カカの天下833「とある不思議なおねーさんの年末」
よ、カツコだ。
愛すべき家族とクリスマスを過ごし、ご満悦なあたしだが……年末に近づくにつれて、ちょっとしんみりしてきた。
仕事は忙しい。しかし今年のことを振り返るとボーっと……うーん、これが歳をとったということかな。うあー認めたくねー。
うし、ちょっと気合いれるために面白いことしよっかな。
「なにしよっかねぇ」
……うし、決めた。昼間の商店街を目隠しして歩いてみよう。意味? 理由? そんなものはいらない。
「目隠しはタオルでいいや」
さ、出発だ!
人が大勢行き来しているであろう道をカンだけで歩く。聞こえるのは雑踏と周囲の声だけ。
「ねーねーお母さん、あのおねーちゃん変だよー」
「こら、指さしちゃいけません!」
へー、変なおねえちゃんがいるのか。あたしは残念ながら目隠ししてて見えないなぁ。
お、今度は男子中学生の声かな。
「たった二人で来たのが間違いだったんだ……」
たった二人で来たのが間違いだったらしいですよ。何があったんだ中学生。
今度は女の子、幼稚園くらいの声かな?
「そんな愛はいらない」
どんな愛だクソガキ。
「……でも愛がほしい」
わぁうざい。ぶっ飛ばしてやろうかしら。
「――なーあ? 俺たち親友だよなぁ?」
む? 唐突にあたしの耳がそんなセリフをキャッチ。これは男子高校生くらいかな。
「今月はちょっと金欠でよぉ。貸してくんねぇかなぁ?」
「で、でも先月も、その前も」
「あぁん?」
「い、いえ……その……」
スタスタスタ、と声の聞こえる方向へ。
「四の五の言ってねぇで早く……あん? なんだてめ――」
気に食わない感じの気配に向かってぱーんち。
「お、おいケンちゃん!?」
「何しやがるこのアマ! 変なタオルなんか巻いて!」
ムカ。適当にキック。
嫌なヤツ的気配を三人倒した。
「あ、ありがとうございます!」
「いいってことよ」
「お、お名前を聞かせてください!」
あたしは思った。こんな目隠しタオルでうろついているのがご町内に広まったら、結構恥ずかしいのではないだろうか。せっかく顔が隠れてるんだし、正体も秘密にしたほうがいいよね。
「正義の味方、タオル仮面!」
「ダサいですね」
おねーちゃんエルボー!!
「ぐほぁ!!」
「助けてやったのに何という口の利き方。身の程を知れ」
ていうかそんなこと言う度胸あるならカツアゲしてくるチンピラくらい跳ね除けろ。
さてさて、またもや周囲の気配だけを探りつつウロウロ開始。
そして聞こえてくるのはやっぱり人の声。
「なにぃ!?」
「なんですと!!」
「な、なんだってー!」
「なんじゃらほいさー!?」
なんだろう、何が起こってるんだろう。
とっちゃおっかな。このタオルとって、見ちゃおっかな。
気になる。すごく気になる。だってなんじゃらほいさーとか言ってるんだよ?
よし、とっちゃおう!
「終わった終わった」
「あぁ、いいもん見た」
終わったの!? そんな! ガッカリだ!
「え、なにこの人――」
「てい」
なんかムカつくからその辺にいる気配を全部はっ倒しておいた。
気を取り直してウロウロ開始。
「……あれ、寒い」
なんだか吹雪の中を歩いている気がする。気のせいかな? どこまで来たんだろ。
「……あれ、暑い」
なんだか急に日差しが強くなったような。しかも足ざわりが砂っぽくなったような。砂漠? まさかねぇ。
「……あれ、なんかふわふわする」
なんだか異空間にでも迷い込んだような。気のせい、だよね?
む、話し声がする。誰だ? ここはどこだ……?
「ルッピルルルルァぴキュらリアしけこめめめソワカ!」
ほんと誰だ。何者だ。
「めっきりりりりアミソシュせれメみケろぴくキュりじじゃ亜j費オアj度派枝ひおdじゃいおhどいあふいおじゅれろなぐれ」
お。
「てい」
「ぷりきゅあ!?」
とりあえず『なぐれ』だけは解読できたので殴ってみた。
「オアでゅいあえウイうはおうウイいオアフィはおうフィオアフィおあしゅおfはういおsgふいおあsyせんそーみあsふぃお!」
おお。
「とりゃー!!」
『せんそー』だけは理解できたので、気合を入れて暴れてみた。
向こうは全滅した。
「変な手ごたえだったなぁ。何を相手にしたんだろ」
それは誰にもわからない。
そしてまたもやフラフラ歩き……ここで、気づく。考えてみればタオルを取ればよかったんじゃないか。ヤツらが一体何者なのか。お披露目だ!
「おりゃ!」
タオルを外した!
さて、ここはどこかな?
「む……? あ、ここってたしか学校の近くだわ」
なんだ、結構歩いたと思ったけどそんなに離れた場所じゃないじゃん。途中で戻ってきちゃったのかね。いくらあたしでも目隠ししながら方向まではわかんないし。
「いないなぁ、あたしがぶちのめしたヤツら」
結構派手に暴れたと思うんだけどなぁ。変な空間にでも迷いこんだのかな?
ま、気にしないでおこう。たまにあることだし。
「あれ、トメのお姉さんじゃないですか」
「ほ?」
あまり聞き覚えのない声に呼ばれて振り向くと、そこにはやっぱり見覚えのないスーツ姿の男が立っていた。
「久しぶりですねぇ」
「あ、うん。そだね」
誰かわからん。でもこういうときはわかるフリをするのが相手のためってもんだ。忘れられると悲しいからね。
「相変わらずお元気そうで」
「あはは、まぁ元気ないあたしなんて便器がない便所みたいなもんだからね」
「それは致命的ですねぇ。でもま、たしかに」
「誰が便所だ!?」
「自分で言ったんでしょう……相変わらずですね、本当に」
んーむ、やっぱりあっちはあたしを知ってるっぽい。
「じゃ、俺は用事があるからこれで。トメに今度会いに行くって伝えておいてください」
「ん、わかったよん」
「それではまた」
去っていく男。
なんとなく、覚えがないわけじゃない、気もするけど思い出せない。
「最後の最後に変なハプニングだなぁ」
これだから思いつき行動はやめられない。
「……あ、カレーが食べたい」
今日はトメがカレーを作ってる気がする。根拠はないけどきっとそうだ。よし、乱入決定!
ついでにまたタオルで目隠しして登場してやろう。
――今年も、多分来年も。こんな風に生きてるあたしです。
おまけ。
「カレーですね、どうぞ」
「誰!?」
「通りすがりのカレー好きです。さぁそこのタオルで目隠しの人、あーんしてください」
「あーん」
「はい、どうぞ」
「うめぇ!! 目隠し外していい?」
外した。
そこには誰もいなかった。
世の中は不思議がいっぱいです。
不思議な年末の話なのか。
不思議なおねーさんの話なのか。
ええどっちもです。
この話を書いたきっかけは……道を歩いているときに男子中学生っぽい子らが自転車に乗りながら「二人で来たのが間違いだったんだ」と呟いたからです。
話の内容がマジ気になります。