カカの天下838「そして始まる終わりの学期」
よう、テンカだ。
冬休みも終わり、今日から学校が始まるぜ。あーだりぃ、もっと家でゴロゴロしてぇ。まぁ教職員には大した冬休みは無いんだけどよ、授業が始まるとめんどくせぇんだわ、やっぱ。
本当に、面倒くせぇんだ。
あーだりぃ、帰りてぇ。
「テンカせんせー、思ってることがダダ漏れですよー?」
おっといけねぇ、もう教室に生徒が集まってるんだった。おはようとか言うのも忘れてたぜ。よし!
「おはよう、てめぇら!」
『おはようございます、テンカ先生!』
「あけおめ、てめぇら!」
『あけましておめでとうございます、テンカ先生!』
「うるせぇぞ、てめぇら!」
『すいません、テンカ先生!』
相変わらず何の集会なんだかわかんねぇな。
「あー、めんどくせぇ」
「いきなりそれですかっ」
「いや、授業が始まるのもめんどくせぇんだけどよ、それはいつものことだ」
「他に何かあるんですか」
「わかんねぇか? この三学期が終わればてめぇら皆、卒業なんだよ。つまりオレとはお別れなわけだ」
「え。テンカ先生、留年したの!?」
「……カカ、人聞きの悪いこと言うな。小学校の先生と中学校の先生ってのは違うんだ」
「つまりテンカ先生の素行が悪くて卒業できないと」
「人の話聞いてんのかてめぇ!」
「確かにテンカ先生の素行は悪いわね」
「アヤ坊、そこは問題じゃないってば。確かに先生の素行は悪いけど」
「あー、好きに言えクソッタレ。ともかくてめぇらがいなくなるのが色々と面倒くせぇんだよ」
なんとなく察したのか、クラスは黙り込んだ。
「てめぇらが卒業したら、オレは新たな生徒たちを受け持つことになる」
「…………」
「名前を覚えるのがめんどくせぇ」
『そこ!?』
あまり察せていなかったらしく、クラスは喚いた。
「んだよ、オレがてめぇらの名前を覚えるのにどんだけ苦労したか知らねぇからそんなことが言えるんだ」
「んー、そもそも今ちゃんと覚えてるか疑問ですがー」
「言うじゃねぇかサエ。オレのことバカにしてんだろ?」
「はいー」
「……ほんとに言ってくれるな」
「じゃあこの男子の名前はー?」
サエが問題を出してきた、指されたのは確かに目立たないタイプの男子。しかしオレは担任として、人として、名前を間違うわけにはいかないのだ。
「ふ、オレをなめるな」
「答えは?」
「坂○」
「なんで伏字なんですかぁ!?」
坂○が叫ぶ。うるせぇ。
「んー、正解!」
「ちょっとサエちゃん!? なんで正解なんですか、ボクの名前は――」
「じゃあ次の問題です、この子はー?」
坂○は無視して、次に指されたのはまたもや地味な男子。
「T尾」
「だからなんで伏字なんですか!」
「何かやっちまっても本名が載らなくて大丈夫だろが」
「何もしませんよ!」
「ま、何もやってないから覚えられてないんだろうね」
一番イロイロとやらかしてるカカが言うと説得力あるな。
「じゃーこの男子の名前はー?」
「岡P」
「プロデューサーか何かですか、俺は」
「ねぇニッシー、おかピーって意外といい感じじゃない?」
「あだ名の誕生だな」
おお、オレってば生徒の個性を育てちまったらしい。さすがは教師だな。
「ま、アレだ。卒業するまでに本名を覚えてもらえるように頑張れよ」
「……それを先生が言うのはどうかと思うわっ」
「諦めなよサユカン。アレはああいう先生だから」
「そーそー。なんだかんだ言って絶対に卒業式になったら泣くだろうしねー」
カチンときましたねコレわたし。
「サエ、今、なんて言った?」
「なんだかんだ言いました」
「そうじゃなくて! オレが泣くとか言ってなかったか?」
「泣きますよー」
「このオレが? ハッ、絶対にないね」
「ほほー。そこまで言うなら……泣いたら私たちのいうことを一つ聞いてもらいますよー?」
「おぅ、望むところだ」
「じゃー卒業式で、テンカ先生が泣いたら」
ここに来てようやくハメられたことに気づいたオレは、頭が悪いのだろうか。
「泣いたら――中学までついてきて、私たちの先生をやってください」
そんな無茶な申し出に、大見栄きってしまったオレは頷くしかなかった。
卒業式は何が何でも泣けねぇ。
もし泣いちまったら、そんときゃ……死ぬ気で頑張るしか、ないのか。
「テンカ先生」
「教頭」
「無理ですからな」
釘を刺された。当然だ、オレが教室でのことを相談したんだから。
……相談してる時点で、バカみたいだが。
「あぁわかってるよ、うっせぇな。いいだろ、相談するくらい。ちっとぐらい夢みたっていいだろが」
「生徒が? それともあなたが?」
「うるせぇっつーの」
あー、やっぱ泣けねぇなぁ卒業式。
……涙の卒業式ってのは嫌いじゃなかったんだがなぁ。
久々に連日更新などしてみました。
さーどうするテンカ先生。イロイロと無茶やるカカ天だけど、そーうまくはいかないぞー。
はてさてどうなるやら。