カカの天下820「はこ」
こんにちは、トメです。今日も今日とて仕事から帰宅しました。やれやれ疲れました。今日はなにやら仕事の先輩であるおっさんが大変でした。なぜかモヒカンにしてきたのです。白髪のモヒカンなんて初めて見ました。あの歳になって弾けたのでしょうか、フィーバーなのでしょうか、散る直前な一輪の花なのでしょうか。どうでもいいです。
そんなおっさん――じゃなくて、そんな僕ですが(どんなかわかんないけど)ともかく家に帰ってきたのです。
「ただいま」
すると出迎えてくれたのは一つのダンボール箱。玄関から居間への道を塞ぐかのように置いてある。でかい。
「……なんだこれ。おーい、カカー?」
靴はあるのに返事がない。どうしようかね、こやつ。見たところ宅配便でもないみたいだが。とりあえず開けてみるか。封もしてないし。
パカっとな。
「やぁ」
なんとなく予想していたが、その中にはカカが体育座りでコンパクトに収まっていた。
そしてそんなカカは言った。
「人生、いろんなことがある」
ほんとにね。とりあえず閉めた。
さて、どうしたもんか。
もっかい開けてみよう。ぱかっとな。
「うひょー」
カカはそんなことを口にしながら、なぜかひょっとこ顔をしていた。
意味がわからない。とりあえず閉めた。
「うーん、本当にどうしたもんか」
このまま放置しておくというのもボケキラーで楽しいかもしれない。
でもまぁ可哀想なんでもう少し付き合ってみることに。ぱかっとな。
「ぽーん」
「んごぁ!?」
ゴィン!! と頭が揺れる。このバカいきなり箱から飛び出してきて僕と頭同士をごっつんこしやがった。
「びっくり箱」
「あぁびっくりしたよ! これで満足か!」
「よきにはからえ」
あぁ、はからってやろうじゃないか。今日の夕飯見てろよ? 揚げ揚げにしてやる。
「ねぇトメ兄、はやく閉めてよ」
「まだやるんかい」
痛い目に遭いつつも付き合ってあげる僕は兄の鑑だと思う。
「もうーいいーかい?」
なんとなく言ってみた。
「まーだだよ」
返ってきた。なんかあの歌を思い出した。
「もうー、いーくつ寝ーるーとー」
「ねーしょーうーがーつー」
また返ってきた。寝正月。間違いない。
「もうーいいーかい?」
「早く開けてよ」
「ノッてやってるんだからそっちもノれよ!」
仕方なしにぱかっと箱を開けた。
するとカカじゃなく、なんとサエちゃんが現れた。
「いまこの箱にはー、あなたが心から好きな人が入っていますー」
本当ならそれほど素晴らしい箱はないな。
「私をあなたに直送便♪」
ちょこんと体育座りしながら、あちらの類な人たちだったらズキューンと撃ち落されそうな笑顔である、が、僕はロリコンではなくシスコンなのであった。というわけで――
「クーリングオフ!」
技名(?)と共に箱を閉めてから思った。やべぇ、シスコンって自分で認めちゃったよ。え、今更? そうですか。それもそうですね。くすん。
「早く開けてよ」
再び聞こえてくるカカの声。いまサエちゃんと入れ替わったことといい、なんとなく妖怪っぽく思えてきた。でも付き合って開けてやる。
「…………」
絶句した。
「私が教頭だ」
そう、教頭のおっさんが体育座りして入っていたのだ。異様に恐い。
「あの」
「私が教頭だ」
「いやその」
「私が教頭だ!!」
「だから」
「私は教頭だろう!?」
「聞かれても知らねぇよ!!」
叩きつけるような勢いで箱を閉めてやった。
「ハヤクアケテヨ」
もうこれ妖怪だろ。
「はぁ……」
深くため息を吐きながらも開けてやる。するとそこには――何も入っていなかった。
「あれ、カカはどこいった」
「私ならここだ!」
どーんと偉そうに腕を組んで居間の影から現れるカカ。そして同じポーズのサエちゃんも。
「説明しよう! 実はこの箱、学校でもらったんだけどね? トメ兄から見て後ろに穴が空いててね、そこから出たり入ったり――」
「知ってるよ。見えてたし」
目の前にある箱の後でゴソゴソやってりゃ誰でも気づくわ。
「え……」
や、そんな残念そうな顔されても。
「ほら、バレてたでしょー。賭けは私の勝ちだよカカちゃん。約束通り、ファミレス東治の新作プリン・アラモードおごってねー」
そしてちゃっかりしているサエちゃん。
……あれ。
「しかし教頭はどっから引っ張りだしてきたんだ? 姿が見当たらないけど」
「は? デストロイヤー教頭なんか連れてきてないよ」
「サユカちゃんも用事があって、今回は二人の犯行ですけどー」
え、じゃあ、教頭は?
「なにそれこわい」
僕だってこえぇよ!!
――え、タネ明かし無しで終わるの? ちょっと待て、めっちゃ気になるんですけど! オイ!!
最近少ない『意味の無い(意味のわからない?)日常話』を書いてみました。しばらくこんな感じで一話完結な話を中心に書いていこうと思います。
え、教頭がどっから湧いてきたか?
まぁ……デストロイヤーですから……