カカの天下82「かわゆいところ」
「そういえばさ、ぬいぐるみってあるじゃん」
いつもの下校道。
例によって例のごとく、私カカと愉快な仲間のサエちゃんとサユカちゃんは一緒に帰ってました。
まぁ、帰る際にこれまたいつものごとくサユカちゃんがしぶったけど、結局はおとなしく一緒になってる。まったく素直じゃないんだから。
「あれさ、名前つけてる人とかたまにいるけど……どういう風につけてるんだろうね」
「そういえばカカちゃんちってぬいぐるみないよね」
「はっ。どうせカカすけのことだから、あってもサンドバッグにしてすぐ捨てちゃってるんじゃないの?」
「よくわかったね」
「……え!? ま、まじで!!」
「余命が短いから名前つけるのもねー……って、サユカちゃん、なんでそんな生ごみを見るような目でこっちを見るの」
「だ、だってぬいぐるみよっ!? 女の子の夢と希望よ!? それをあんたさ、さささサン」
「ハイ、どかーん!」
「って感じでぶん殴るなんてどうかしてるわっ」
おお……多分サユカちゃんはサンドバッグって言おうとしたんだろうけど、そこをあえてサエちゃんが「さん、ハイ」と別の言葉に、しかしそれをうまく言いたいことに繋げるとは……この二人、できる。
ん、できる?
できてる?
「ダメだよサユカちゃん! サエちゃんとできてるのは私なんだからっ」
「……何をわけわかんないこと言ってるの」
……はっ。いかんいかん。
「そういうサユカちゃんはどうなの。まさかぬいぐるみに名前つけてたりするんじゃないの?」
私はからかうつもりで言った。でもサユカちゃんはなぜかきょとんとして……
「……え、ぬいぐるみに名前をつけるのって普通じゃないの?」
お?
お……
おーまいごっど。
「聞きましたかサエちゃん」
「聞きましたよカカちゃん」
「え? え!? な、なによ二人のそのゴミ捨て場に漂うような生暖かい視線は!」
「サユカちゃんて、ああ見えて意外と……かわゆいんだねぇ」
「いつも強気に見せて本当は乙女チックなんだねー」
「ちょ、ちょちょちょっちょっと! なんでそうなるの!?」
「だってぬいぐるみに名前つけるなんてサエちゃんやる?」
「サユカちゃんには悪いけど……あんまり」
サユカちゃんは背後にでっかい「ガーン!!」という文字を背負っていた。うはは、おもしろ。
「ねね、どうやって名前つけるのかなっ」
「へ!? いや、その、なにさっ。どうせ私は子供ですよ!」
「そんなこと言ってないじゃーん。可愛いって言ってるじゃんサユカン♪」
「勝手に変なあだ名作るなカカすけ!」
「カカちゃんの言うとおり、可愛いよ、サユカン♪」
「サエすけまで……!」
「ねね、もしかしてもしかして、好きな男の子の名前つけたりとかしてんの? むふふふ」
なんかここにトメ兄がいたら「おまえオヤジ化してるぞ」とか言いそう。自分でもわかる。でも楽しいからよし。
「い、いくらなんでもそれは、もうやらないわよ」
「やってたことあるんだ! うわ、はーずかし」
「うるっさいわ黙れやカカすけ!!!」
「私、誤解してた……サユカちゃんっておもしろいだけじゃなくて可愛かったんだねっ」
「そっちもうるっさいわ涼しい顔して恥ずいこと言うなやっ!! ていうかおもしろいってなにさっ!?」
「サユカンの今の顔が」
「相当おもしろいねっ、あはは」
そんな感じでにぎやかな下校。なんか日に日にうるさくなってく気がする……でも面白いし、いいよね。
それにしてもサエちゃん、本当に言うようになったなぁ。
「今のお気に入りのぬいぐるみの名前はなんていうのー?」
「……クマのぬいぐるみがヒットラー。うさぎのぬいぐるみが……桃缶」
「うわ、カカちゃんみたいなセンスだね」
あーっはっは。本当に言うようになったなーサエちゃん。
そこが好き。