表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カカの天下  作者: ルシカ
81/917

カカの天下81「猫知識集」

「……む?」


「ん、どした、カカ」


 毎度どうも、トメです。


 買い物帰りに妹のカカと歩いている最中、カカは立ち止まって一点を見つめ始めました。


 その視線の先には――猫。


「……にゃ?」


 そのノラ猫はふてぶてしい表情で「あんにゃコラァ?」とカカを睨む。


 しかしカカも負けずにその猫を睨み返す。


「……にゃあ」


「なにやってんだ、おまえ」


「対決」


 僕が呆れながら聞くと、カカは毅然と言い返してた。


「これは宿題の対決なの」


「宿命な」


 宿題の対決ってなんだ。正解したほうが勝利か。おお、まともな学生っぽい対決だ。


「というか宿命ってなんだ。その猫知ってるのか」


「こないだ私のお魚くわえて逃げてったの」


 どこの魚介類一家だ。


「はだしで追いかけたら愉快なんだよ!!」


 えーっと、どうやってツッコめばいいんだそのボケ。


 とかなんとか思っているうちにも、カカはじりじりと猫との距離を縮めていく。


「サンペイ……勝負!」


「なんだそのサンペイって」


「この猫の名前。私がつけた」


 なんか憎めない名前だなぁ。


「三度もペッて私に唾を吐いたからつけた名前」


 それだけ聞くと憎らしい名前だなぁ。しかし猫って唾吐くのか。


「この……猫のくせに私のイカを……」


「ちょっと待て。おまえさっき魚とられたって言わなかったか」


「イカだって魚でしょ」


 ……いや、まあ、そう、言えなくも、ないか?


「でもさ、そのイカって生だったか?」


「お刺身だった」


「じゃあその猫、腰抜かしたかもな」


「なんで?」


「猫ってな、イカ食べると腰抜かすんだよ」


 加熱処理したものは大丈夫なんだけどね。


 イカにはビタミンB1を破壊する要素が入ってるから、ビタミン要求量が多い猫は正常な歩行ができなくなるんだよね。


 それを聞いたカカがしばしぽかんとして……


「腰をぬかすなんて……サンペイめ。私のイカを盗んだのがそんなに恐ろしいかっ」


 そう言いながら近づいたとき――カカは鼻先にサンペイの爪をくらった。


「カカ!?」


 慌てて駆け寄ると、


「……サンペイめ……サンペイめぇ……!」


「はいはい、血を流しまくりながら涙目で強がるな」


「うううう」


 よほど痛かったのか、ぐずぐず泣き崩れるカカの顔を拭きながら僕は猫を睨んだ。


 おのれ……我が妹を傷つけるとは不届き千万!!


 僕がカカに代わっておしおきしてやる!


「はっ」


 気合一閃。僕が放った「千切ったたまねぎスラッシュ」は見事サンペイの口に放りこまれた。猫にとってたまねぎは血液中の赤血球を破壊する要素があり、貧血、血尿などの症状を引き起こす可能性がある。


 ふっ、買い物帰りの僕と出会ったことを後悔するがいい!


「せやっ」


 さらに僕は生の豚肉を放つ。それは放物線を描いて再び見事猫の口に入った。あまりの命中力にスナイパーもびっくりだ。


 猫にとって生の豚肉はトキソプラズマ症という、成猫には衰弱時以外はあまり意味がないが子猫時にはほとんど死亡するという症状を引き起こす可能性がある。


「よし……安心しろ、カカ。これでこの猫の命運は終わった」


「……どゆこと?」


 僕はこの食べ物で起こされるであろう、猫の症状を語った。


 カカに殴られた。


「そこまですることないでしょう!?」


「で、でもこの猫はカカを血まみれにしたんだぞ!?」


「たしかにこのサンペイは、私をスクラップにした……でもね、でもね」


 スプラッタな。スクラップはやばすぎだろ。


 でも、そうか。そうだよな。


 いくらひどいことをされたって、尊い命だもんな。


「サンペイはね。この私に逆らったんだよ」


 人の勝手で、そんな殺してしまうかもしれないようなこと、するべきじゃないよな。


「だからね、私がこの手で復讐すべきでしょう」


 僕は、そんな心優しい感情を忘れ――


「だからね、それは私がするべきことなんだよ!!」


 そうそう、カカ自身が――って、はい?


「さぁ、サンペイ……この牛乳を受けるがいい!!」


 ざっぱぁぁぁん!! と牛乳をぶっかけられたサンペイはたまらず逃げ出した。いやまぁ、いままで逃げずにいたこと自体おかしい気もするけど。ていうか牛乳もったいねぇ。


 ちなみにカカが牛乳をぶっかけたのは多分、猫は乳糖を分解しきれずに下痢になる、ということを知っていたからだろう。飲ませずにぶっかけてしまうと単なるイヤガラセにしかならないが。


 ん? なぜこんなに僕らが猫について詳しいかって?


 昔、姉が猫を拾ってくるたびにいろいろ失敗してて覚えたからさ。


 その猫たち?


 逃げ出したよ、全員。


 さすが姉。猫にもわかるその怖さ。


 みなさんも気をつけましょう。


 姉に? 猫に?

 

 両方に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ