カカの天下794「夏の夢」
こんにちは、トメです。
今日はカカと一緒に墓参りに来ました。お盆の定例行事ですね。
「ねぇトメ兄。ちょっと聞いていい?」
「んー?」
僕はお墓の世話をしながら、後ろでボーっと立ってるカカ答えた。
「このお墓ってさ、ご先祖様がいるんだよね」
「そうだぞー」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも眠ってるって、言ってたよね」
「ああ、小さい頃にそういう話したな」
「でも、お祖母ちゃん生きてたよね」
ぴたり、と一瞬だけ手が止まる。しかしすぐに作業再開。
「まぁでも、お祖父ちゃんはいるさ」
「お祖父ちゃんって忍者?」
「……うん」
「生きててもおかしくないんじゃない?」
「……そう、かも」
カカの言いたいことはわかってきた。
「ここってさ、お父さんのご先祖様のお墓なんだよね」
「ああ」
「全員忍者だよね」
「おう」
「じゃあここ、誰も入ってないんじゃない?」
やっぱりカカもそう思うか。僕も薄々は思ってたんだが。
「じゃ、無駄なことやめて帰ろう。アイス食べたいんだ私」
「待て待て、もしかしたらお墓に入った人もいるかもしれないだろが」
コンコン。
「もしもーし、入ってますかー?」
「トイレかよ」
これでノックが返ってきたら恐ろしいけどな。
「っていうかさ、カカ。おまえ幽霊が恐いんだろ。そんなことしていいのか」
「いいよ。おりゃ!」
がすっとお墓を蹴り上げるカカ。
「おい、それはいくらなんでも」
「トメ兄がやれって言った!!」
「言ってねぇ!!」
――そのとき。
突然響いたおどろおどろしい声に、僕らの背筋が凍った。
「うーらーめーしーやー……」
どこからともなく聞こえてくる声、しかしその類が一番苦手だったはずのカカは立ち向かった。恐怖を乗り切り、挑戦的に言ったのだ!
「うらめしやってどういう意味!?」
「わからん」
幽霊もバカだった。
「あたしが最初に聞いたときは、裏の飯屋かと思ってワクワクしたもんだ」
バカは姉だった。
「姉、あんたも墓参りか。来るなら最初から言えよ」
「驚かそうと思ってさぁ」
確かに驚いた。うらめしやの意味を知らないこととか。
「そういや姉も、幽霊とか見える人だったよな」
「ん、まぁまぁ見える」
「いまカカがお墓を蹴っちゃったんだけどさ、幽霊が怒ってないか見てくれるか?」
姉は目を凝らした。本当に見えてるかは知らないが、なんとなく安心がほしい。
「どうだ、怒ってないか?」
「気持ちよさそう」
「ドMの家系か」
あの父にしてご先祖あり、だな。
――そのとき。
僕が罰当たりな発言をしたせいか、周囲の温度が急激に下がった。そして今度は姉ではない、女性の声が……
「うーらーめーしヒク!!」
恐ろしげな声は一転、可愛らしくなってしまった。
「やーんしゃっくりしたぁ。ヒク!」
「母さん……」
「トメ君、ヒク!」
「そんな挨拶初めて聞いた」
「あ、お母さん。ひく!」
「よぅ母。ひっくー」
そしてすぐに浸透する新挨拶。つくづく愉快な家庭だ。
「ねぇお母さん。このお墓、誰も入ってないかもしれないんだよ。帰っていーい?」
「あらあらダメよカカ君。お墓参りっていうのはね? お墓に誰がいるかよりも、亡くなった方々を想うことが大事なのよ。だからちゃんと、お世話はしなさい」
「「はーい」」
さすが我が家最強の人。カカも姉も素直に頷いて、僕の代わりにお墓の世話を始めたではないか。
「僕の仕事がとられちゃったよ」
「ヒク!」
「ねぇ母さん」
「ヒク?」
「姉じゃないんだから変な生物っぽい返事はやめてください」
「あはは、トメ君は相変わらず手厳しいね」
母さんは相変わらずマイペースですね。
「想うことが大切、ね。母さんの家族の墓は、まだわかんないの?」
困ったように笑う母さん。まだ、か。
ここだけの話、母さんは捨て子のようなものだったらしい。小さい頃に身寄りのなくなった母さんを拾ったのが、現在所属している会社の社長だとか。漫画みたいな話だし、作り話かもしれない。母さんは苦労話のようなことは、ほとんど口にしないから真実はわからない。だけど母さんが『母子家庭から身寄りがなくなった』という身の上だけは聞いている。
「母さんの母さんも、戻ってきてるのかね。お盆だし」
「そうね、多分」
お墓はわからない、行方もわからないらしいけど……母さんは、自分の母が亡くなったことは知っているようだった。理由はわからないけど、ほぼ確実らしい。
「おもしろい人だったのよ」
「カカの血はそれか?」
「ふふ、かもね。でもおっちょこちょいでもあったの。クリスマスの夜、娘にプレゼントを枕元に置こうとして、私の顔面に躓いて転ぶような人だった」
痛い。聞いてるだけで痛い。でも母さんの母、というかカカの祖母ならやりそうだった。
「でね、私は起きちゃうんだけど、お母さんはそんなこともあろうかとってサンタの格好をしててね」
「自分の特性をよくわかってたんだな」
「私が『おかーさん?』って聞いたら、すごく慌てて『違うアルヨ!!』とか言っちゃって。『ワタシおかーさんじゃナイヨー! サンタヨー! 名前はサンタデスヨだよー。苗字が三田で名前が出素夜ヨー! 字はこう書くヨー』とか言っちゃってね」
「…………」
「すごく面白かったから、そのときのことだけはよく覚えてるの」
「……そっか」
「カカちゃんたちと遊んだら、きっと楽しいことになってたんだろうなぁなんて。ときどき思うの」
「今はお盆だから、きっと来てるよ。孫の顔を見に……ついでにカカと夢の中ででも遊んでるさ」
「ふふ、そうかもね」
さて、我が家の謎が一つ解けたところでお墓の様子はどうなった?
……あれ、さっきまで墓の世話をしていたカカと姉の姿がない。
「ねぇ母さん」
そして振り返ると、母さんの姿もなかった。
「あれ?」
誰もいない。周りに、誰も。
「白昼夢、か?」
まさか。
でもそれから――ちょっと遠くで遊んでいたカカに聞いたら、姉にも母さんにも会ってない、お墓の世話が面倒だからずっとここにいた、というし。
そういえば、あの恐がりなカカが墓を蹴った時点でおかしかったような。
これ、怪談?
まさか、ねぇ。
なんとなく恐くてモヤモヤと過ごした翌日、やっぱり家族らのイタズラだったと判明。あーびっくりした。やっぱり愉快な家庭だよ、なぁ祖母ちゃん?
皆さん、ひっくー。
お盆は過ぎてるけど、これはお盆の話ヨー。脳内補完よろしくヨー。
お盆の後のお話も頑張って書くヨー。
出素夜ー!
ヒク!