カカの天下772「やきもきサエちゃん」
こんにちは、サエですー。最近は黒いことしてないって評判な私ですー。そうと見せかけて結構してるんですよー? 今からだって自分の部屋で、一人で……ふふー。
さてさてー、紅茶でも飲みながらパコちゃん起動です。いつか壊れかけましたけど、私が泣き出したらお母さんがアレをアアしてアアァー! って直してくれましたー。そんなわけで、今日もよろしくねパコちゃん。あ紅茶キーボードにこぼした。
「……ぅー」
キーの隙間にまで紅茶がー! うう、隙間が小さくて直接は拭けないよぅ。
「こういうときは……あー、あったあった」
机から取り出したのは細いはさみ。この前も牛乳こぼしたんだけど、そしたら遊びにきてたサユカちゃんが上手いことキーボードのキーをはずして掃除してくれたんだよねー。こうやって、キー同士の隙間にはさみの先を入れて、はずしたいキーの角に当てて、てこの原理でぐいっとー! あ腕が紅茶カップにぶつかった。
「またこぼしたー!!」
ますますキーボードが濡れ濡れに。私はちょっと泣きそうになりながらカップを離れた位置へ移動。我慢我慢、これは私が悪い。すぐに対処できなかった私が悪いの。だから我慢なの。
自分にそう言い聞かせながら、私はもう一度キーをはずす作業に戻った。はさみの先を当てて、ぐいっとー、えい!
パチン! やた、キーの上蓋がはずれたー! 勢いよくはずれて飛んだー! 離れたところに置いた紅茶の中にポチャンと落ちたー!
「にゃうー!!」
あんまりな事態に思わず鳴いた。私なにか神様に怒られるような悪いことしたっけー? 私のためになることばっかりしてるのにー。
「ぅー、キーを上から指でしっかり押さえて、てこの原理で」
紅茶から取り出したキーを念入りに拭いた後、ぶつぶつ言いながらも次のキーを慎重にはずす。パチっとなー。うん、今度はうまくはずせた。この調子で……
「おっと。ふふ、これは失敗しないよー」
私はキーの配列なんてわからないからね、ちゃんと離れたところに、外した順番と同じ形に並べておかないと。今日のパターンだと……全部キーを外して並べ終わった辺りで手が滑ってばら撒いて、どこがどのキーかわからなくなるオチだよね。きっとそうだ。だから気をつけないとー。
「……よし、外し終わったー。あとはティッシュで水気を拭いてー」
ボードを拭くときは手が滑って弾け飛ばないように。キーを拭くときは腕が滑って並べたキーをふっ飛ばさないように気をつけながら拭き拭き。私、そんなに色んなもの飛ばすほどパワフルじゃないはずなんだけどなー。こういうのは不器用、というより、おっちょこちょいなんだよねー。
「よし、拭き終わったー!」
あとは元の位置にキーをはめて戻すだけ!
「待っててねパコちゃん。待ってるんだよ、舞っちゃだめだよー」
さっきのキーみたいに踊りださなくていいからねー?
声をかけながらもそーっと、そーっとキーを戻していく。パチン、パチン、と順調に作業が進み……やがて並べたキーを全部つけ終わった。懸念した失敗はなかったよー。配列に間違いはないはずだし。やったやったー。あれキーが一つ足りない。
「なんでー!?」
嘆いてもないものはない。外して並べて、外して並べて、って繰り返してただけなのに、なんでなくなるんだろー。机の下も周りも、いくら探しても見つからない。
「うー、どこだろー。ぅー。あ、総理大臣と官房長官。ここのキーしらない?」
ニャー、と答える二匹のネコはわかってるんだか、わかってないんだか……あれ。そういえばこの二匹、いつの間に。
「……もしかして、キー食べた?」
ふるふるふる、と首を横に振る二匹。
「そんなに可愛く揃えてもダメ。本当に食べてない?」
またもふるふる首を振る二匹。
「……本当かぁ」
あ総理大臣げっぷした。
「ぼでぃーぶろー!」
「ぐえ!」
大臣のお腹に拳がクリーンヒット。でも吐き出さないかぁ。じゃあ本当に食べてないのかな。そういえばさっきご飯の時間だったし。
「……あ、ごめんね大臣」
大臣はすんごくビックリした顔でこっちを見ている。私が予想外な行動に出たせいだと思う。予想外、だよねー? うん、私らしくない。カカちゃんの影響を受けてきたかな。気をつけよーっと。
「ところで大臣。今、人間みたいな声出さなかった? 気のせい?」
長官も一緒にうんうん頷いてる。やっぱ気のせいか。
「どうしよー、キーどこー? キーキーキー」
さっき探したところをもう一度探す。でもない。どれだけ探しても見つからない。
むー、仕方ない。このまま上蓋がないままだったら壊れそうだし、セロハンテープでも貼って塞いでおこっと。まったくもー、本当にどこいったんだろー。私はぼやきながら机の引き出しを開けた。セロハンテープは、っとー。
ねぇキー。なんでそこにいるのん?
「……ミステリィ」
どこをどうして机の中に移動したのかは全くわからないけど、とにかく見つかってよかった。私は安堵しながら最後のキーを空いている位置に戻した。パチン!
「あ上下逆だ」
んっとにもー!!
はい、ただそれだけの話ですー。
何かこぼして、キーが飛んで、着水したりして、キーがなくなって、机の中で見つかる。
実話です。
私の。
昨日の。