カカの天下822「お兄ちゃんだよ、がんばれタケダ」
俺こそがタケダキンジロウだ。いきなりだが最近の悩みを聞いてくれ。
つい先日、俺の母上がぶっ飛んだ人間だという事実と共に、俺に妹がいることが判明したのだ。その名はタマ。言わずと知れた有名人――あの笠原カツコの愛弟子だ。
それが判明してから、タマはうちで暮らすことになったのだが……
「ねー、たけだー」
俺とタマ、二人で外を散歩中に呼ばれるこの名前。無論、俺のことなのだが……
「あの、タマ? それは苗字だから、君もタケダなんだぞ?」
「んー?」
「……よくわかってないようだな。じゃあこうしよう、俺のことはお兄ちゃんと呼ぶのだ」
「おにーちゃん」
「…………!!」
なんだ、この体中を駆け巡る快感は……おぉ、これが世に言うシスコン電流というものか! そうかトメさん、あなたはいつもこんな幸せ電流を浴びていたんだな! そりゃシスコンにもなろうというもの!
「変態がいる」
「誰がだぁ!! って、カカ君?」
「よ。タマちゃんの様子見にきた」
なんという幸せ、妹にはこんな特典がついてくるのか! あぁタマよ、おまえにはいくら礼を言っても足りなさそうだ。
「ま、また何か悶えてるわよっ」
「きっと身も心も変態になっちゃったんだよー」
「失敬な!!」
でもちょっと自分でも「これヤバくね?」と思ってたから我に返ってよかった。いやしかし……カカ君だけではなく、いつもの二人までついてくるとは。ここは兄としてキメどころだな!
「ようこそ三人とも! どうか妹をよろしく頼む!」
「えい」
「ひぎゃああああああああああああああ!!」
なぜかいきなり四方から割り箸を突っ込まれた! 両耳に! 鼻の両穴に刺さった!!
「なにをひゅるのだ! そしてどこから割り箸を出した!?」
「そこのゴミ捨て場から」
「ひぃやあああああああああああああああ!!」
再び叫んだ俺は必死で耳と鼻の汚れを落としにかかった!
「うわ、鼻をほじってる」
「耳もほじってるわよっ」
「ばっちぃー」
「こうさせた当人が何を言うかぁぁぁ!」
「たけだ……」
「おぉタマ。心配してくれるのか?」
「えい」
「二発目ぇ!?」
再び破られる鼻の粘膜。痛い、痛い! 考えてみれば先程は四方から――つまりカカ君たち三人+タマからの攻撃だったのだ。すなわちタマも敵!
「一体なんなのだ! なぜ俺がこんな目に!」
カカ君は。
「え、なんかムカついたから」
サユカ君は。
「兄レベルが低いくせに粋がるからよっ」
サエ君は。
「タケダだから」
タマは。
「ざまーみろ」
えぇと、なんか後半ひどくない? ていうか全部ひどくない!?
「ねぇサユカン、兄レベルってなに?」
「そのままよ。兄としてのレベルっていう意味」
「ちなみにトメお兄さんのレベルはいくつー?」
「レベル2000よ」
高っ!!
「タケダは?」
「レベル、マイナス53万よ」
低っ!! ていうかある意味高っ! 脅威の戦闘力っ!!
「トメお兄さんがすごいんだか、タケダがすごくなさすぎるんだか、わからないねー」
「ある意味どっちもすごいと思うけど……ねぇサユカン。ちなみにあそこで仲良く歩いてる通りすがりの兄妹、レベルいくつ?」
「レベル8ね」
基準が理解不能である。
「とにかく、タケダの分際で粋がるんじゃないよ」
「うわーカカちゃんてば身も蓋もない言い方」
……しかしこの上もなくわかりやすい。
「君たちの言い分はわかった。俺も兄を目指す身ながら、心得がないのは承知している。ではどうすればタマの兄と認めてもらえるのだ?」
「とりあえず刺さってる割り箸抜けば?」
「いつの間に刺した!?」
うおお、気づかないうちにまたもや四本も! なんだこの技は! 見切れん!
「ねータケダ君、ちゃんと洗浄しないと傷口が腐るから気をつけてねー?」
「ありがとうサエ君! しかし注意してくれるのはありがたいが刺した当人が言っても優しいんだか優しくないんだかわからんぞ!」
「優しいんだよー」
「いやあの」
「優しいよねー?」
「……はい」
ダメだ。あの笑顔には逆らえん。妙に可愛いし。いや俺はカカ君一筋ではあるのだが。それでも逆らえんくらい可愛いし。
「とりあえずトメさんに話を聞きなさいよっ。きっと色々と教えてもらえるわよっ」
「うむそうか、じゃあそうしよう!」
早くそうしよう! モタモタしてたら割り箸で刺し殺されてしまう!
「さぁ行こう、タマ!!」
「えい」
「だからなんで刺すの!?」
そして、てんやわんやでトメさんの家に到着。
話を聞いてみると。
「兄として大事なこと?」
「はい! どうか教えてください」
「耐えることだ」
なんという生々しい、そして痛々しい答えだろうか。しかし先程の経験から察するに、この心得は確かに重要だと確信できる。
「とりあえず割り箸抜けよ」
「だからいつの間に刺しているのだ!?」
あぁ、前途は多難である。頑張れ俺。
……うん、まずは耳と鼻の洗浄を頑張ろう。
あい、誕生日が終わってから一人ずつ中心にして日常話を書いてる感じな私です。
しかしタケダの話……なんという書きやすさ。おそらく執筆時間に15分もかかってないんじゃないだろうか。しかも構想も何もなしにぶっつけで書いたし。その分内容が……とか思わず「ま、これでいっか。タケダだし」と思えてしまうのが恐ろしいところ。
ま、いいよね?(ぉぃ