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カカの天下  作者: ルシカ
776/917

カカの天下776「スキマ」

 ――これは、狭間の物語。


 えー、はざま。むしろすきま。というわけで、押入れの隙間からお送りする。やぁやぁ我こそは呪いの人形よ。皆の者、我を覚えているか?


 ふむ、祝いではないのかだと? さぁなんのことやら。呪いも祝いも紙一重ではあるが?


 まぁいい、それはさておきだ。今回は、我が長年入っていた押入れから見た一コマをお伝えしよう。理由? もちろん押入れの中にずっと居て暇だったからだ。あぁこれだけは言っておく。これは、君らの考えている時代とは少し違うであろう話だ。


「トメ兄」


「なに」


「ねートメ兄」


「はいはい? 痛い痛い」


「ねーねートメ兄」


「なんだよ、なんだってんだ。なんでつねるんだ」


「ねーねー」


「だから応えてんじゃん。なに、なに!? なんでつねる!? 痛いんです、痛いんです! 左半身痛いんです!! やめてください!」


 押入れの隙間から外を覗く。元気のいい兄弟の声が聞こえてくる。


「まったく、カカはいくつになっても変わらないな」


「皆が変わりすぎなんだよ――あ」


 騒がしい足音が聞こえてきた。どうやらこの家に一人、訪問者が現れたようだ。


「トメさんっ!」


「サユカちゃん……!」


「わたし、16歳になりましたっ! その……約束どおり、結婚してくれますか?」


 ほう、ついにゴールインか。


「ああ。結婚しよう、サユカちゃん!」


 付き合ってから二年で、か。うまくいったものよ。おーおー妹がいるのに抱き合ってなどいるわ。


「……テンカ先生に、少し悪いですけど」


「テンはテンで、他にいい相手を見つけるだろ」


「ふふっ、元恋人としては心配じゃないんですか?」


「まぁ、今は犯罪まがいの結婚相手で頭がいっぱいだし」


 テンカか。サユカとトメが付き合う前に一年ほど付き合ったらしいな。気持ちのいい別れ方をしたと聞いているが。


「でも……ふふっ、最近の結婚ラッシュに乗ってしまいますねっ」


「サカイさんは再婚したし」


「去年ですけど、キリヤさんとユカさんも結婚しましたし」


「サラさんはゲンゾウさんと結婚したし」


 ふむ、幸せなようで何よりだ。呪いの人形としては、いささか物足りなくもあるが。


「……あれ、そういえばカカすけがいないわ」


「いつの間に。空気を読んだか? あ、テーブルの上に置手紙」


「えっと、『なんか悔しいからサエちゃんとイチャついてくる』ですって!」


「ふふ、あの二人もうまくいくといいですね」


「付き合ってる期間はあっちのほうが上なんだぞ? 大丈夫だろ」


「カカすけもすっかり男らしくなっちゃって」


「あそこまで元気に育ってくれたら、兄として僕も安心だよ。サエちゃんを幸せにできるといいな」


 ふむ? どうした。何を不思議がっておる。我は最初に言っただろう、兄弟の話だと。


 ともかく皆、結婚して幸せじゃ。呪いの人形がおとなしくしているから当然よな。


 さて、それから時が経った。百年は軽く超えたか、二百に届くか、よくわからぬ。ともかく我は一度自由の身となり、再び捕まった。なにやら聞き覚えのある名の子らがちょろちょろしていたが、あまり人が来ない部屋の押入れに閉じ込められ、またもや月日が過ぎた。


 そして、隙間から光が見えた。またもや外へ出られるのだろう。そうすれば我は暴れる、呪いの人形としてな。けっして祝いの人形としてではない。


 しかし呪いも祝いも紙一重のモノだ。


 この後、我が祝いの人形になる可能性もあるかもな。


 む? なぜ祝いと呪いが紙一重か?


 簡単だ。


 漢字が似ておろう。書き間違えたらおしまいだ。だから紙一重。


 なに、そんな間違いはしない? ふん、人形はそんなに頭がよくないのだ。漢字などを正確無比に覚えられるはずがない。


 さて、動くか。日本はどうなったろう? おぅおぅ見たことのあるヤツらを感じるわ、おそらくアレらの子孫だろう。果たして外に出るのは何年ぶりやら。くくく。


 む? しかしこの喋り方はいかんな。歳をとりすぎたせいか、若さが足りぬ。もっと若々しく……あたいとか言ってみるか。もっとハイテンションにいくか! 


「さぁて、あたいが復活だ」


 おお、この調子でいこう。


「存分に祝ってやろう!」


 あ、間違えた。


 まぁいい、この程度の祝福、世界には影響などない。


 あるとすれば、これを読んでいるお主くらいか。運がよかったな? 我の祝福、受け取っておいて損はないぞ。ここは隙間、時間も世界も、話数ですら不確定な場所。この話が本当かどうかさえ曖昧だ。そして曖昧さ故に届く祝福もあろう。


 ――さて、押入れの隙間が空いていく。今度こそ呪うとしようか。




 世にも珍しい視点で、曖昧なお話をお届けしました。これが本編での話なのか、パラレルワールドの話なのか。それも曖昧です。ただ、そんな結婚ラッシュな世界もあったかも、ということです。


 呪いの人形からの祝福で、読者様が幸運になりますように。


 ……え、祝いと呪いは違いすぎる?


 キニシナイ!!

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