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カカの天下  作者: ルシカ
803/917

カカの天下803「回想、夏休み後半にて」

 カカです。今日は夏休みの宿題をする日、頑張って算数ドリルに向かっていたのですが、どうにも集中できません。


 そんなわけで、暇潰しにカカドリルを作ってみました。テンカ先生にやってもらおっと。や、その前にトメ兄かな。


「んっと、『ニシカワ×アヤ=』っと。答えは『ラブラブバカップル』か『元気な子』か、どれにしよっかなぁ」


 着々と問題ができていきます。


「あとは『サユカVSテンカVSサラ=』っと。この答えは時期によるね。『サカイ−サエ=』で答えは『なんかおもろい悲劇』っと。『カツコ+サカイ=』は答えが恐い……『シェー=タケダ』ってこれは問題じゃないや。あれ、あの人の名前ってシェーだっけ、ショーだっけ」


 次々とできていく私的ドリル。


「最後の問題は……『トメ+カカ=』っと」


 トメ兄はなんて答えてくれるだろう? ちょっとわくわくしてきた。


「よし、完成!」


 早速トメ兄に見てもらおう! 私は早足で自分の部屋を後にした。


 居間へ行くと、ちょうど仕事から帰ってきたトメ兄が!


「ねぇねぇトメ兄! ちょっとこれやってみて!」


「あん?」


 私的ドリル(ノート)を受け取ったトメ兄は、ぱらぱらとページをめくっていった。


 そして最後のページで手が止まる。


「ね、面白いでしょ! 最後の問題の答え、何になるかな」


 期待していたトメ兄の返答は!


 深いため息だった。


「おまえさ、いつまでこんなことしてるわけ?」


「……え」


 予想外の言葉に呆然としてしまう。


「おまえ、もうすぐ中学生になるんだぞ? いつまでそんな幼稚園児みたいなことして遊んでんだよ」


 トメ兄の、冷たい目。


「変だ変だと呼ばれる妹を持つ僕の身にもなってくれよ……恥ずかしい」


 震える。


「おまえはなんで平気なんだよ。変って言われてるんだぞ? バカにされてるんだぞ? 恥ずかしくないのか」


 寒い。


「宿題やるって言ってたよな。じゃあおとなしくやってろよ。余計なことすんな」


 胸がイヤナモノでいっぱいになる。


「もう少し普通になれよ」


 私はただ……


 ただ……なんなんだろう?


 私は何をしたかったんだろう。私はいつも何をしてたんだろう。


 変っていうのは、ダメなことなの?


 私は、ダメなの?


 『カカ+トメ=』の答えにうきうきした気持ちは冷え切って、凍り、重さを持って私を押し潰す。


 重い、痛い、嫌だ。


 嫌だ。




 そんな、夢を見た。


「……あれ、カカ。寝たんじゃなかったのか?」


「今日も一緒に寝る」


「またか? おい、夏だってのにここんとこ毎晩くるじゃないか。暑い暑い文句を言ってるのは誰だよ」


「いーじゃん」


「でもなぁ、小さい子じゃあるまいし」


「いーじゃん!!」


 私は強情を張る。そうすればこっちのトメ兄は、「やれやれ」とか言いながらも頷いてくれるんだから。私が自由に暴れても、ちゃんとツッコみながら受け入れてくれるんだから。


 夢の中のトメ兄は嫌い。


 あのとき、テンカ先生の家庭訪問で聞いた言葉。そこからだ、夢を見るようになったのは。


 ――カカが中学で無事にやっていけるかってことだろ? もちろん心配だ。


 ――世の中にはな、冗談が通じる大人ってヤツは少ねぇんだ。てめぇの妙ちきりんな行動が必ずしも受け入れてもらえるとは限らねぇんだぞ?


 トメ兄はフォローしてくれると言った。大丈夫だ、とも言ってくれた。


 でも、そんなに私は変?


 なんでもかんでも楽しければいいと思って、今まで自由にやってきた。思いつきに任せていろんな騒ぎを起こしてきた。すごくすごく楽しくて、幸せだった。


 でも、それは私だけだったのかな。


 何も知らない他人が見たら、ただの変なヤツにしか見えなかったのかな。


 自分がよければいいと思ってた。周りが笑っていればいいとも思ってた。でもそれは、私をバカにする笑いだったんだろうか。そう思うと、すごく、悲しい。


「はぁ……ったく、しょうがないな。いいぞ」


「やた」


 わからない。もやもやする。でもバカにされるのは嫌だ。


 『この歳で幽霊が恐い』なんていうのも普通じゃないのかと思って、治そうとしたけど無理だったし。


 『普通』になるにはどうすればいいんだろう。トメ兄にも誰にも心配されないような『普通』の子に、一体どうすればなれるんだろう。


 今までこんな風に思ったこと、なかったのに……中学生になるのが恐いせいだろうか。


「悩みとか、あるなら言えよ?」


「んーん、そんなんじゃないよ。たまにはいいじゃんと思ってさ」


 わからないけど。


 今はただ、優しいトメ兄に甘えておきたい。




 ――そんな、夏休みの一コマがあった。そして私はどんどん『面白いこと』が思いつかなくなっていった。でもそれが『普通』ということなんだろうか。


 わからない。




 自分が周りからどう見えるのか。


 それがむしょーに気になる時期、誰にでもありますよね。カカにもそんな時期がやってきたということです。


 変だ変だと言われ続けたカカは、どういう答えを出すのでしょうか。はてさて……


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