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カカの天下  作者: ルシカ
843/917

カカの天下843「あのてこのて」

 ども、カカです。ただいまサエちゃんサユカンと三人で会議中です。


 場所は私の部屋。会議の内容は、テンカ先生をいかにして泣かすか、です。


「とりあえず、泣かせればこっちのもんだよねー」


「そうそう。あのテンカ先生のことだもん、意地でも約束を守って中学まで来てくれるわよっ」


「だよね。なんとかしないと」


 私たちはまだまだテンカ先生の授業を受けたいんだ! こんな先生思いの生徒、中々いないよね。


「とりあえず痛い目にあわせるのはどうかなー?」


「ぶ、物騒なこと言うわねサエすけ」


「泣かせればいいんでしょー?」


 まぁね。手段の善悪はこの際どうでもいい。


「でもテンカ先生、痛いからって泣く人かな?」


「しゃらくせぇ! って跳ね除けそうなイメージよねっ」


「むー、それもそうだねー。じゃあ脅すしかないか」


「だからなんでいちいち物騒なのよっ」


「それでいこう」


「なんでカカすけまでノリ気なのよっ!」


 だって一番てっとりばやいし。


「サエちゃん、脅す材料ある?」


「3個しかない」


「3個もあるのっ!?」


 そりゃあるでしょ。サエちゃんだもの。サカイさんの娘だもの。


「材料そのいちー、寝顔写真だよー」


 こんな展開になるのは想定内だったらしく、サエちゃんは鞄から早速その写真を取り出した。


「わ、テンカ先生ってば可愛……いく、ないわっ」


「私、寝顔写真って全部が可愛いもんだと思ってたよ」


「だからこそ効果的なんだよー」


 その写真の中には、髪がボサボサでヨダレをたらしベッドの上でおサルみたいなポーズをしながら爆睡するテンカ先生の姿が。


「でもこれ、泣くかな?」


「テンカ先生の場合、激怒して泣くどころじゃなさそうよねっ」


「じゃあ却下かー。じゃあ材料そのに」


 そのに、とサエちゃんがピースした。


 私もサユカンも合わせてピースしてみた。


 意味はない。


「それはね、テンカ先生のパコちゃんをさらうの」


 ピースしながら首を傾げる私とサユカン。意味がよくわからない。


「私がパコちゃんをさらわれたら、きっと泣いちゃうもん。だからテンカ先生も」


「……テンカ先生、自宅にパソコン持ってないわよっ」


「そ、そんなー!」


 予想外だったらしく、びっくりな顔になるサエちゃん。可愛い。なんでこの子ってば黒いこと考えてるはずなのに所々で可愛らしいんだろう。ズルい。だがそれがいい。


「じゃ、じゃーそのさん!」


 名誉挽回とばかりに気合を入れるサエちゃん。


「私ね? テンカ先生の預金通帳の、暗証番号知ってるのー」


 気合が入っていた。


 若干、入りすぎな気もする。


 や、滅茶苦茶に気合が入った脅迫材料だった。


「テンカ先生の預金を目の前でぜーんぶ燃やせば、いくらなんでも泣くでしょー」


 サエちゃん自身はさらに気合が入っていた。


「そ、それはさすがにあんまりじゃ……」


「そもそもサエすけっ! あんたどこでそんなの知ったのよっ」


「こないだウチに来てお母さんとお酒飲んで酔っ払ったとき、自分で言ってたよ」


 うかつすぎるぞ教師。


「ちなみにそのまま酔いつぶれた姿がさっきの写真ねー」


「……さすがに止めたほうがいいわよ、犯罪っぽいし」


「そっかー」


 程よい脅迫はできそうにないなぁ。


「あ、トメさんが帰ってきたっ!」


「へ? サユカンどこ見て言ってんの」


 まさか玄関の方向――そう気づいた瞬間、入り口の方から「ただいまー」という声が聞こえてきた。


「サユカちゃん、どうやってトメお兄さんが帰ってきたってわかったのー?」


「カンよ」


 この子も人間離れしてきたな。お姉にあてられたかな?


「とめにー! こっちきてー!!」


 大声で言うと、「なんだなんだ?」というボヤキと共に足音が近づいてきた。


 そして我らがトメ兄登場。


「おお、今日もおそろいだな。いらっしゃい二人とも」


「どもどもー」


「お邪魔してますっ」


 挨拶も済んだところでトメ兄にも意見を聞いてみることに。


「……はぁ、テンを泣かす、ねぇ」


「何かいい方法はありませんかっ」


「や、普通にしんみりした思い出話でもすればいいんじゃないかね」


 私たちは思わず笑ってしまった。


「ないない、あのテンカ先生に限ってそれで泣くなんて」


「正攻法は通用しないでしょー。なにせテンカ先生だしー、大人だしー」


「そんなに涙もろい先生だったら苦労しませんよっ」


 口々に抗議されたトメ兄は、なぜかニヤリと笑った。


「そうかな。大人ってのは意外と……ま、いっか」


「なにそれ。ねぇトメ兄? 言いかけてやめるのダメだよ。気になっちゃうじゃん」


「や、気にすんなって。それよりテンを泣かすにはどうすればいいか、だろ?」


「そうだけど」


「おまえたちらしく、笑わせて泣かせりゃいいじゃんか」


 あ、そっか! 笑いすぎても涙は出るんだ!


「それは確かに私たちらしーねー」


「わたしたちっていうより、カカすけらしいわね」


「よし、それでいこう!!」


「じゃあ早速ネタあわせだねー」


「ネタあわせって芸人みたいに言わないでよっ」


「とりあえず目の前で札束をバラまくのはどうかなー? みんな笑いが止まらないと思うのー」


「却下っ!!」


「採用!!」


「待ちなさいカカすけっ!!」


 あーだこーだと議論する私たちの後ろで。


「大人って意外と泣きやすい生き物なんだがな……ま、子供にゃわからんか」


 トメ兄が何か言った気がしたけど、聞こえなくて。私たちは卒業式の改造計画について盛り上がるのだった。 




 あの手この手でテンカ先生を泣かそうとしている子供たち。

 こう言っちゃ聞こえは悪いけど、全ては一緒に中学へ行ってほしいがために。


 さーどうする? テンカ先生よ。

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