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カカの天下  作者: ルシカ
785/917

カカの天下785「楽しかった日々の終わり」

 カカです。


「ふぅ……」


 かつて自分の席だった場所、その机を撫でながら、私はため息を吐いた。


 静かな教室。物音一つしない。聞こえるのは私の呼吸だけ。


 誰もいない。私以外には、もう誰も……ここに入ってくる生徒なんて、もういないのだ。


 思い出すのは楽しかった日々。サエちゃんがいて、サユカンがいて、その他大勢がいて。テンカ先生がいて。


 何気ないようで、退屈なようで、でもとても幸せな時間を過ごしていた。ここで。みんなで。


「懐かしいな……」


 目を細める。自然と口元も弛んだ。温かな思い出が際限なく蘇る。


「いろんなことが、あった、な」


 ずっとずっと、こんな生活が続いていくんだと……微塵も疑うことなく信じていた。


 でもそれは間違いだったのだ。時間は進んでいる。私は成長するし周囲だって刻一刻と変わっていく。学年が上がっていき学期を超えて。やがて卒業し、大人になる――これは避けられない現実なのだ。私は、それを受け入れなければならない。


「でも、もう」


 終わっちゃったんだ。あの生活が。


 そう思うと、その現実が悲しい。


 寂しい。


 わがままだとはわかっている。サエちゃんもサユカンも、見知った友達は誰一人としてこの学校にはもういないのだ。でも――だからこそ思わずにはいられなかった。あの日々をもう一度、と。


「無理なんだよね」


 そうなんだ。無理なんだ。時間は戻らない。


 本来なら私だって、ここにいて良い立場じゃないんだ。気が済んだらすぐに帰らないと。でも、もう少しだけ教室を見ていたかった。自分達の長くを過ごしたこの場所を。


「テンカ先生の授業、おもしろかったな」


 話が脱線したのは何度かわからない。すぐに自分のこと話すし、そのくせ面倒くさがりだし。でも大事なことだけは、叱るように教えてくれたっけ。


「休み時間が、毎回楽しみだった」


 サエちゃんとサユカンと、飽きることなく毎日三人で。話題は尽きることなく……や、尽きても気にせず一緒にいた。


「給食は賑やかだった」


 必ず余るパンや牛乳。それをじゃんけんで奪い合うのが好きだった。


「イベントがあるたびにかき回したっけ」


 変な風に盛り上げて騒いでいると、すごく気持ちがよかった。


「手芸部は、あまり大した成果を残せなかったな」


 やっぱり手芸だけじゃなくて、もっと色々やればよかった。や、他にもなんかやってたけどさ。もっと大げさにやればよかったんだ。そうしたら活動が終わるまでに、我ら手芸部ここにあり! みたいな思い出も作れたのに。


「みんなと、さよならした日は……」


 実感がまるで湧かなかった。


 あんなにあっさりと日々が終わるなんて、考えもしなかったのだ。


 楽しみにしていたのに。


 新しい季節へと旅立つのを心待ちにしていたというのに。


 実際に旅立った後で、こんなに心残りを思いつくなんて。


 学校を離れる前にできたことが、もっとたくさんあったかもしれない。


 なのに私が勘違いしていたから。やりたいことが、やりたい場所で、いつでもできることなんだって。そんな幸せなことを考えていたから。


 だから、こうなってしまったのだ。


「みんなと、やりたかったこと」


 もうできない。


 だって私は一人でここにいる。


 そして『いつもどおり』な日々が終わったことをやっと実感して、今さら後悔なんかしているのだ。


 もう遅い。


 終わりの日に実感できなかったのも当然のこと。私には心の準備ができていなかったのだから。


 明日、この日々が終わっても悔いのないように――それくらいの気構えで生きていけばよかったのだ。


 自身の怠慢が、この事態を招いた。


 この虚しさが罰に他ならない。


 終わりが来ると意識していなかったのが悪い。


 日々の変化に鈍感だった自分が悪い。


 全部全部、私が悪い。


 だから、だから。


 だから――




「だから夏休みが始まったのに登校なんかしちゃったんだ」


 誰も歩いてないから変だとは思ったんだけど、教室に入るまで気づかないとは不覚だったわぃ。やっちまったぷー。


 先生はいるかもしれないし。見つからないうちに、かーえろっと。




 一学期が終わっただけだぷー。


 学校が終わったなんて、どこにも書いてないぷー。


 ましてや最終回だなんて、そんなことあるわけないぷー。


 まーすごく自然に夏休みへ入りたいと思ったらこんな話になったぷー。


 書いてて気づいたけどぷーぷー言ってたらちょっとムカつかれるかもっぷー。


 ごめんぷー。

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