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カカの天下  作者: ルシカ
764/917

カカの天下764「キリヤさん、お願いします」

 キリヤです。突然ですが、今回はちょっと過去からのお話になりますよ。聞き苦しい点が多々あるかもしれませんが、どうかご了承ください。


 さて、話はホワイトデーまで遡ります。トメ君がとってもクサイ手紙をいろんな人に恥ずかしげもなく配っていたときです。


「ツッコんでいいか?」


「こらトメ兄、黙って話を聞きなさい」


 ……いいですか? 続けますよ。


 ええとですね、覚えているでしょうか? 私がホワイトデーだからとトメ君をからかうため、わざわざチロルチョコの着ぐるみ(結構高価、立ち寄った商店街で売れ残ってるのをたまたま見つけてお金を払って貸してもらった)でボケ倒したことを。


「覚えてるぞ、悪夢として」


 そのボケはですね、実は……トメ君がユカさんに手紙を渡した直後のことだったのですよ。


「あー、そういえばそうだったか」


 トメ君を散々からかいました。もちろん性的な意味で。


「ツッコんでいいか」


 ダメです。一通りいじってアレして「フハハ」と高笑いし、私が満足して帰ろうとした、そのとき……コツン、と頭に何か当たりました。 


 振り返ってみると、地面には紙飛行機が。どこから飛んできたのかと見回してみると、すぐにタケダ医院が目に入り。見上げてみると、とある病室の窓が開いているではありませんか。そしてそこには、今まさに『バッター振りかぶって投げました』的な格好でいる女性が。


「なんでバッターが投げるんだよ」


「きっとバットを投げたんだよ。それくらい豪快だったんだよ」


 カカちゃんの言うとおりです。そしてその女性と私はバッチリ目が合いました。


 女性はすぐに病室へ顔を引っ込めようとしたのでしょう。しかし紙飛行機にして飛ばした手紙を放置するわけにもいかず、途方に暮れたようでした――それらの考動がとてもわかりやすい表情で展開されたので、なんだか愉快になった私は、そのまま紙飛行機になった手紙を持ち帰ってみました。


「鬼だ」


「どちらかというとイタズラ小僧だと思いますけどー」


「こらトメサエ、黙って聞けっつの」


 否定はしません。ちらりと振り返ったときに見えた彼女の顔色が面白すぎて、してやったりという感じでしたし。それになるほど、まさにそれはイタズラでした。気になる子をからかってしまうような、子供のような反応だったと。今更ながら自分でも恥ずかしく思います。


『おおー!』 


 はっはっは、続けてよろしいですか?


 ――いくら私でも全く見ず知らずの方にこんなことはしません。私はチロルチョコどっきりのため、あらかじめカカちゃんから手紙の話を聞いていました。その際にタケダ医院にいる女性のことも聞いたのです。紙飛行機に書かれていた文面がチラリと見えたことから、その娘がトメ君の元彼女だと察しがつきましたし。


 そして笠原ファミリーのことですから、どうせこの街にいる限りはいずれまた会えるだろうと踏んでいました。


「何かしらに巻き込まれる形で、ですよね。わかります」


 さすがはサラさん、巻き込まれ仲間なだけはあります!


「トメ兄……巻き込むのって、やっぱ私たち?」


「勝手に僕を含むな。主におまえだ」


 まぁ、結果としてやはり巻き込まれたわけで。お楽しみ会のことを覚えてますか?


「ああ、そういやいたな。おまえもユカも」


 はい。来ているとは知らなかったのですが、カカちゃんの演目内容のおかげでどこにいるかすぐにわかりました。


「恥ずかしい話を餌にしてあぶり出したようなもんだったよねー」


「人聞きの悪いこと言わないでよサエちゃん。やったのは全部タケダなんだから」


「全部タケダのせいになるんだ……まぁ僕的にはどうでもいいけど」


 ともかく私としては助かりました。紙飛行機を強奪、というイタズラをしてみたものの、いきなり病室へ行くわけにもいかず困っていたのです。おかげで話をするいい機会に恵まれた、そう思った私はお楽しみ会が終わった後にこっそり抜け出し、彼女に接触してみたのです。


「接触だってさ、やーらし」


「テン、おやじくさいぞ」


「何を今更」


 もちろん性的な意味ではありません。トメ君と違って。


「どういう意味だ!?」


 あ、いえいえ。トメ君がそういう接触をするという意味でなく、私がホワイトデーにトメ君へチロルチョコで接触したときの話です。


「ああ……って別にあのときも性的なことなんぞなかったろ!?」


 その辺りは子供もいるのでスルーしてさしあげましょう。


「オイ」


 ともかく私はユカさんに話しかけました。始めは私が誰なのか気づかなかったようですが『紙飛行機のときはどうも』と声をかけただけですぐに思い出していただけました。彼女としては手紙を持っていかれて気になってはいたものの、私がトメ君の関係者だとは思っていなかったので忘れていたのでしょう。


『よ、読んだ?』


『はっはっは。失礼とは思いましたが、紙飛行機が文面を表にして折られていたので、つい』


『本当に失礼ね!』


『失礼ついでに言わせていただけば、だからこそあなたに声をかけたのですが』


 ユカさんの顔は真っ赤になりました。手紙を読んだからこそ――そこで私の言いたいことを悟ったのでしょう。


「私は悟れないんだけど」


「私もですー。トメお兄さん、手紙になんて書いたんですかー?」


「あー、まぁ、平たく言うと。僕は前の恋愛を引き摺るつもりは微塵もないから安心しろーとか、新しい恋でもしろよーとか、余計なお世話かもしれないけど応援してるよーとか、そんなの」


「ほぉほぉ、なるほどな。そんな手紙を読んだからこそ声をかけた、ってーことはだ」


 テンカさん、お察しの通りです。私はその『新しい恋』への立候補のつもりで声をかけたのでした。しかし彼女の反応は、顔を赤くしつつも冷たいものでした。


『からかってる?』


『まさか。それこそ失礼というものでしょう』


『だってそうとしか思えないわ。ろくに話もしてないのに』


『綺麗な女性に一目惚れをする……男としては珍しくないことと思いますが?』


『あーあー、おあいにく様。ワタシは女だからわかりません』


『はっはっは、これは一本取られました。しかし一目惚れというだけではありません。私とあなたは、気が合うのではないかと思ったのですよ』


『……どこがよ』


『私はトメ君の親友を自負しています』


『だから何よ』


『トメ君を親友に選んだ私。かつてトメ君に告白したあなた。趣味が合うと思いません?』


『なにそれ、冗談のつもり? あまり面白くないわね』


『はっはっは! これは手厳しい』


『手厳しいこと言ってあげてるのに、随分と笑うのね』


『可愛らしい女性と喋ることができる、それだけで楽しいものなのです。男というものは』


『……なんだか聞いててかゆくなってきたわ』


『そう言いつつ少し嬉しそうに』


『なってないわよ。帰るわ。ついてこないでよ!』


『仰せのままに。それでは、また会える日を楽しみに』


『ふん!』


 と、このようなラブラブな会話を交わした後ですが。


「……大人の世界じゃこれがラブラブなの?」


「本人がラブラブって言ってるんだから、いいじゃねぇか」


 その哀れむような視線はやめてください。私だってわかってますよ、ええ。うまくいかなかったことくらい。


「あ、わかってたんだー」


 私が仕事モードで本気を出せば、お嬢ちゃんからお年寄りまでスラスラと口説き落としてさしあげましょう。商売的な意味で。しかし、まぁ、恥ずかしながら……本気の恋となると、不安になって上手く口が回らないものなんですよ、口説くつもりがクドくなってしまい、はっはっはっは! はぁ……


「オレには充分、回ってるように聞こえたがな」


「僕にはとてもマネできない口上の数々……同感ではあるけど、結局は相手を怒らせたわけだから失敗、ってことじゃないか?」


 はい……失敗のままで終わりたくなかった私は、それからしばらくユカさんへのアプローチを考えていたのですが……うまくいかず……


「あー、そういやその辺りでキリヤが付き合い悪くなったんだよなぁ。この僕がラーメンを奢ってやるというのに、反応しなくてなぁ」


「恋の悩み絶頂期だったのですね! ふふ、それで私にバレることになったと」


「サラさんにバレたって、どういうこと?」


 はい、それから少し経った後、お花見があったじゃないですか。ユカさんも参加して、私はこっそりそちらを気にしていたのですが……


『――あれがツンデレというやつでしょう。あそこまでハッキリしたのは初めて見ました』


『なるほど、あれが! や、やっぱり内心はトメさんのこと好きだったりするんでしょうか!』


『そうだとは思いますけど、そうでもないと思いますよ』


『……キリヤさん、何か知ってます?』


 失言でした。なんとなくムッとなって、つい口にしてしまったのです。


『色々と知ってますよ。例えば美味しいお客の作り方とか』


『おお! それは興味深々です! 同じフリーター仲間としてぜひ! 』


 うまく話を逸らしたつもりでした。しかしサラさんも一筋縄ではいかず……


『……で? ユカさんについて何を知ってるんですか?』


 唐突な話の戻し方に面食らいました。私は誤魔化そうとしましたが……女性特有のカン、というやつでしょうか、一向に引き下がってくれず。


「サラさん、意外とつえぇな」


「ふふふ、恋愛事が絡んだ女性は粘っこくなりますからね」


 もういっそ相談してしまおうと思い、サラさんには打ち明けたわけです。すると、


『じゃ、とりあえず私と仲良くなって見せ付けてみますか! 自分のことを好きだと思っていた男が、別の女性と仲良くなる……ツンデレっていう人種は人一倍それが我慢ならなくて、気になりまくるらしいですし!』


『情報源はどこですか?』


『サカイさんです。こないだ口喧嘩したときに語ってました』


 なぜ口喧嘩している最中にツンデレについて語ることになるのか疑問でなりませんでしたが、正直手詰まりだった私はその案を受け入れました。仲の良さをアピールしようと、サラさんは『めでたいのぅ、めでたいのぅ、カンパーイ!』と半ばオヤジくさく振る舞い、


「む、なんですかその言い方! せっかく相談してあげたのに!」


 そう、あれはまるでテンカさんのようでした。


「んだとぅ?」


 ってトメ君が言ってました。


「おまえ本当に親友かよ」


 それはともかく、作戦は成功したようですね。ある日、私とサラさんが喫茶店で今後の展開について作戦会議していたとき、ちょうどユカさんからデートのお誘いがきたのです。トメ君経由で。


「おお、あのときのかぁ」


「あのとき? カカ、何か知ってるのか」


「いーえー!! 何も知らないですよー!!」


「……なんでサエちゃんが答えるの。さてはまたコソコソと」


「そ、それで!? なんでトメ兄経由で来たの!?」


 恥ずかしながら、私が携帯の番号とアドレスをいつまでも渡せないままだったのですよ。つまり向こうからの連絡手段が全くなかったのです。それでユカさんはトメ君を呼び出したわけですね。


「ついでに言うと、ずいぶんとキリヤのことを聞かれたよ。顔を真っ赤にしながらな。ツッコんだら『あーあーうるさいわね! ワタシとの未練が微塵もないならツベコベ言わずにちゃんと相談に乗りなさい!』とか怒鳴られたぞ。キリヤ、彼女の教育はきちんとしろよ」


 善処します。なにせさっき付き合い始めたばかりですので。


「へぇぇぇ! そうだったんだ!?」


 はい。先ほど手編みのマフラーのプレゼントと一緒にお付き合いを申し込まれました。


「そして僕とサラさんはそれを影から見ていたわけだ」


「二人のキューピッド役としては当然の権利ですよね!」


 私は途中から気づきましたけど、ユカさんは気づいていなかったみたいですね。ですからこうして皆さんがぞろぞろ現れた途端に逃げ出したのでしょう。


「……キリヤがあまりにも雄弁かつ事細かに語り始めるから逃げ出しちゃったんじゃないかと思うんですけどー」


 そうとも言うかもしれません。


「わりぃ、ちょっといいか? 話を切って悪いが……手編みはいいが、なんで今の時期にマフラーなんだ? もうすぐ夏だぞ」


 そこは考えてなかったみたいです。


「……意外と抜けてるのな」


 はっはっは! 可愛いでしょう!


「うあ、ノロケが始まりましたよテンさん」


「それを言うなら今の話が全部ノロケだろ」


 おやおや、説明を求められたから答えただけだというのに、酷い言われようですね。


「……んー」


「あれ、どしたのサエちゃん。不満そうな顔で」


「キリヤ、本当に口が回らなかったのー? 最初はからかうみたいな調子で相手を怒らせて、とりあえず自分を強く印象づけてー、それからわざと他の人を巻き込んで上手くやったーって感じに聞こえるんだけど」


 はっはっは! それはサエちゃんが腹黒いからそういう考えになるんですよ。


「……器用な男は、ときに女の腹黒さを超えるってお母さんが言ってたんだけどー」


 気のせいですよ、気のせい。所詮は私も一人の人間であり、男。そうそういつも上手くやれません。それでも上手くいったのは……そうですね、あなた達の雰囲気のおかげですよ。


「雰囲気? なにそれ」


 その問答無用で周囲に笑顔を撒き散らす空気のことです。なんか妙にいろいろ上手くいくような気がするんですよね。


「……たまにこんなこと言われるよね、トメ兄」 


「だから僕に振るなっての。言われるのは主におまえだカカ」


 ともかく、おかげさまで私とユカさんは付き合うこととなりました。皆さん、よろしくお願いしますね。


「おぅ。なかなか楽しそうだからよろしくしてやっぞ」


「ですよね? 面白そうですよねー? いやー私ったらこの先が楽しみで!」


「サラさんって本当に恋話好きだよねー。えっと、私としてはサユカちゃんをからかう材料が減って残念だけどー、でも祝福するよー。おめでとー」


「む、ぶっちゃけどうでもいいけどサエちゃんが祝うなら私も祝おう!」


「はいはい、適当によろしくしてやるよ。ところで……なぁカカ」


「なんだねトメ兄」


「おまえら、もう二人くらい連れてなかったか」


「……あれ。クララちゃんとタマ、どこいった?」


 ふふふ、さぁて、ね?




 実はこんなわけだったのです。


 ……本当に?


 実のところは?


 次回へ続く(ぇ


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