カカの天下77「お祝いしましょう」
「ほれ、召し上がれ」
「……わんだふる」
「どうした、食べないのか」
「あんびりーばぶぅ!」
「ばぶぅってなんだ、赤ん坊じゃあるまいし。バブルだろ」
「弾けるの!?」
「弾けねーよ」
ある意味弾けているこのお子様はご存知、僕の妹のカカです。
なんでこんなにテンションが高いのかというと、ただいま高めのレストランで外食、しかもコース料理でめっちゃ豪華っぽい餌が並んでいるのです。
それを目の前にしてフシギ生物カカは興奮の極みに達しておるわけです、はい。
「ねぇ、トメ兄」
「なんだ妹」
「気持ち悪い」
「腹でも痛いのか? 仕方ないな、このご馳走は僕が全部――」
「だまれ下郎!!」
「げ、げろうって……どっから覚えてくるんだそんな言葉」
「時代劇」
いろいろ見てるなーおまえ。
「そうじゃなくてさ、トメ兄が気持ち悪い」
「なにを失礼な」
「なんでいきなりこんなご馳走を……いつもはお金ないときに醤油ご飯を食べさせたりするくせに」
「や、あれは単に醤油ご飯が好きだからだけど」
「それも気持ち悪いけど、今の気持ち悪さはそれじゃなくて」
「なんだよコノヤロウ」
「……ねぇ、これ、もしかして最後のバルカン?」
「それを言うなら晩餐だ」
死ぬ間際にバルカンぶっ放すのも格好いい生き様だと思うがね。
「バンさんって誰?」
「知るかよそんなの……や、待て。この店の店長がバンさんだった気が」
「最期なんだ、バンさん」
「勝手に殺すんじゃありません」
「ちーん」
「お悔やみっぽく皿を箸で叩くんじゃありません」
次々と並べられる料理がいまだに信じられないのか、混乱しまくっているカカ。
この間ちゃんと話したのに、聞いてなかったなこいつ。
「今日は四年生になったお祝いに、いいもん食わせてやるって言ってただろう」
もう四月も中盤。
サユカちゃんの登場でうやむやになっていたけど、もうカカは四年生へとレベルアップしていたのだ。高学年にクラスチェンジだ。一つくらい新しい魔法を覚えてもおかしくないくらいの成長だ。
「トメ兄、やっぱ気持ち悪い」
「それが新しく覚えた魔法かっ。くぅ……破壊力は充分だ」
「なにバカなこと言ってるの」
「……あ、いや、すいません。取り乱しました」
妹が冷たくてお兄ちゃん悲しい。
「そんなお祝いしてくれるなんて、普段と違って優しすぎだよ。トメ兄が偽者だったとしてもあっさり納得しちゃうよ」
「おまえな……普段の僕をどんなやつだと思ってるんだ」
「ツッコミ」
「いや、その、さ」
正解だけどさ、そう躊躇なく言われるとさ……
「ま、いいや。理由もわかって気分爽快! トメ兄、遠慮なくいただきます」
「いろいろあって気分落ち気味、でもいただきます……」
僕らは仲良く手を合わせて、ちょっと高めの料理に舌鼓をうった。
ま、なんだかんだ言いつつも仲良くやれてるのはいいことだ、うんうん。
この先カカが成長していけば、こうやって二人で食事できる機会が少なくなる可能性もあるんだからな。
「おいしいね、ツッコミ」
「おいコラそれあだ名にする気かい」
とりあえずヒネくれて成長してくれないことを祈る。
もう、遅い?