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カカの天下  作者: ルシカ
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カカの天下8「文化の日に売るものは」

 今日は文化の日です。なので文化なトメです。すいませんいつもと違いはありません。


 ――さて。我が妹、カカの通う小学校では毎年その日にバザーをやっています。


 各自が適当に家のものを持ち寄って小学生らしいお値段で商売するわけだけど、値段の割りに意外といいものが転がっていたりする。特に苦し紛れに親がもたせた生活用品なんかはねらい目だね。お子様にはその価値がまったくわからないので、家事をする人には非常に助かったりする。


 そういうわけで。一応家のことを多少はやっている身として、そして兄として僕も久々に小学校へ赴いてみたわけだ。


 子供とその家族による喧騒を掻き分けながら、僕はカカの教室へたどり着いた。


 扉をくぐり、中に入る。いつも教室を埋めている机は片付けられ、売る側と買う側を分けるため、そして商品を上に乗せるためだけにいくつかが使われている。椅子を全て片付けた、という理由もあるだろうけど、机を並べ替えるだけでよくここまで広いスペースにできるもんだ。


「お、トメ兄」


「よう」


 机の向こう側にカカを発見。ねじりハチマキを頭に巻いて『商売繁盛!』と殴り書きされたTシャツを着て、なぜかバナナを持っている。


「……そんなシャツあったっけ。あとそのバナナって売りもんか」


 テコテコと寄ってきたカカは、あっけらかんと答えた。


「や、シャツは作った」


「待て待て、よく見ればそのシャツ僕のだろうが」


「だって自分のシャツに落書きなんかされたくないでしょ?」


「その言葉、そっくりおまえに返す」


「あと、バナナは今から叩くところ」


「待て待て待て、バナナの叩き売りって言いたいんだろうが意味が違う」


「バナナで客を叩いて買わせるんじゃないの?」


 一体どんな脅迫商売だそれは。


「あのな、バナナの叩き売りっていうのは、芸とか口上を巧みに使ってとにかく客を集めて、少しずつ値段を下げたりしながら物を売ることを言うの。昔、そうやってバナナを売った人がいて、それが有名になったのが由来ね」


「ほー」


『ほー』


 いつのまにか教室中の生徒が感慨深げに頷いていた。なんだおまえらは。


「聞きましたか? 皆さん」


 そしていつのまにか担任の先生であり、最近いい年になり、行き遅れと噂の竹先生が。


「カカさんのお兄さんのお話は大変勉強になりましたねー? でわでわ皆で頑張ってバナナを叩き合ってみましょー」


『はーい』


 子供達は元気よく返事をして、各持ち場に散っていった。


「さてさてー私は人数分のバナナを用意しなければ」


「お待ちになって先生! あなた僕の話聞いてなかったでしょっ」


 本当にバナナで叩き合って戦争でもする気か。なんかそれはそれで楽しそうだけどさ。世の中にはトマトを投げあう世界的に有名な祭りとかあるし。でもそんなバナナ戦争したら間違いなく掃除がめんどくさいぞ。


「あのですね先生、バナナはいりません」


「そんなバナナ!」


「話を聞け!」


 ……先生に叩き売りについてもう一度説明しなおすのに、三十分もかかった。




 そして気がつけば―教室の中は叩き売りというものを自分なりに実践している生徒で溢れていた。


「へいラッシャイ! 活きのいい雑誌だよ! ピチピチだよ!」


 などと、男の気を引きそうな口上を述べている女子やら。


「さぁ! この呪いの人形、効果は本物だよ! ちょっと実践してみますね。僕の毛をここに入れて、くいっと腕を曲げるとおお! 腕が勝手に動くぅ。足を動かすと足が、っとっとっとうわああ!」


 などと、どこから出したのかわからん毛を入れて芸を見せながらバランスを崩して女子に突っこんでいく男の子やら。あ、抱きつこうとしてビンタされた。でもなんか嬉しそう。


「さぁ、ここで掘り出し物の登場だ! お父さん必見。年頃の男の子のベッドの下に隠されたワンダーランドをごらんあれ」


 などと、兄のでもかっぱらってきたのか教育上不適切なものを売ろうとしているカカやら。


 ……ん? カカ?


 HAHAHA!


 兄って僕のことやん?


 さあ走り出そう。


 一時でいい、カモシカとなれ我が脚よ。


 神器たる武器、バナナもて。


 我が敵を討ち滅ぼさんために。

 



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