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カカの天下  作者: ルシカ
826/917

カカの天下826「そんな日もあるさ」

 こんにちは、トメです。


 今日はなんでもない日です。普通に起きて、普通に朝食を作り、食べ。普通に仕事を終えて帰ってきて、普通に夕飯の下準備もひと段落してのんびりとテレビを見ています。


 もうちょっとのんびりしたらカカを呼んで夕飯を用意します。


 そんな普通の一時。それを――


「てい」


 ずぽ、という音と共にぶち壊すヤツが一匹、僕の背後に現れました。なんじゃこら。


「……もしもし、カカさんや」


「なにかね、トメさんや」


「おんし、今なにしたんかのぅ?」


「トメ兄の頭にバケツをかぶせた」


「なぜ」


「なぜと言われても困る」


 僕のほうが困るんですけど。


「……あ、似合ってるよ? ピッタリ」


「褒めてほしいわけじゃなくて」


 確かにバケツの取っ手が顎下にぴったりハマってすごいフィット感だけど。


「なにさ! 私の誕生日にせっかく高級お掃除セットをもらったのにトメ兄が『高級すぎて勿体無い』とか言って放置してるから使い道を探してあげたんじゃん!」


「逆ギレされても困るんですけど」


 とりあえずバケツかぶってるから視界は真っ暗、さっきまで見てたテレビの続きがそろそろ気になってきた。


「外せ」


「あいよ」


 意外とあっさり頷いてくれた。本人もちょっとした悪ふざけのつもりだったんだろう。しかし。


「あれ、とれない」


「またまたご冗談を、お嬢さん」


「んー、なんか取っ手の付け根が変な形に曲がってて……てい! あ、もっと曲がった」


「オイ」


「おりゃ」


 ガンガンガン!! 耳近くでカカ○チョップの振動ががが。


「ぃたいたいたい!!」


「おお、完全に歪んだ」


「ざけんなよマジで」


「んー! んー!! さすがは高級金バケツ。ビクともしない」


「じゃあなんで僕がかぶったときに限って歪んだんだ!?」


 自分でも抜こうと手を出してみる。しかし確かに押そうが引こうが顎下の取っ手はビクともしない。やばい、これ本当にやばい!


「えーと、ここをこうして、っと」


「何してる?」


「バケツに顔を書いてみた」


「何してんだコラァ!」


「……ぶっ! はは!!」


「どんだけウケる顔を描いたんじゃい!?」


「さてどうしよう。とりあえずもっと笑えばいい?」


「だからざけんなマジで! 誰か助けを呼んできてくれ!」


「わかった!!」


 走り出す足音。早くしてくれ本当に。


 ……しばらくして、複数の足音が。


「よかった、連れてきてくれたんだな!」


 誰を連れてきてくれたんだろう?


「ぶはははははははははははははははははははははははは!! ば、ばけつ! 顔!! くはははははははは!」


 巻き起こる大爆笑。誰だか知らんがとりあえずソイツぶっ飛ばす。


「あー、笑った笑った」


「ね? 面白いでしょウチのトメ兄」


 カカてめぇコラ。


「うん、いいもん見たわぁ。じゃあな」


「うん、ばいばい」


「待てや!!」


 何のために呼んだんだ!?


「うわ、バケツ人間が追ってくる!」


「逃げろぉ!」


「逃げるなぁぁぁ!!」


 あ、前見えないのに適当に走ったら壁に激突した。世界が揺れる、バケツのせいでぐわんぐわん揺れる。泣きそう。


「なにやってんのトメ兄」


「脳が揺れてぶっ倒れてる……助けを求めた人はどうなった」


「あ、そっか。助けを求めたんだった」


 やっぱ忘れてたか。


「もっかい行くね!」


 今度はどうかマトモなのを連れてきてくれ……


 何も見えないのでバケツ顔でボーっと待ってるしかない僕。


 なんかもっかい泣けてきた。


「連れてきたよ!」


「おお、そうか!!」


 ……あれ、反応が聞こえないぞ。


「誰を連れてきたんだ?」


「サエちゃん。いきなりお腹抱えて蹲って床をバンバン叩きながら苦しそうに笑い出したけど」


「つ、つぼ……つぼに入っ……ふ、ふふ……」


 僕、やっぱ泣きそう。


「はー……はー……あー、笑い疲れたー。で、これ誰? シューさん?」


 あ、涙出てきた。


「何言ってるのよっ!」


「お、サユカン登場」


「その人はどう見てもトメさんでしょうっ!」


「おぉすげぇサユカン……愛だ」


「どこ見て判断したんだろー」


 サユカちゃん、僕の味方は君だけだ!


「さぁ助けてくれ」


「小学生にゃ無理だよ」


「ならなんで連れてきた!?」


「友達を呼んで何が悪い!?」


「とりあえず解決してくれよバケツな状況を!!」


 泣いてます。僕、泣いてます。大人になってから泣く機会も減りましたが現在かなーり泣いてます。


「むぅ、どうしよう」


「商店街で何とかしてくれそうな店を探せばいいんじゃないかなー? うまい工具持ってるとこあるでしょー」


「よし、そうと決まれば行きますよトメさんっ!」


「え、え? このまま外を歩くの!?」


「大丈夫です、わたしが手を繋いで先導してあげますからっ!」


「ちょ、引っ張るな! イヤだ、僕はイヤだ! これ以上笑われるなんてイヤなんだ!!」


「大丈夫ですよー、バケツ人間の中身なんて誰もわからないですからー」


 む? そ、それもそうか。


「……じゃあお願いする」


「おっけ、トメ兄レッツゴー」


「さ、トメさんこっちですっ!」


「はい、靴ですよトメお兄さん」




 ……数十分後。


 工具によって外されたバケツ。広がる視界。


 久々に見た光景は、僕を囲む商店街の人々だった。


「カカさんや、なんですかこれは」


「バケツ人間が珍しいからって移動中に皆ついてきちった」


「いやああああああああああああああああああああ!!」


「ドンマイ」


 僕おうち帰る。


 夕飯なんかもう知らないもん。




 うん、そんな日もあるさ。


 普通はないけど。

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