カカの天下770「なんかイロイロ止まらない」
こんばんは、カカです。夕ご飯を食べながらテレビを見てます。
「トメ兄。今日の海老フライなんだけどさ」
「なんだよ」
「ぷりぷりで美味しい」
「そりゃどうも」
「トメ兄を褒めたわけじゃないよ。海老を褒めたんだよ」
「あーそういうことですか」
「トメ兄なんかブリブリだよ」
「あーどういうことですか?」
「トイレで――」
「食事中にやめなさい」
ちぇ。まぁこんな感じでいつもどおりにご飯食べてます。
「あれ」
「どうしたカカ?」
「海老フライだよね、これ」
「他に何に見える」
「ブリブリ」
「眼科いけ」
「肛門科だよ」
あ、お兄ちゃん黙った。
「や、冗談だけど。フライって、飛ぶって意味の英語だよね」
「そういう意味もあるな」
「じゃあ海老フライって、海老が飛んでるの?」
妄想する。
天高く飛び上がる海老。龍のように身体をうねらせながら……ってほど胴体は長くないか。えーと、海老はなんかピクピク痙攣しながら空を飛んでいる。横にはなぜかタケダ。
「あ、死んだ」
タケダも。
「そりゃ水のないとこ行けばな」
「でも私も空飛びたいなぁ。カカフライにならないかな」
「カキフライで我慢しておけ」
うん、わかった。もぐもぐ。テレビを見る。
「あ、お母さん新しいドラマやるんだ」
「本当だな。どんなタイトルだろ」
『枝毛が止まらない』
変な沈黙が私たち兄妹を包んだ。
「お母さん、最近は髪、長いし、ね」
「ぴったり、なのか? ていうかそもそも、どんな話だ」
「んー……枝毛が伸びすぎて網状になって、それで犯人を捕まえる話とか?」
「恐怖が止まらなくなりそうなんだけど」
もしくは……またもや妄想シーン突入。
シリアス場面。お母さんが怒る。「いいかげんにしなさい!」お母さんの枝毛が伸びる。まだ伸びる。無数に枝分かれしながら伸び続ける。それはやがて世界を覆いつくす。なんとかしなければ世界は暗黒に染まってしまう! あの毛を焼き払え! ダメです、燃えません! なんたる剛毛、こうなったらミサイルで……なに、毛が、俺にも毛が……うわああ、俺の身体中の毛が枝分かれしながら伸び続け――ウイルスだ! 新種のウイルスだ! みんな近寄るな、気持ち悪いぞ! うわぁこんな場所の毛まで! ズボンがもっこりだ!! 横にはなぜかタケダ。
「恐すぎる! っていうかお母さんバケモノじゃん! 悪役じゃん! ダメだよそんなの!」
「じゃあモデルを姉にしとけ」
「わぁピッタリ」
一件落着。
「僕には話の内容が想像もつかないけど……ほら、髪の毛とは限らないだろ」
妄想シーン突入。
枝毛で伸び続けるのがすね毛だったら。
爆発的に増えるすね毛。
その勢いでロケットのように噴射されるお姉(あまりにピッタリなので女優は修正されました)。
横にはなぜかタケダ。
「アネフライ!!」
「まずそー」
「私もカカフライになるかな!」
「すね毛が止まらないぞ?」
「……そんなのはお姉だけで充分だね」
妄想シーン突入。
枝毛で伸び続けるのがまつ毛だったら。
お姉の目から発射される黒いビーム!! 鉄でも貫通! 今なら1980円!
「似合いすぎる」
あ、タケダが買った。
それは置いといて妄想を続ける。
枝毛で伸び続けるのが鼻毛だったら。
お姉の鼻からビームがボーン!!
「こっちのほうが似合うな」
妄想シーン突入。
お姉のひげが伸びたら。
「……なんかお姉にもじゃもじゃのひげがあっても違和感ないなぁ」
「なんか仙人っぽくなるからだろ」
「あー、似合う」
タケダはひげが似合わないからどっか行った。
数分後。
「ねぇトメ兄。お姉のイメージがえらいことになってるんだけど」
「説明してみなさい」
「髪はふえるワカメのように世界を覆い、目からのビームと鼻毛ビームで敵を鬱、じゃなくて撃つ。すね毛ロケット噴射で自在に空を飛びまわり、ひげだけは普通に生えていてダンディ。どんな攻撃も毛がガード、ミサイルも核兵器も効かない。その姿やまさに暗黒の魔王。いったいどんなシャンプーを使ってるのかと話題沸騰中」
「同じシャンプーを使うために?」
「や、絶対使わないために」
「だよねー」
「で、横にはなぜかタケダ」
「なぜ」
「ドラマの主人公がタケダって名前らしいから」
「影薄いなー主人公」
「きっと髪も薄いんだよ」
「そりゃタイトル負けで主人公失格だ」
あっはっは、なんて笑いながらもぐもぐと最後のおかずをいただいて、二人そろって手を合わせて「ご馳走様」とぺこり。
「あ、しまった! 夕飯逃したか、あたしとしたことが!」
そのとき、唐突にお姉が乱入してき――お姉?
「どちら様で?」
「は? なに言ってんのさ弟よ妹よ!」
「や、私たちのお姉は……トメ兄。ねぇ?」
「カカ。なぁ?」
『もっと剛毛なはず』
「よし歯ぁくいしばれ」
私たちは鼻毛ビームをくらうことになった。
ただ夕飯を食べながらダラダラ喋るだけの話です。剛毛。
『枝毛は止まらない』実はちょっと執筆中。公開の予定はありません。