カカの天下778「みんなの願いは笹の味」
こんにちは、超カカです。
ただいま学校中、そして昼休みになりました。さぁさぁ作戦実行です。
「短冊とペンは……あった。よし、準備おっけ」
実は昨夜の七夕――皆がいい感じにダラダラして、お開きムードとなり。後はお姉に笹を燃やしてもらうだけだったんだけど、トメ兄が言ったのだ。
『いくらなんでもこの笹じゃご利益なさそうだから、クラスの皆にも短冊を書いてもらったらどうだ? 普通にな』
そんなわけで笹を燃やすのは延期になった。そして今、私の使命は、友達に普通の短冊を書いてもらうこと。
「ねぇねぇ、そこのラブラブカップル」
「誰がカップルよ!?」
「ん、どうしたのーカカ」
まず声をかけたのはアヤちゃんとニシカワ君。どう見てもラブラブカップルだ。
「ちょっとニッシー、反論しなさいよ! 私とカップルでいいわけ!?」
「いいよ別に」
「……ちょ、え、それって」
「どうでも」
「どうでもいいの!? 私のことなんかどうでもいいわけ!!」
「アヤ坊」
「な、なによ」
「うるさいよ?」
「な、な、な!!」
多分ニシカワ君は「声が大きいよ」って言いたいんだろうなー。でもアヤちゃんの音量はどんどん上がってるなー。
「まぁまぁ、そんな争いこそ私にとってはどうでもいいからさ。短冊書いてよ」
「なによカカ、散々引っ掻き回しといて……」
勝手に回ってたのそっちでしょ。
「短冊って何?」
「あ、実はね」
私は二人に説明した。要はなんか願い書け、と。
「おもしろそうだねー。書くぞ書くぞ」
「わぁ、今年そういうの書いてないのよね! ねぇねぇニッシー、何書く?」
さっきのケンカはどこへやら。これだからラブラブカップルは。
『書けた!!』
おーおー仲良く一緒に書き終わっちゃって。これだからラブラブカップルは。
「どれどれ? まずはニシカワ君の短冊から」
『西が平和になりますように』
裏を返すと『Yes we can!!』と書いてあった。なぜ?
「あ、アヤちゃんは?」
『西以外も平和になりますように』
裏を返せば『Yes we can!!』と。なぜ?
「「Yes we can!!」」
よくわかんないけど声を揃えて笑ってる二人。これだからラブラブカップルは。
「……ま、いいや。あんがと」
気を取り直して次いこう。
「ねね、イチョウさん。短冊書いてみない?」
「はい?」
私はかくかくしかじか説明した。
「まぁまぁ、それでは気合を入れて書いてみましょうか」
「うん、お願い」
数分後。
「できましたわ」
「どれどれ」
『あなたが笑うと、私も笑う。
あなたが怒ると、私も怒る。
あなたが悲しいと、私も悲しい。
あなたが死んでも、私は生きる。
だから私が死んでも、どうかあなたは死なないで。
――仲が良いからこそ、想う』
なんだ、この無駄な重さは。
「イチョウサン、ナニコレ?」
「親友にあてた詩を書いてみましたの」
なぜ七夕の短冊にそんなもん書くの。この人、最初はまともだと思ってたのに……最近めっきり変になっちゃって。誰のせいだ?
「あ、かのちゃーん! かのちゃんも短冊、書きましょう!」
「……ん」
お、かのちゃんことインドちゃんが寄ってきた。昨日メールした身としてはバレたくないから、あまり近づきたくないんだけど。
「――というわけなんですけど、かのちゃんも書いてみませんか?」
「え、えと。うん。書く」
私の顔をちらちら見ながら頷くインドちゃん。やっぱ恐がられてるのか私は。
「できた」
おどおどしてるわりにはあっさり書き終わる。どれ、中身は?
『カレー』
やっぱりか。
「あらあらかのちゃん、短冊には願いを書くんですよ?」
イチョウさんみたいに重たい願い書かれても困るんですけど。
「んーん、いいの。昨日ね、メルちゃんも七夕したらしいのね」
「メルちゃんって、かのちゃんのメル友ですよね」
「うん。そしたらね、そのメルちゃんがね、笹の木にラッキーアイテムを吊るしてたらしいの。だから私もそれにしてみよーと思って。私にとってラッキーアイテムっていえば、カレーだし」
「あらあら! それは珍しいですわね」
ごめん、うちの笹の木じゃ珍しくない。
「うん、こんな発想する人がいるなんて、世界って広いね」
いえいえ、結構狭いもんですよ世界って。いや本当に。
「と、ともかくありがと!!」
なんかヘタなこと言ってバレる前に逃げた。
――その後もクラスメイトに短冊をお願いしたんだけど。
『お父さんには再就職を。
お母さんには優しさを。
お兄ちゃんには卒業をください。
私のことはどうでもいいからお願いします』
切なすぎる。
『お肉を買えるお金をください』
切なすぎる!! 現実的すぎる! 世の中はそんなに不景気なのか!?
『健康保険税が払えますように』
あんた小学生のくせにそんなの払ってるの!?
『お父さんが』
ああ、お父さんがか……お父さん払えないの!?
むぅ……せっかく愉快な笹の木だったのに、このままじゃ重苦しい笹になっちゃうよ。もっとこう、明るい夢はないの!? この短冊はどうだ。
『夢をください』
……なんか、泣けてきた。
ともあれ。集めてしまったものは仕方ない。私は家に帰ってからその短冊たちを吊るした。それを見たトメ兄もお姉もすんごく微妙な顔をしてたけど、「あー、ほら、これだけ切実なら織姫さんとか彦星さんも同情して、なんかしてくれるんじゃないか?」というトメ兄のフォローに納得することにした。
「じゃ、とりあえず燃やしてくるわ」
「おう。気をつけてな、姉」
うんしょ、と庭に刺してた笹を引っこ抜き、そのまま担いで、のっしのっしと歩いていくお姉。これから燃やしにいくらしい。
どこでどうやって燃やすんだろう。聞かないほうがよさそうだ。そう、知らないほうが夢があっていいんだ、多分。
そもそもあんな木を担いでる時点で夢みたいなんだけどね。
まさに超姉。
みんなの願いは笹の味です。ええ。苦いような、なんというか……まぁいいや。
皆さん、ラッキーセブン祝いありがとうございます! 返信が大変そ――じゃなくて、とっても嬉しいです(いやホントよ?笑
メッセージでもいくつかいただき、おかげで私はラッキー気分です。きっとラッキーなことが起きるはずです。皆さんもカカたちのラッキーなんちゃらでしっかりラッキーしてくださいね。
ちなみに私は七夕、お休みでした。というか休みもらいました。で、七夕イベントなんかに行ってきました。
もちろん短冊も吊るしましたよ。
『カカの天下』と書いて。
十枚ほど。