カカの天下790「そこは痛いよ、がんばれタケダ」
やぁこんにちは、俺はタケダだ!
世間は夏休みの真っ只中。俺も休みを満喫すべく、友人連中に声をかけまくってみたのだが……
なんと、どいつもこいつも宿題の最中で遊べないというのだ!
聞けば、かの教師はトイレに呪われているという。それと同じように俺は夏休みの宿題に呪われていたのだ! ええぃ宿題め、夏休み初日に終わらせてしまったからといってこのような暴挙に出るとは! なに? 単に友達からハブられているだけじゃないかだと? 黙れ小僧! おまえに俺が救えるか!?
ともかく、前述したとおり宿題もないので俺は暇なのだ。子供たるもの遊ばなければ。さしあたって公園に来てみたわけだが……
「知り合いが誰もいない」
どいつもこいつも宿題だ。いつからそんなマジメになったのだ貴様ら。
「ぬぅぅ……お?」
懲りずにうろうろしていると、ようやく知っている顔を見つけた。あれは確かタマという頑丈な子供だ。ものすごい勢いでブランコに乗っている。振り子の幅が180度を超えている。
おお、そのブランコからタマがすっぽ抜けた。
撃ち出された弾丸のように飛行して、鉄棒に腹から激突した。
タマの身体が『く』の字に折れ曲がる。
やはり頑丈だ。
「っておい! 生きてるのか!?」
ぼと、と落ちたタマに慌てて駆け寄り、ピクリとも動かないその身を抱き起こす。
「タマ! 気は確かか! 頭は大丈夫か!?」
俺の声が届いたのか、タマの目がくわっと開いた。
「しぬほどいたい」
「当たり前だ!」
これで痛くなかったら逆に身体がヤバそうだ。
「でもだいじょぶでしゅ」
服に付いた砂をパンパンと払いながらムクリと起き上がるタマ。やはりこの子は異様に丈夫である。
「一人で遊んでいたのか?」
「うん」
「そうか……そうだよな、君のような子供なら夏休みの宿題などあるわけないしな」
「あるでしゅよ、しゅくだい」
「む?」
「かつこさんからの」
かつこさん? ああ、この子のお母さんか。しかし他人行儀な呼び方をさせているな。
「どんな宿題だ?」
「うでたてふせでしゅ」
何の選手に育てるつもりなのだろう。む、待てよ? そういえばいつぞや、そのカツコさんにやたらと腕立て伏せをさせられた記憶が……
「たけだ、あそぶ?」
「む、ああ。よし、遊ぶか!」
俺は心優しいなぁ、ふっふっふ。これを機にカカ君と更にお近づきに、とかは思っていないぞ。念のために言っておくが。
「じゃーおうまさんやるでしゅ」
「お、おうまさんか。外でやるにはキツイ種目を出してくるな」
なにせ下は地面だ。膝を付くのは少々痛いが……ここは我慢だ。
「よーし、馬になるぞ」
「てい!」
タマは待ちきれないのか、柔道っぽい投げ技で綺麗に俺の身体を横に転ばせた。はっはっは、子供はせっかちだなぁ。しかしこんな技を使う子供は初めて見た。まぁ、アレの子供だしな。
「よし、それではお馬さんになるぞ」
「のるでしゅ!」
……なぜ俺は仰向けなんだろう。なぜその腹にタマが乗っているんだろう。
「おいタマ。上下が逆だぞ、これではお馬さんになれない」
「すわってないで! たっておうまさん!」
この状態でか!? ブリッジというやつだな。よぅし、俺も男だ。やってみようではないか。
「てい!」
ぶち。
どこかの筋肉が千切れ、一瞬だけ浮き上がった俺の身体はべちょっと落下した。
「やはり無理だ!」
「しゅーはいつもこれでしゅよ?」
シューさん!! 本当にいつもご苦労様だ!
「こういうときはおしりをたたけばいいんでしゅよね。はいよーしるばー」
もう一度言うが、俺は空を向いた状態でタマに乗られている。
なので、タマがお馬さんをやっているノリでお尻を叩こうとすると?
キン!! とソコに当たるわけで。
「ぬおおおおおお!」
世界の猛毒が骨の髄まで全力疾走!(俺のイメージ)
「あれ、うごかない。もいっかい」
キン! キン! 金!
「はいよーしるばー」
「そ、そこはどちらかというとごーるど――ひぎぃ!!」
絶望した。生きることに絶望した。そんな痛みが脳内を支配する。
「タケダが使えなくなったでしゅ」
「そ、その言い方だけは……やめて、く、れ」
俺は力つきた。正確には俺のゴールデンが力つきた。
でもちゃんと復活してくれよ? おまえには夢と希望が詰まっているのだから!
「おうまさんやめたでしゅ! あ、ふんじゃったでしゅ」
俺の夢と希望がああああああああああ!
「ぶらんこやるでしゅ」
あ、ああ、ああ……
だれ、か、たすけ……
「おおタマ! あたし仕事終わったよー!」
「かつこさんでしゅ!」
「うおおおおおお! 今行くよタマ! 大爆走だあああああタマあああああ! あ、玉踏んだ」
俺は死んだ。
もう涙で前が見えない。