カカの天下780「サユカの任務、負けるな攻めろ編」
こんにちは、カカです。最近暑いっすね。学校が終わって帰り道、サエちゃんサユカンと歩いてるのですが、ここの話題も結構熱いです。
「サラさんがトメ兄とデートするって!?」
「うん、確かな情報だよー」
どっから聞いたのかすごく気になるけど、それは置いといて。
「大変だよサユカン、対抗しないとっ!」
しかし、一番慌てると思われたサユカンは落ち着いていた。
「大丈夫でしょっ。サラさんは恋愛する気なさそうだったし、トメさんはその……わたしと約束、してるし」
指輪を見て「えへ」なんて笑うサユカン。甘い、甘すぎる。
「サユカン――」
「サユカちゃんは甘いよー!」
おお、サエちゃんに先越された。
「女なんてすぐにコロっと変わるし、男なんてすぐにおっぱい大きい人についてくんだよー! あのサラさん相手にそんな悠長なこと言ってたらダメだよー」
確かにあのおっぱいは侮れない。
「わ、わたしはトメさんを信じてるもんっ」
「いやいやー、サユカちゃんはおっぱいの攻撃力をわかってないよー」
「サラさんくらいになるとおっぱいビーム出そうだよね」
「きっと出るよー。だってスーパーおっぱいとか言ってたらしいもん。よくわかんないけど」
スーパーおっぱい。なんて強そうなんだろう。
「んじゃおっぱいバズーカか」
「つよそー! サユカちゃんピンチだよー」
「うう……バズーカなら仕方ないわねっ! 対抗するわ!」
お、納得させた。さすがバズーカ。無闇に攻撃力が高い。
「じゃあどんな衣装を着るー?」
「なんでそうなるのっ」
「胸も背も敵わないんだから肌色で攻めるしかないでしょー」
サエちゃん、最初からそれ言いたいだけでしょ。でも、もっと手っ取り早く……
「もう全裸で風呂場に突っ込めば?」
「ちょっ!!」
「カカちゃん! それは最後だよー!」
「最後ってなによっ!?」
「ちょっとずつ布を減らして、最後にやるのー」
なるほど! その通りだ。
「や、うっかりうっかり。めんごめんご」
「ほんとにもー、しっかりしてよー」
気をつけマス。
「そんなわけで、サユカちゃんの大人を演出する衣装を考えよー」
「ちょっと待ってよ! 衣装以外に大人は演出できないわけっ!?」
むぅ、他に大人といえば……あ。
「じゃあ化粧とかは?」
「化粧……確かに大人っぽいねー」
「でもそんなの持ってないわよ?」
「や、持ってそうな人があそこにいたから」
私の視線の先。商店街の本屋さんでイチョウさんがイチョイチョしていた。委員長っぽく本を見ているという意味だ。イチョってるとも言う。
「やっほ、イチョウさん」
「あらカカさん、サエ様、サユカさん。こんにちは」
相変わらずなぜかサエちゃんだけ様づけだ。
「何か御用でしょうか?」
「うん、実はさ。お化粧を貸してほしいんだけど」
「また妙な顔で周囲を驚かして回るんですか?」
またって……確かにいつかの年始めにそんなことしたけどさ、あれはあくまで福笑いだったんだよ。私なりの。
「や、サユカンがね? ええと――」
事情を説明すると、イチョウさんはイチョっと難しい顔をした。
「わたくしの意見としましては……子供の化粧というのは受け入れられにくいものです。そのトメさんとわたくし自身はあまり交流はありませんけど、聞いた話と遠くから見た限りでは生真面目そうな感じでしたし、そのような常識に反することは逆にマイナスイメージではないでしょうか」
なるほど。あるかもしれない。
「トメ兄、考え古いしね」
「おばあちゃんみたいな名前してるだけはあるしねー」
「そこがいいのよっ!」
あんたトメ兄ならなんでもいいんでしょ。
「となると、大人を演出するにはやっぱ服装かねぇ?」
「あら、それでしたらブレザーやセーラー服などの制服がムラムラくると」
「誰が言ってたのー?」
「ヤナツという愚兄が」
やーねー男って。私ら三人は揃ってそんな顔をした。
「でもいいチョイスかもー」
「それなら普通っぽいから着てもいいけど、そんなの持ってないわよっ!」
「お姉さんのお古でも借りてはいかがでしょう」
「お姉がセーラー服? あんたあの人をどれだけバケモノにする気? 世界制服でもする気じゃないだろうね」
「似合わないのは確かだけど、そこまで言うことないでしょー」
だってあのお姉がセーラー服だよ? そんなもん着たらおっぱいバズーカの比じゃない破壊力だよ。想像だけでも核兵器だよ。世界がゲロ吐いて滅んじゃうよ。
「ちょっと二人とも、そんな顔したらダメよっ! いくら現在が『ああ』でも、お義姉さんだってピチピチした若い時代はあったんだから」
「ムキムキした時代しか想像できないんだけど」
「ていうかサユカちゃん、今さりげなく『義』とかいれなかったー?」
ともかく、方針は決まった。まずは我が家だ。
みんな一旦帰ってから集合、家捜し開始となった。元お姉の部屋とか、元開かずの間(お父さんの部屋)とか、いろいろと漁ってみる。
「なに、このお義母さんグッズだらけの部屋」
「前に片付けたはずなんだけどね、いつの間にかお父さんが元に戻したみたい。壁も天井もポスターだらけ、すごいっしょ」
「ねーねーサユカちゃん、いま『義』を……」
ともかく家捜し!
やがて、セーラー服とかは見つからなかったけどトメ兄の学ランが見つかった。予備もあわせて二着も。
「とりあえず着てみたわっ!」
トメ兄のもんだと着るの早いなサユカン。
「わ、サユカン学ラン似合う!」
「私も着てみたー」
「サエちゃんも長髪にすごく合ってる!! うわぁ、それで運動会の応援団長とかしてほしい! よし、私も着てみよっかな」
そうして私が狂喜乱舞しながら服を脱ぎ始めたそのとき、玄関から声が!
「ただいまー」
「げ、トメ兄が帰ってきた。こんな面白い姿を見られるわけにはいかないよ、急いで脱いで!」
「ちょっとカカすけ、そんな強引にやると逆に脱ぎにく――きゃっ!」
「わー!!」
どたんこばたんこ。
「カカ、ここにいるのか?」
ドアが開く。
トメ兄は見た。男装してるサエちゃんとサユカンが押し倒され、それを半裸の私が無理やり脱がそうとしている光景を。
「……そっかぁ」
パタンと閉まるドア。
「そっかぁ」
もっかい聞こえた。
「――って、ちょっとトメ兄!? 何を理解した気になってるの!!」
「ほどほどにしとけよー」
「なにが!?」
「大人になったなぁ」
「違う! そんな意味でそう思ってほしいんじゃなくて!!」
漫画みたいな展開が予想外に恥ずかしくて、思わず大慌てしちゃったけど……トメ兄はわかっててからかってるだけだった。なんとなくトメ兄のほうが大人に思えて負けた気分。
悔しい。だから今度は復讐だ、トメ兄をからかってやる。
サユカンで。
さぁさ、サユカ対サラさん勃発か!
トメくたばれ。