れしいこいつは、いったい誰でしょう?


 それが実は……


 僕にもわからんのです。


「誰だおまえ」


「はぁ!? おい、俺がわかんないのかよ!」


「僕の記憶の限り、おまえのようなキャラが登場したことはない」


「登場? 変な言い方するんだな」


 そこは気にしたらダメだ。


「ともかく! おぅトメ、随分と薄情じゃないか。俺とおまえはあんなに仲良くしてたっていうのに」


「誤解を招く表現はやめろ。さてはおまえホモだな? 新手の勧誘だろ」


「……トメ。それ、もし友達に言われたらどうする?」


 キリヤに言われたところを想像してみる。


「ぶっころす」


「じゃあ俺の心境も理解してくれるよな?」


「ん? あぁ、図星だからガッカリしてるのか。残念だったなホモ」


「ぜんっぜん違うわ!! おまえ話を聞いてないだろ! まさに現在、友達に言われてるんだよ俺は!」


「お気の毒に」


「他人事じゃなぁい!!」


 ふむ、どうやら冗談抜きでこの男は僕の友達(と言い張る)らしい。


「じゃあとりあえず名前を言ってみろ」


 さすがにそれ聞けば思い出すだろ。


「よし、言ってやる。俺の名前は○○だ」


「ん? ごめん、よく聞こえない」


「だから○○だっての」


「なんでそんなに声が小さいんだよ。もう一回!」


「ハッキリ言ってるだろ! ○○だよ! ○○!!」


 やっぱり聞こえない。


「……くっそぅ、昔からそうだよオマエらは……人の名前を聞きやしねぇ。あーもうわかった! こう言えばいいんだろ!? 友人Aだよ友人A! 小学校から高校から大学までずーっと友人Aと呼ばれてる男だよ俺は! たまに先輩Aとか後輩Aとか通りすがりAとかにもなるんだぞ恐れ入ったかバカヤロウ!!」


 あああああああ! 思い出した! そうだ、去年にユカとのゴタゴタで思い出したこともあったっけ。


「てっきり思い出話を補完するために生まれたキャラだと思ってたんだけどな。実在したとは」


「おまえは何を言ってるんだ?」


「や、こっちの話。はー、しかし友人Aかぁ。ほんと久しぶりだな。高校卒業以来か」


「そうだな……はぁ、名前を覚えてもらえないのは慣れてるけど、ほんとーにどいつもこいつも」


 仕方ないだろ、なんか覚えにくいし聞こえにくいんだよおまえの名前。容姿もとことん普通だし、なんとかAっていうのが似合いすぎなんだよ。


「でも誓って犯人Aと被告Aにだけはならないからな!」


 そんな平凡な彼だが、なにやら野望はあるらしい。


「俺の夢だ」


 むしろ夢らしい。なんか哀しい。


「……あ、そっか。いつぞやユカと知らない男が喋ってたとか聞いたけど、もしかしておまえのことか」


「ん、ああ。ユカちゃんね。偶然会っちゃってさ、ついつい声かけちゃったのよ」


「つい、ねぇ」


「だってよぉ、高校のときはあんなにおとなしい黒髪っ子だったのに、バリバリの金髪娘になってんだぜ? そりゃビックリして声もかけちゃうよ」


 よくわからん理由だが、確かにあれは僕もビックリした。


「性格もずいぶんと変わってたろ」


「ああ、すごく大人になってた。おとなしいながらも強くなったとゆーか」


 ……さてはユカのやつ、猫かぶってやがったな。もしくは僕と同じく友人Aのことを思い出せず、でも言い出せず適当に外行きの顔で通したか。


「あとお姉さんにも会ったぞ。随分とおとなしくなってたな」


 それはきっとおまえを覚えてなか――


「みんな大人になったんだなぁ……」


 あぁ、哀れだ。このことについて考えるのはやめておいてやろう。


「それでトメ、おまえは彼女いるのか?」


 唐突だなオイ。


「いないけど」


 友人Aは僕の両肩をがっしり掴み、力強く言った。


「よくやった!!」


「ぶっ殺すぞコノヤロウ」


「いやぁ、よかったよかった。ユカちゃんが彼女だったときには何回殺してやろうと思ったことか」


「思うだけじゃなく言ってただろうに」


「あ、そっか。『死ね』って87回ぐらい言ったときがあったな。あと13回は大人になってからに取って置こうと思ってたんだ」


「……その後もけっこー言われた気がするが」


「あれ? 870回言ったからあと130回言うんだっけ」


 おまえはどんだけ僕に死んでほしいんだ。


「ま、おまえに彼女がいないなら残りを言うことはないだろう。ただし」


「ただし?」


「おまえが彼女いないのをいいことに、友達以上恋人未満な女性たちを囲ってたりなんかしたら」


「そんなわけないだろ」


 そんなわけないよな? うん、ないない。


「もしそうだったら、俺は邪神になる!」


「邪神Aか」


「そうだ、邪神となって全力をもっておまえを罵る!!」


 邪神のわりにやること小せぇ。


「そうならないことを祈ってるぜ。じゃ、俺は仕事があるから」


「おう……何の仕事だ?」


「ひみちゅ」


「キモい」


「てへ」


「殴られたくなかったらさっさと行け、オカマA」


「へへ、またな!」


 相変わらずのふざけっぷりだ。でもまぁ、なんとなくいいヤツっぽいところは変わってないみたいだ。今度うちにでも呼んでみるかな。


「あれ、誰か何か言ったか?」


 どこからか『死亡フラグ』という声が聞こえたような気が……空耳か。


「しかし僕の周りには職業を隠したがる人が多いなぁ」


 ユカといい友人Aといい……ヤバい仕事やってないだろうな。




 意外と彼を覚えていた人って多いんじゃないかなーなんて思ったりします。


 でも名前はあげない。

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