カカの天下791「まさかの連続、がんばれタケダ」
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「あ、なんか踏んだー」
…………!?
「ぎゃあああああす!!」
あまりの痛みに生き返った!? どうもタケダです!
「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思った。ていうか死んでなかったか俺」
「どしたのー?」
どうやら俺を(踏んで)生き返らせてくれたらしいのは、通りすがりっぽいサエ君だった。周囲を見渡すとカツコさんとタマはいなくなっている。どうやら俺を放置して帰ったようだ。しどい。
「ねーねー、どしたのー?」
「あ、ああ! 聞いてくれサエ君!」
「やっぱいいやー」
「きーいーてーくーれーよー!」
「だってタケダ君、暑苦しいんだもん」
む、そうか。今は夏だからな。暑苦しいのは嫌われる、当然のことだ。今後カカ君と会ったときのことを考えて涼しげなタケダを練習しておかなければ。
涼しげ爽やか、俺は髪をサッとかき上げた。
「ふ、サエ君。実はな」
「なんかムカつく」
「な、なにぃ! せっかく涼しげにしたというのに」
「涼しげっていうのはこういうのを言うんだよー」
サエ君は髪をかき上げた。しかし俺のように前髪を払っただけではなく、首筋から……腰まで届くほどの黒髪が、指に絡まることなくさらりと流れる。そよ風に乗り、日光を浴びてきらきらと輝くその髪は――
「まさにシャンプーのCM!」
「……もっと他にないの?」
涼しげ、というより冷たげな視線が俺へと突き刺さる。
もちろん俺の豊富な語彙を使えば表現はいくらでもできたろう。しかし真面目にそのようなことを考えると、何を口走ってしまうか不安になったのだ。だって、その、髪をかき上げたときのサエ君の流し目で異様に動悸が激しくなってしまったのだから! 涼しくなるどころか熱くなってしまった! なんだあの色気は! 君は小学生だろう! これが噂に聞く魔性の女というやつか! あなおそろしや! 俺が好きなのはカカ君だぞ!
「まぁいいやー。それで、どうしたの?」
「ああ! 実はな!!」
なんとなく後ろめたいことを考えていたような気がした俺は、逃げるように話題を戻した。先ほど我が身に起こった恐ろしい衝撃(一箇所に集中)を語りまくる。そしてサエ君は優しく微笑んだ。
「大変だったね、タケダちゃん」
「俺はまだ男だ!」
男たる象徴は死んでいない! きっと!
「ともかくー、タケダ君はいま、暇なんだね」
「そうだが」
「じゃ、デートしよっかー」
「HA!?」
デート、それは子供なら誰もが憧れるスペシャルなイベント! 俺も幾度と泣く、じゃなくて幾度となくカカ君とのデートを夢見て、そして夢の中にも関わらずフラれてきた。やっぱ泣く。そんな俺が、デートだと? しかも意中の子の親友と!?
「とりあえずジュースでも飲もっかー」
「お、おう」
「タケダ君、買ってきてー。こういうのは男の子が出すもんだよねー」
「お、おう」
未だ戸惑いの中にいる俺はバカみたいにコクコク頷き、サエ君が好きそうな甘いジュースを買いに公園の自販機へと走る。
数分後、サエ君のもとへ戻った。
ペットボトルのジュースを渡すと、サエ君はこっくんこっくんと遅いペースながらも一気にそれを飲み干した。よほど喉が渇いていたらしい。
「デートおわりー」
「君は喉が渇いていただけか!?」
「当たり前だよー」
「当たり前なのか!?」
ときめいてしまった俺の心はどうなる!
「じゃ、ごちそうさまー。またねー」
「そして爽やかに去っていく気か!?」
「涼しげでしょー」
「確かにな!!」
はぁ、今日はさんざんな一日だった。俺っていったい……
「タケダくーん」
「今度は食事か!? 奢らんぞ」
「あははー、ちゃんと生き返ったねー」
「……はい?」
「元気になってよかったよかったー。じゃ、また頑張って面白いことしてねー」
そう言ってウインクなんかを残して去っていくサエ君を、俺はポケーっと見送ってしまった。
元気づけてくれたのか? いや、そんなバカな。でも俺、なんだか元気になってしまっているような気がする。
本日の教訓。
可愛い女の子は恐い。そしてズルい。タマ含む。
哀れすぎるタケダを少し救済。
さて、これで再び叩き落す準備が整った(外道
でもそこまでタケダを連載するのもアレなので、このくらいで勘弁してあげましょう^^
それにしてもお盆ですね。お客さんぱねぇ。
一年の内でもトップクラスな忙しさでハイになった店員のあやしい笑いが止まらない季節です。
行き着く先が灰なのは間違いない。
立てよ飲食業、今こそ我らの稼ぎ時だぁ!!