カカの天下813「なんかきたぞ、がんばれタケダ」
やぁ、タケダだ! 今日はちょっと嬉しいニュースを聞いてくれ!
なんと、長年旅に出ていた母上が帰ってきたというのだ。しかも嬉しいニュースと一緒に! その内容は知らないが、なんともわくわくする話ではないか!
母上……会うのはすごく久しぶりだ。浮かぶのは春のイメージ。子供だった俺を優しく包み込んでくれたあの体温、子守唄のように語り掛けてくれた柔らかな声。見つめられると安心してしまう綺麗な瞳。俺が理想とする女性像! いや、カカ君とはだいぶ違うが、それはそれ、これはこれというか。
ともかく! そんな母上と久々の対面。俺も息子として恥ずかしい格好は見せられん。髪をささっと撫でて身だしなみを整え、さらに父上の薄い髪もささっと撫でてやる。うん薄い、母上に釣り合ってないぞ父上。
そんなことを思いながら、父子二人で待ち合わせの場所へと向かう。気分はルンルンだ……なんだ、俺がルンルンとか言ったらキモいか!? いいじゃないかテンション上がってるんだから! 父上なんか「ルンルン」って口に出してたぞ! こっちのほうがキモい!
「どっちもキモい」
はっ!? いま天の声が聞こえたような。誰だ? 誰なんだ!? 気のせいか……まぁいい。いよいよ待ち合わせ場所の公園だ。
いよいよだ、いよいよ……
ああ……
あれが……あの人が母上……
優しく聡明な母上がこちらへ向かって走ってくる……俺も走り始める……感動の再会だ……これは抱擁に違いない、お互いがこんなにも走り寄っているのだから……この歳になると恥ずかしいが、ここは母上に合わせるのが大人の判断だろう。ヘタに意地を張るとKYと呼ばれてしまう、だから俺は仕方なく、その胸に飛び込む!
「母う――」
「おおおおおおおおおおおっす息子ぉぉぉぉ!!」
そしてなぜかサッカーボールのように蹴り飛ばされた。
「やっふううううううううう夫ぉぉぉぉぉぉ!!」
そして間髪いれず父上も同じ方向へ蹴り飛ばされた。
宙に浮き、地面に叩きつけられるまでの一瞬で、同じく飛行中の父上と目があった。
そして目で会話する。「父上……母上ってこんなだっけ?」「変わってないなぁ」「マジで!?」絶望したと同時に地面へバタンキュー。
「いっやぁ悪い悪い! 感動して思わず蹴っちまった!」
な、なんだこのカツコさん二号みたいな人は!
「ちょ、ちょっといいか!?」
あまりの衝撃に痛みも忘れてガバッと起き上がる。
「おお息子、意外と丈夫になってるわね」
「ほ、本当にあなたは俺の母上なのか!?」
そのとき、母上(仮)の後から別の声が。
「おいおい、あんたどんだけ家に帰ってないんだよ」
「うああああああ似たようなのが増えたあああああ!」
「なんだ失礼なガキだな」
だだ、だって母上(超仮)とカツコさんが並んだもん! こあいもん!
「いや、こんなヤツはどうでもいい!」
「ひでぇ」
「俺の母上は、もっとこう、優しくて」
「あたい優しいよ? ボランティアとか参加するし。参加賞目当てだけど」
「もっと、温かくて」
「むしろ暑苦しいとよく言われる」
「俺を、柔らかく抱きしめてくれるかと……」
「甘えるな!!」
「すいません!!」
ええー。なにこれー。俺ってば母親像を美化しすぎてたのかー?
「な、なぁ父上」
同じく吹っ飛ばされたにも関わらずいつの間にか復活した父へ視線を向けてみる。
「あっはっは、微塵も変わってないなぁ」
「やっぱマジなのか!?」
うう、俺の母親像が……ていうか何年ぶりなんだっけ……よくよく考えてみれば顔の記憶すら曖昧だった気が……あまりに接点がないから理想で記憶補完していたのか……
「ところでね、二人とも。紹介したい人がいるのよ」
母上(仮じゃないらしい)が促し、現れたのは……タマ?
「その子が、どうかしたのか?」
「この子、あんたらの娘で妹」
は?
何をとち狂ったことを言っとるのだ、この母上(やっぱ怪しい)は。
「それはめでたい!」
「めでたいのはおまえの頭だ父上!! どんだけ素直に受け止めてるのだ!? そんなわけなかろう」
「わりーわりー、伝えるの忘れてた」
「無いだろそんなこと、常識的に考えて!」
「あるある」
「父上!? あんたがそんなに心広いとは知らなかったよ!」
「あるある」
「カツオは黙ってろ!」
「え、あの、あたし……名前違……」
そんなことはどうでもいい!
なんだ、なんなんだこの人は。こんな無茶苦茶ファミリーなんてカカ君の家だけだと思ってたのに、いつの間にか俺も仲間入りか! これがカカ君と結ばれるための試練だということか! なんとヘンテコな!
「ねーねー、おにーちゃん」
「ぐはぁ! わけのわからん展開にも関わらず心をくすぐる『おにいちゃん』という言葉、侮れぬ!」
「タマは知ってましたでしゅ。あなたがおにーちゃんだと」
「……なに? なぜ」
「なんとなくでしゅ。うん――うん? うん、なんとかを感じたのでしゅ」
運命か……
「そうか、うん○か」
「漏らしたのか」
「待ていそこのバケモノツインズ! そこは普通運命だろうが!」
「いや、○って言ってるじゃん。ここには何を入れてもいいんだよ? 頭悪いなぁ息子」
「それはそうだが! そんな表現をしたら誰がどう見てもうん○だろうが!」
「そうでしゅ、うん○でしゅ」
「ああ、タマまで!」
「にじみでていたのでしゅ」
「その表現やめて!」
「立派なうん○だったでしゅ」
「やああめえええてええええ」
そんな大混乱の再会劇だった。
そして最後に明かされる、衝撃の事実。
「なんか話の内容が下品っぽくなってるから、ついでに言うけどさぁ」
「下品にしたのはあんただろう、母上(仮)」
「うあ、仮ってなに。あはは」
「なぜ笑える!?」
「いやね、あんたの名前はキンジロウじゃん?」
「あまり知られていないが、そうだ」
「頭の二文字をとって、タマちゃんと足すと――」
「黙れ!!」
「いやぁ、我ながら秀逸な名前の付け方だと思うんだよね」
「おかしい! あんた絶対おかしい!!」
「その血があんたにも流れてんのさ」
「うあああああ! タマは納得だが俺はいったいどうすればあああ」
「父親目指せばいいんでない? 多分あっちの血が濃いんだろうし」
父を見る。
「よーしお父さん頑張ってチャーハン作っちゃうぞー。あははー。タマちゃんはいっぱい食べるのかなー?」
「食べゆー!」
「可愛いやつめぇ、あっはっは」
……なんか、アレはアレで大人なんだろうかなんて思ってしまった。やたらと幸せそうだし。
「よし、キンちゃんタマちゃん! 食事の用意するよ!」
「そういう呼び方はやめろおおおおおお!」
ともあれ、俺の家庭はこれから大変そうである。
かつてタケダの名前をキンジロウにしたのはワケがあると書きました。
その理由がついにここで明らかに!!
すげー引っ張ったわりにはとんでもなくしょーもないオチでしたとさ、はい。タケダの家庭もこれから色々あるでしょうが、頑張ってください。
ちなみにカツコさんがああなったのは、小さかったときに若かりしタケダ母さん(そのときはお姉さん)に憧れたからであって、似たようなのが二匹できあがったのは仕方のないことだったりという裏エピソードも。
まぁタケダ母さんいなくてもカツコさんはああなった気もしますけど笑