カカの天下815「カカの今年の誕生日、前編」
皆さんは覚えていらしたでしょうか? この子の誕生日を。
忘れていて、かつ20日以内におめでとうを言えなかった人には罰ゲームが待っています。内容はあとがきで。
こんにちは、トメです。
今日はカカの誕生日。あいつも12歳かぁ、などとしみじみ思いつつ、皆と一緒にパーティーの準備です。会場はサカイさんち。毎回アホみたいにはっちゃけるカカの誕生日だけど、カカの希望により普通の路線で行くことになりました。
「ほんとに何の仕掛けもないんだな……」
準備をしながらもついつい確認してしまうのは、あのヘンテコトリオの悪行を知っているからである。いやまぁ、僕の周りって誰が何をしてもおかしくないんだけど。
「ま、もうすぐ大人だとかなんとか言ってたみたいだし。たまにはおとなしくやるのもいいってことか……おーいサカイさん。飾りつけ終わったよー!」
僕はそう一人で納得して、準備作業に戻るのだった。
そしていつものメンバーが集まった。誰が集まったのかは、面倒くさいけど書いてあげよう。
カカサエサユカトメテンカサラカツコサカイキリヤシュータマクララタケダゲンゾウ三兄弟ゆーた動物団だ、わかったかな?
父さんもどっかにいるかもしれない。母さんは仕事、ユカも仕事で来れなかったのだ。とはいえ人数は多め、しかし特別なイベントも何もなく、スムーズに料理が出され、速やかに乾杯のドリンクが行き渡った。
「――それではカカちゃん、お誕生日おめでとー。かんぱーい」
『乾杯!!』
サエちゃんの音頭で始まった誕生パーティー。簡単だけど段取りが決められていて、次はカカから一言、そしてプレゼント贈呈だ。あとは適当に飲んで食べて騒ぐ、という自由かつ適当な展開となっている。仮装もなし、劇もなし、漫才もなし。ここまで普通だと逆に恐くなってくる。
「それではカカちゃんから一言いただきましょー! はい、カカちゃん」
皆の視線がカカへと集まる。
「えーと、みんな! 今日は私のためにどうもありがとう! ところで私、皆が変な肩書きを書いた看板を背負って街を爆走する姿が見たいの!!」
「…………」
沈黙。
「ところで私、皆が変な肩書きを書いた看板を背負って街を爆走する姿が見たいの!!」
繰り返された。
「え、あの、カカすけ? 今日は何もしないんじゃ」
「さっき思いついたの!!」
こいつとんでもねぇ。
「だから看板も作っておいたよ!」
「おいカカ、いい加減にしろ。てめぇ何様だ?」
「今日の主役様」
「……そうだった」
テン、納得すんな。
「あ、あのー、カカちゃん? それはいくらなんでも無茶だよー」
「サカイさんと同じ意見を述べるのは胸クソ悪いですけど同感です。そんなの人としてやっちゃいけないことだと思います」
「皿さんならいいんじゃないですか? 人じゃなくて食器だしー」
「フォローしてあげてるのにその言い草はなんですか! あなたこそナマケモノの一種でしょうに!」
「ねぇ、ところで私、皆が変な肩書きを書いた看板を背負って街を爆走する姿が見たいの!!」
綺麗に三回目が入りました。
「ど、どうする姉」
「あたしに聞かれてもねぇ。ま、いんじゃない? たかがそんくらい」
そりゃ生きてるだけで奇異の目で見られてるあんたは平気だろうけどさ。
「キリヤはどう思――あれ、キリヤ?」
「キリヤならゲンゾウさんたちとお料理しに行ったです!!」
くそ、あいつめ逃げたか。
「よくわかんないですけど、カカが喜ぶならクララ頑張ります!」
おお、クララちゃん。君はなんていい子なんだ。将来絶対騙されるから気をつけろ。
「タマもがんばるでしゅ! ねーおにーちゃん」
「む? 俺は遠慮しておきたいと――」
「ねぇタケダ」
「なな、なんだカカ君!?」
おお、カカが自分からタケダに話しかけるのも珍しい。
「やれ」
「はい」
……あんまり珍しい光景でもなかった。
「シュー君?」
「やります!」
……こっちも珍しくない光景だ。姉相手じゃないんだからもちょっと頑張ろうよシュー君……
「ところで私、皆が変な肩書きを書いた看板を背負って街を爆走する姿が見たいの!!」
ダメ押しの四回目。
「お願いサユカン!」
「おお、ご指名だぞサユカ」
「サユカちゃん格好いいー」
「頑張れサユカ!! いけいけサユカ!」
「え、ちょっ、皆さっき反対してたくせになんで唐突にノリノリになるのよっ!?」
それはね、とりあえず自分以外に矛先が向いたからだよ。
「助けてトメさんっ」
「サユカちゃん、がんば♪」
ごめん。だって僕もやりたくないもん。
「トメさんのばかああああああ!!」
「おおー、いつもならトメお兄さんの言葉なら一も二もなく頷くサユカちゃんが拒むとはー!」
よっぽどやりたくないんだぁ。
「はぁ……仕方ないねぇ」
「姉?」
「あたしが見本を見せてやる!!」
そして姉は、カカお手製の看板を背負った。形はよくある立て看板で、いくつも言葉が書けるくらいに広い。
そして注目の、姉の肩書きとは。
『化け物』
『怪物』
『もののけ王』
『星喰い』
『ポケットに入らないモンスター』
それらがでっかく書かれた看板を背中に刺し、まだまだ夕方で人通りの多い街中を爆走していくカツコさん。
その結果、街の人々の反応は……
「あーまたやってるよ、あの人」
「毎度毎度、変なこと好きだなぁ」
「見て見て、化け物とか書いてあるよ!」
「あー、やっぱりそうなんだ。噂は本当だったのね。納得」
「お、カツコちゃん今度は何したんだ?」
「今日もこの街は平和じゃのう」
戻ってきた姉の一言。
「予想以上に目立たないなコレ。ちょー平気だよ」
や、長年目立ちまくってきたあんたが何やっても大して特別でもないだけだってば。
「じゃ、サユカちゃん!」
「ええええっ! この後にやるんですかぁっ!? 絶対嫌がらせですよぅ!! え、本当にやるのっ? や、いや、いやあああああああっ!」
「……ほら、トメ兄」
サユカちゃんが叫んでる間、実はコソコソと話しかけてきたカカ。えー、マジでやるのかー? 可哀想だよー。でも僕はやりたくないしなぁ。仕方ない。
「サユカちゃん!」
「トメさん、助けてっ」
「僕は、そんなサユカちゃんが見てみたい」
どんなだよって誰かツッコんでもいいぞ。
「わかりましたっ!」
どんだけだよって誰かツッコんでもいいぞ。
というわけで、サユカちゃんが走りました。
気になる背中の看板内容は……
『萌え担当』
『恋する獣』
『尻で世界を征する者』
『目の保養』
気になる街人の反応は……
「なんだアレ。萌え担当……メイド喫茶か何かの宣伝か?」
「そのわりには普通の格好だぞ」
「萌え萌えな格好が見たければ金を払えということか? けしからん! いくらだ!」
「でも恋してるんだよな。好きな相手いるんだろ」
「そうか……頑張ってほしいもんだ。きっとその美しい愛が、汚れた俺たちにとって目の保養になるのサ!!」
「誰だおまえ」
「ひそひそ……ひそひそ……」
戻ってきたサユカちゃんの一言。
「もうお嫁に行けないいいいいいいいっ!!」
どんまいサユカちゃん。ってヘタに言ったら怒られるかな。
「大丈夫だよー、サユカちゃん」
「うぅ……なによぅサエすけ。わたしの人生終わりだわ……街の皆さんに『萌え担当』とか『お尻』とか『ワンコ』とか知れ渡ってしまったわ……最後の『目の保養』の意味がよくわかんないけど、きっと恥ずかしい意味なんだわ……っ」
確かに恥ずかしい。
「ううん、それは看板の表だけのことでしょー?」
「え……っ」
「実は私、こっそり看板の裏に書き加えておいたのー。おっきく、これを」
看板を裏返す。
そこにはこう書いてあった。
『○○町○○番地 笠原留の嫁です、どうぞよろしく』
「待てえええええええ!! なんで事細かに住所まで書かれてるんだぁ!?」
「これならお嫁にいけるからいいでしょー、サユカちゃん?」
「うん」
「うんじゃないしっ!! じゃああれか!? さっきの街人の反応にあった『ひそひそ……』って僕のこと言ってたのか、もしかして!!」
「トメお兄さん、天罰ですよー」
ぐ、さすがは腹黒に定評のあるサエちゃん。僕の『サユカちゃんを身代わりにしちゃえ』思考を読んでいたか。
「さ、次はねぇ!!」
「か、カカ! もうやめないか!?」
「ダメ! もっとやるの!!」
そんなわけで、誕生日=カカの天下になってしまった本日。まだ受難は続くようです。
うぅ、素直にカカにおめでとうと言いたくなくなってきた。
そんなわけで罰ゲーム!
カカにおめでとうを言えなかった、でも言いたい! そんな人は感想欄におもしろい祝いの言葉を書きなさい! そして本編を読んだらわかると思いますが……街を爆走する彼女らが背負う看板の内容を募集!
早い話が先のカカラジ企画の一端です。なにかある人はカカへの誕生日プレゼントと思って投稿してくださると嬉しいです。
もちろん個別にプレゼントだけ渡したい方も書いてくださって結構です^^
あえてほとんど伏線を張らなかったけど、誰か「今日ってカカの誕生日ですよね!?」って言ってくれるのを期待してたんだけどなぁ……残念。