カカの天下792「お盆ですからこんな話も」
「怪談をしよう!」
こんにちは。最近は本当に夏らしくない天気ですよね、トメです。だからといって僕がこんな、らしくないことを言うはずもなく。
「カカちゃん、怪談は苦手でしょー」
「いつもだったら真っ先に嫌がるくせにっ」
我が家へ遊びに来ていたサエちゃんとサユカちゃんが呆れながら言う。僕も同感だ、しかしカカは雄々しく叫んだ。
「人生は戦いだよ! 苦手なものは克服しなければならない。この夏休み、私は自分の弱点と向き合う決意をしたんだよ!!」
おお、すごい。カカが立派なことを言うなんて!
「本音はー?」
「暑くてだるいからヤケになった」
オイ。
「もうさ、なんかさ、扇風機じゃ足りないしさ、風鈴なんかテルテル坊主と似たようなもんだしさ」
それは形を言っているのか、それとも気休めと言いたいのか。
「もうここは怪談しかないってわけよ!」
そして後悔するオチですね、わかります。
「というわけで、はいサエちゃんからどうぞ!」
いきなり振られたサエちゃんは「あははー」と困った顔になったが。
「ふふふー、じゃーとっておきのお話を。これは昨日あったことなんだけど」
随分と身近なとっておきですね。
「キリヤとユカさんが公園のベンチに並んで座ってたんだけどー……」
『あーあー暑い! なんでこんなに暑いのかしら。キリヤ、なんとかしなさいよ!』
『わかりました』
……ぎゅ。
『こ、こら! なおさら暑くなったじゃないの』
『ふふ、ごめんなさい。つい意地悪をしてしまいました』
『暑いってば』
『ではやめますか?』
『ばか!』
『どういう返答でしょう?』
『……わかれ、ばか』
『はい』
ぎゅー。
「熱いよ!!」
「でも聞いてるほうは寒いわっ!」
「っていうかうざい! その二人うざい!!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ僕たちを、サエちゃんは満足そうに見ていた。どうでもいいけどサエちゃんはずーっと涼しい顔してるのな。
「で、でもこれってホラーなのかしら?」
「ホラーだよ!!」
……そうか?
「よぅし、言い出しっぺは私が次を行くよ! んとね」
『やぁ、僕トメ! なんで今さら自己紹介してるんだろうね、あっはっは。あれ、どうしたんだい姉?』
ぎゅ……
『あ、姉?』
『ね。もっと、ぎゅーっとして』
「ホラーだー!!」
「ホラーよっ!!」
紛れもなくホラーだ!!
「カカてめぇ僕を殺す気か!?」
「涼しくなったでしょ?」
「心臓止まって冷たくなるところだったわ!!」
想像するだけでここまで震えがくるホラーが他にあろうか。いやない。映画にでもすれば間違いなく世界一恐いホラーとして注目を浴びるに違いない。もしくは誰もが目を背けるに違いない。
「じゃあ次はサユカンね」
「えっ!? き、急に言われても……」
「サユカちゃんってこういうアドリブきかないもんねー。じゃートメお兄さんどうぞ」
「は? ぼ、僕だって急に言われても」
「仕方ないなぁ。じゃあ私が二人のホラーを考えてあげるよ」
カカさんや、その発言なんかおかしくないですか。
「んとね……」
『トメさんっ!』
『なんだい、サユカちゃん』
『ちゅーしたいのっ、ちゅーしたいのっ』
『仕方ないなぁ。ちゅっ』
「ホラーだ!」
なんでだ。
「その後の展開が気になるところだねー」
「うーん、サユカンが『嬉しすぎてスッポンポーン!!』とか叫ぶのはどうかな」
「それいーねー」
「よくねぇよ。サユカちゃん、なんとか言ってやれ」
「イイ!!」
いいのかオイ。
「じゃなくて、なななななんて話を作ってるのよっ」
「あれま、気に入らなかったか」
「カカちゃん。じゃー配役を逆にしてみよー?」
『ちゅーしてサユカちゃん。ちゅーして、ちゅー』
『仕方ないわねぇ。ちゅっ』
『えへへ。トメぽん嬉ちい!』
「ホラーだああああ!!」
「トメぽおおおーん!!」
殴りたい。こいつらすっごく殴りたい。
「なぁサユカちゃん?」
「イイ!!」
ダメだこの子。
「あのなぁおまえら」
「なに? トメぽん」
「どうしましたトメぽんお兄さん。ちゅーしてほちいんでちゅか?」
「わたしはハイ喜んでっ!」
ダメだこいつら。どうしてくれようか……ん。
「あれ、いつの間にやらクララちゃん」
『うお!?』
そう、誰も気づかないうちに僕らの輪へ入って話を聞いていた少女が一人。
「はい、クララ参上です! 気になる話が聞こえたのでやってきました」
「気になる話ってどれー?」
「トメぽんです」
お、ま、え、も、か。
「というのはくだらない冗談なのですが」
なんでどいつもこいつも殴りたくなるようなこと言うかね。
「かいだん、というのが気になったのです!」
あれ、そういえばこれ怪談だっけ。すっかり忘れてた。
「とりあえずクララ、異様に転びやすい階段なら知ってますけど」
階段の話なのか怪談の話なのかハッキリしろ。
「あのねクララちゃん、怪談っていうのはね」
僕が親切にも教えてあげようとした、そのとき。
クララちゃんの視線が誰もいない方向に留まっていた。
何もない場所を、まるで誰かと目を合わせているかのように見つめたまま……
「あ、どもです」
クララちゃんはお辞儀した。
その視線は横へ移動して、そのまま玄関へ。
まるで誰かを見送ったようにもう一度お辞儀してから、クララちゃんはようやく僕らのほうへと視線を戻した。
「それで何の話でしたっけ。あ、クララ思い出しました! かいだんってなんですか?」
今のそれです。
「綺麗な人でしたねー」
サエちゃんそれ誰のこと?
「「あ」」
カカとサユカちゃんが口を開けてぽかんとしている中、どうやら『見える』らしいサエちゃんとクララちゃんが同時に玄関の方を見た。まさか戻ってきたのか?
その視線はそのまま移動して……
カカが座っている位置で止まった。
「……え? え? なんで私を見てるの?」
「入っちゃったー」
「な、なにが」
「幽霊のお姉さんがカカの中にです!」
カカが爆発した(イメージ)。
その勢いで自分の部屋へと飛んでいった。
僕らは慌てて追いかける。そしてカカの部屋を覗くと、そこにはミノムシがいた。
「あ、あの。カカすけっ?」
「ミノムシは喋れません!」
「喋ってんじゃん」
いつだったか、前も見たような光景だ。カカは季節外れの毛布やら厚布団やらで自身を覆いまくり完全ガード。おそらく押入れから出したんだろうけど。
「暑い死ぬ暑い死ぬでも出たら死ぬし出なくても死ぬうおおおお」
無理すんな。
「まったくもー、せっかくカカちゃんが恐がらない程度の怪談にしてあげてたのにー。どうしてくれるのクララちゃん」
「いや、サエすけだってノってたじゃないの」
「トドメをさしたのはクララちゃんだよー」
「クララしょっくです! ところでカイダンってなんですか?」
あーもう、この子らは……
「はいはい、こいつは僕がなんとかしとくから。そろそろ皆、帰る時間だろ?」
『はーい』
カカがこういう風になるのも慣れたもので、彼女たちはさして気にすることなく帰っていった。
僕もそんなに気にしなかった。
――しかし、その夜。
「一緒に寝よトメ兄」
「マジかよこんなに暑いのに」
「恐いから一緒に寝よ」
こうなるとは思わなかった。さすがはカカ、いくら慣れても予想を上回る。
「ぎゅー!」
いや暑いんですけどホント。
お盆ですので怪談の一つでも……と思ったら一つもないこの現実。だってカカ苦手だもん。
でもまぁこんな展開ですので、次の話では兄妹のベッド内の攻防をお届けします。
ああ、でも墓参りもさせないと。
皆さん、墓参りしてますかー?
私はもちろんしてません(ぉぃ
多分、一日くらい寝ないで行くとは思いますが……もし行けなくても頑張ってる姿を見守ってもらうってことでいいですよね。というかよしとしましょう。うん。なるべく行くけど。