カカの天下828「だぁくさいど」
こんにちは、ゆうたです。私が誰だかわかりますかな? そうです、私が、ヘンタイです。
サカイ家に身も心もいろんなモノも捧げた奴隷でございます。
さて、そんな私ですが。本日はサカイミエ様に付き従い、小学校の屋上なんぞに来ています。なぜこんな場所にいるかと申しますと……ミエ様が率いるサエちゃんファンクラブにおいて、ある項目を解禁したからであります。
それは――『サエ様に告白してはならない、抜けがけ禁止』という鬼の会則! これを撤回するという! つまり、現在この小学校の屋上ではサエ様への告白ラッシュが行われているのです!
「あ、またフラれたー。ふふふー」
そして撃沈しまくる男子の様子を影から見つめて喜んでいる、失礼ながら陰気にしか見えない我が主。
会員に伝えられた事項はこうだ。
『もうすぐサエ様が卒業するにあたり、告白解禁。したければするがいい、ただし順番は守ること』
「ところでミエ様。一体どういう風の吹き回しですかな? サエ様には一生彼氏を作らせないのかと思っていましたが」
「ふふふ、考え直したのよー。たしかに私の可愛い可愛いサエに男ができるなんて不愉快ですよー? でもそれじゃ女は成長できないの」
おお、確かに恋愛は人として成長するにあたって重要だ。ただの、いや常軌を逸した親バカかと思いきや、ちゃんと考えていたのですね。
「だからぶっちゃけた話、ヤろうとしてもヤれない子供のうちに恋愛経験しといてたほうがいいんじゃないかってー」
「たしかにぶっちゃけすぎですな」
しかし同意。サエ様を汚そうとする輩には漏れなく俺のムチムチプリンを食わせてやる。無理矢理。腹いっぱい。
「それに小学校もすぐ終わりです。付き合ったとしてもすぐ別れるでしょー」
「なんという身も蓋もない言い方」
しかし同意。サエ様と付き合う輩がずっとイチャイチャしようものなら俺のボンバーが炸裂してしまう。無差別に。情熱的に。
「あ、またサエに告白する愚かな男子がきましたよー」
「……自分で焚きつけたわりにはフラれること前提なのですな」
「うちのサエはそこらの男にOKするような女じゃないわよー。ほら」
でかい我が身を隠しつつ、屋上の端――サエ様の様子を見る。
「すすすすす、好きでぴゃあ!」
緊張のあまり日本語から逸脱している男子。さもありなん、あの女神に告白しようというのだ、人の身には余りすぎる。ご尊顔を拝見できるだけでも有り難く思うがいい。
「ごめんなさいー」
「だ、ダメですか……」
「はいー。顔がタイプじゃないですー」
「がぁぁぁん!!」
うぅむ、しかしサエ様ってばなんて正直な。先程から断り方が直球すぎる。「私太い人は嫌なんですー」とか「お金持ってなさそうなんでヤですー」とか「名前が気に入らないですー」やら「なんかイヤ」とか。まさに微塵も期待を抱かせない、完膚無き拒絶。男子どもよ、心に傷を負い、強くなるがいい。そして再挑戦し、さらに断られ心を砕かれるがいい。ははは、俺様は遠目から見て笑ってやろう。
「ゆーたったら邪悪なこと考えてませんかー?」
「いえいえ、ミエ様ほどでは」
「あはは、分不相応な輩は死ねばいい」
恐ろしい。この方は本当に恐ろしい。そしてそれが……イイ!!
さて、サエ様のほうは……おお、新たな挑戦者だ。
「君だけが好きだ、付き合ってほしい!」
「私だけを見てくれるー?」
「もちろんさ!」
「じゃー付き合いましょうかー」
「本当かい!? よし、今日からサエは僕の彼女だ!」
……あれ?
何か、上手くいったように見えるのですが。
「ミエさ――」
振り向こうとして、やめた。なんか驚きのあまりモノスゴイ顔になった人がいた。見てはいけない。アレは人が見るべき顔ではない! それはそうと、サエ様はなぜあのような男を選んだのだ――む?
「ちょっとタナカ君! どういうことよ!?」
「げ、アケミ。なんでこんなところに!」
「あなたは私と付き合ってるんでしょ!?」
「い、いいや! 俺はサエと付き合うんだ」
「あたしだけを見てくれるって言ったじゃない!」
「そ、それは……」
「うわー、二股かけようとしてたんだー」
「ち、違うんだサエ!」
「やっぱり付き合うのやーめたー」
「ええええ!」
「私もよ! こんな嘘つき知らないわ!」
「そ、そんなぁぁぁ」
二兎追うもの、一兎も得ず。
「さーアケミちゃん。二人でこの男がどれだけ女ったらしか、学校中に言い触らしましょー」
「そうしましょう! そして登校拒否になって転校でもすればいいんだわ!」
泣きっ面にハチ。
「ぼ、僕が何をした……!」
自業自得。
「なるほど、そういうことだったのねー」
「む、ミエ様?」
「サエは予めあの女子を呼び出しておいたのよー。女ったらしを痛い目にあわせるために」
「なるほど、一度は頷いたのも計画的だったというわけですな」
「あー、びっくりしたー」
「びっくりしすぎです」
主に顔が。
「いやしかしミエ様。サエ様が誰かと付き合うのを念頭に置いていたのではなかったのですか?」
「あははー、それはそうなんだけどね。実際に見るとビックリしちゃって」
確かに漫画みたいなビックリ顔になってました。
「さて、告白ラッシュも終わったようですし、帰りますか」
「そだねー」
生徒に見つからないようにコソコソしながら屋上から降りていく、その途中。
「あ」
「どうされました?」
「サエにタケダ君が近づいていく……」
俺の出番だな。ゆーたさんのでっかい耳、起動!
「――サエ君、実は相談があるのだが」
「なにー、タケダ君も告白?」
「む? なんのことやらよくわからんが……話はタマのことなんだが」
話しながら去っていく二人。
「あの二人、意外と仲がいいですな」
「んー、タケダ君かぁ。意外といい物件かもね」
「物件という言い方はあんまりでは?」
「なにせ実家が病院だもの」
「ああ、本当に物件の話だったのですか」
しかし最近は病院だからといって儲かっているとは限りませんよ? などとダークな話をしながら我々は去っていくのだった。
もうすぐクリスマスですね!
聖なる夜ですね♪
だからあえて暗黒話をお届けです^^