カカの天下827「はいはいごちそうさま」
ぷんぷん、アヤよ! え、誰だか忘れたって? 失礼しちゃうわ! 私よ私、歌が大好きなクラスのアイドルよ!
ちなみにぷんぷんっていうのは挨拶じゃないからね! 単純に怒ってるのよ! ぷんぷん!
「なによバカ!!」
「そっちがバカだろ!」
「バカじゃないもん!」
「僕だって違うもん!」
むーっ、と睨み合っている相手はおなじみニッシー。場所は教室、時はお昼休み。皆が給食後のダラダラタイムを満喫している中、私たち二人はケンカの真っ最中なの。
「そっちのほうがバカだろ」
「そっちのほうがバカよ!」
「じゃあ勝負だ!」
「望むところよ! ねぇカカ!」
「……あん?」
なぜか机の上にあぐらをかきながらお馴染みメンバーと雑談していたカカに振ってみる。
「私とニッシー、どっちがバカだと思う!?」
「アヤ坊だよな?」
「ニッシーよね!?」
詰め寄る私たち。
カカの返答はこうだった。
「私が一番バカに決まってるでしょ」
……いや、そういうことを聞きたいんじゃなくてね?
「えー、でもカカちゃんはバカじゃないよー。ボケだよー」
「おやサエちゃん。私としてはどっちも変わらないかと思ったんだけど」
「甘いよカカちゃん。きちんと面白くボケたりバカなことするのって難しいんだよー、実はとっても頭を使ってるんだよー」
「そっか。じゃあ答えはこうだ、アヤちゃん、ニシカワ君! バカなことをするにおいては私が一番だ、あんたらには負けない!」
いや、だからそういうことを聞きたいんじゃなくて。
「……カカはもういいわ。サユカ、あんたはどう思う!?」
「夫婦喧嘩って羨ましい……わたしもトメさんとするのかしら……いいえ、しないわっ! ケンカなんて一度もしないラブラブカップルとしてご近所でも評判の……えへへ」
聞いちゃいねぇ。ていうか別に夫婦喧嘩じゃないし。
「じゃあ――」
「はいはいー、とりあえずこの勝負、私サエが預かったー」
む、審判代わりでもしてくれるのかしら。ありがたいけど。
「これでとりあえず私に火の粉がかかることはないでしょー」
「サエ、何か言った?」
「んーん、なんにもー。とりあえず状況を整理しなきゃ……ケンカの原因は何なのー?」
原因? それはね――
「ニッシーが私の趣味をバカにしたのよ」
「そんな大げさなこと言ってないだろ。ただ」
「言ったわよ! 私がどんな思いで!」
「はいはいー、熱くならないのー」
はー、はー……ムカついた心がサエのほややんボイスによって鎮まっていく。
「それで、その趣味ってなんなのー?」
「……作詞作曲よ」
おお! と盗み聞きしていた周囲のクラスメイトから声が上がる。
「いや、聞こえはいいけど大したモンじゃないよ?」
「なんでニッシーがそういうこと言うのよ!」
そうよ、なんでよりにもよってあんたがそんなこと言うのよ!
これは、この趣味は――あんたがきっかけで始めたことだっていうのに。
小さい頃、記憶があやふやなくらいに昔の話。
ある日、ニッシーが泣いていたことがあった。理由は忘れた。その頃から仲がよかった私は、どうにか元気づけようとして……習ったばかりの歌を聞かせてあげたんだ。
『さんぞー、ごくー、ちょはっかい、さごじょ、みんな、みんなで、にしへいこー♪ きみもいっしょに、にしへいこー』
読んだばかりの絵本を思い出しながら、何かの曲とミックスして精一杯歌った。
『にしへいこー! にしへいこー!』
しばらくして、ニッシーは笑ってくれた。
『なにそれ、へんなうたー』
『ぼーさんっていうひとがね、にしにたびをして、しあわせになるおはなしのうたなの』
『ぼーさんってなに?』
『んとね、なにかをおしえてくれるひとのこと!』
『そっかぁ。じゃ、あやちゃんもぼーさんだね!』
『え、なんで?』
『にしへいけばしあわせになれるって、おしえてくれたよ。いつかふたりでにしへいこうね!』
『うん!』
それからこいつは私をアヤ坊と呼ぶようになった。そして私ばかりあだ名で呼ばれるのが気に食わなくて、こっちも『ニッシー』なんてありきたりなあだ名をつけて呼ぶようになり、現在にいたる。
――そう、現在に至る。
「私は、あのとき、あんたが喜んでくれたから!」
だから続けている、とまでは恥ずかしくて言えなかった。だって作詞作曲は今じゃ立派な私個人の趣味になっている。きっかけは確かにニッシーだけど、それが全てとは断言できない。でも、でもやっぱり、きっかけなんだから。
「ニッシーにだけはバカにされたくなかったのに!」
「……むぅ。んっと、あー、ごめん」
「なによいきなり謝って!」
「うん、多分、その……僕も、昔のことを思い出して、恥ずかしくなって、なんか意地張って悪く言いたくなったんだと思う。その、僕が西を好きになったきっかけも、あれだし」
あれ、と言われてドキっとした。そっか、こいつも同じ回想をしてたのか。
「わ、わかればいいのよ、わかれば」
あんなにイラついてたのに、今はちょっと嬉しい。なんでだろ。
「のーのーカカさんやー」
「なんだいサエさんや」
「これは、一体なにかのー?」
「そーじゃのぉ。私が察するに、のろけじゃないかのぉ」
「やはりカカさんもそう思うかえー?」
「んむんむ、何やら腹立たしいのぉ」
「ほっほっほ、サユカさんはどう思うかえー?」
「こういうときはこう言えっておばあちゃんが言ってたわっ。『ヒューヒュー! 地獄に落ちろ!!』って」
「すごいおばあちゃんじゃのー」
「えー、かのちゃん特性のカレーはいらんかねー? 甘いものを見たあとに辛いものはいらんかねー?」
「い、いっちゃんてば……」
どうしよう。周りが何やら恥ずかしい展開になってきた。
私は声を大にして言う。違うのよ! なぜか毎回からかわれるけど、違うの! ニッシーと私は付き合いが長いだけの、ただの友達なんだから!
ほんとなんだから!
「はい、アヤさんもお一つどうですか? かのちゃん特性のカレーですよ」
イチョウさんが私の口へ無理矢理スプーンを押し込んだ。ぱっくんちょ。
「辛っ! うわ……辛っ!」
「先程あれだけの甘い時間を過ごしたのですから、それはそれはさぞ辛いでしょうね」
「違うわよ! 甘くなんかない! 今は死ぬほど辛いし!」
「ヒューヒュー地獄に落ちろ、ですわ♪」
「だから違うんだってばー!!」
本当に違うんだからね! それにしても辛っ!
カレーごちそうさまです、インドちゃんことかのちゃん。
何気に人気なこの二人。いやぁ、甘い、辛い。小学生時代からいい思いしてますなぁこのカップルは。ひゅーひゅー地獄に落ちry
……なんか一度、本文を入れ忘れて投稿しちゃったみたいです。お騒がせいたしました笑