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カカの天下  作者: ルシカ
755/917

カカの天下755「地味ないいわけ合戦」

 こんにちは、サエですー。


 最近は寒くなったり暑くなったりの微妙な季節でしたが、ようやくポカポカ温かくなってきました。午後の教室、テンカ先生の声と単調なチョークの音。窓から注ぐ温かい陽光に思わず目を細めてしまいます。


「おいサエ、寝てんじゃねぇ」


「目が細いだけですよー」


「オレだって目が細いぞ」


「テンカ先生のは目つきが鋭いっていうんですよー」


 目つきが悪いとも言うけどーなんて思っていると、ちょいちょいっと服が引っ張られた。近くの席のカカちゃんだ。


「で、実際は?」


「ねみゅい」


 さっきのは単なるいいわけだったりー。だってこんなにポカポカだものー。


「おいサエ」


 あれ、やっぱりバレた?


「笑ってんな」


「……目が細いだけです」


 後ろから引っ張られる服。


「実際は?」


「……本当に目が細いだけー」


 


「サエちゃんってさ、いいわけ上手いよね」


「そうかなー?」


 授業も終わって下校時刻。サユカちゃんは用事があるらしいので、今日はカカちゃんと一緒に帰ります。


「さっきの授業中のことだよねー?」


「あれを見て普段のことを思い出したのだよ」


 普段からかー、そんなにいいわけしてたっけ?


「サエ君!!」


 心の中で首をかしげていると、あまり聞き覚えのない声が。


「えっとー?」


 振り向くとそこには、微かに覚えのある男子。たしかこの人は……


「今日は暇かい? よかったら俺とデートしないか」


 そうそう、最近こうやってよくナンパしてくる男子さんだ。そこそこ格好いいから女子には人気らしくて、ご覧の通りいい気になっている。


「今日はカカちゃんとデートだから」


「まったく、君はそればっかりだな。そんな逃げてばかりいないで素直になったらどうだい?」


 どうしよう、すごくうざい。


「そうだ、じゃあ携帯の番号を教えてくれるかい? まずはそこから始めよう」


「遠慮しとくー」


「まぁそう言わずに」


 しつこいなー。


「じゃーこっちからかけるから、そっちの番号教えて」


「おお、本当!? やったねサエ君、俺の番号を知ってる女子なんてあまりいないんだぜ!」


 それって友達少ないだけじゃないかなーなんて思いつつもメモメモ。


「それじゃ後でかけるからー」


「わかった、待ってるからね!!」


 さわやか気取りで去っていく男子。名前はまだない。


「あれ、どしたのカカちゃん。そんなに睨んで」


「サエちゃんがどうやって阿呆を撃退するか期待してたのに」


 カカちゃんは何か勘違いしてるみたいだ。


「撃退ならしたじゃないのー」


「どうやってさ!? 結局あの男子に番号なんか教えて!」


「教えてないよ、こっちからかけなきゃいいんだから」


「あ」


 カカちゃんはあんぐりと口を開けて固まった。こんなの男をあしらう常套手段なのに、直球なカカちゃんは気づかなかったらしい。


「あ、ゆーた。ちょうどいいところに通りかかったねー。この番号あげるー」


「おおサエ様! ご機嫌うるわしゅう! なんですかな、この番号は」


「私をナンパしてきた男の番号」


「またですか。わかりました」


 あれ、またまたどしたのカカちゃん。そんなに驚いた顔で。


「ゆーた……何するの」


「んっと、電話をかけて私のモノマネをするみたい。それで大体の人はトラウマになって私に近寄らなくなるんだって」


「……サエちゃんって、いいわけっていうか、その、なんか色々上手いよね」


「そうかなー?」


「サエさん!」


 そのとき、またもや声をかけられた。


「あのときの約束なんですけど――」


「ごめん、急いでるの。わけはまた後で話すからー!」


 カカちゃんの手を握ってダーッシュ! 廊下の角を曲がったところで足を遅める。


「話さないけどねー。とか、こういうの?」


 うんうんうん、と頷くカカちゃん。


「そう言うカカちゃんのいいわけだってすごいじゃないのー」


「私の? 何かいいわけしたっけ」


「ほら、この前に遅刻したとき」


『――カカ、なんで遅刻しやがった』


『それが私の個性だから』


 すごい問答無用な理由だと思う。敵わない。


「そういや終いには『んじゃあんたが起こしに来なよ!』って逆ギレしたっけ」


 ほんと敵わない。


「それを言ったらこの前のサエちゃんだって」


『――サエ、随分と大事なプリントを忘れてくれやがったな?』


『笑顔は忘れてないよ? にこ』


『許す!!』


「あのテンカ先生があっさり許すなんて、どれだけ可愛い笑顔見せたのさ」


「さー? あ、噂をすればテンカ先生だ」


「おぅガキども。さっさと帰れよ」


 その前に雑談を。テンカ先生がどんないいわけするかも気になったので。


「いいわけか。よく使うのはな、居酒屋で」


『――こちらのグラスお下げしまーす』


『でよ、そのとき姐さんが空からいっぱい降ってきて――あ、まだ中身が残ってたのに下げられた! 話に夢中で気づかなかったぜ! オイ店員!! どうしてくれる!』


「で、うまくすればもう一杯げっとできる」


「……黒いというよりセコいね先生」


「勉強になるねー」


「うっせーうっせー、さっさと帰れ」


 いつもどおり穏やかにテンカ先生と別れ、ようやく生徒玄関へ。しかしまだ私を呼び止める声が。


「おおサエ! すまんがまた整理作業を手伝ってくれないか」


 今度は先生だ、松崎先生。始業式で落とした株を持ち上げるため、学校の影の支配者っぽい私と仲良くしようとしている腹黒い大人だ。


「えー。これからお母さんとの用事があるんですけど」


「そこをなんとか!」


「とても大事な用事なので」


「そ、そうか……大事な用事なら仕方ない。呼び止めて悪かった」


「……仕方ないですねー、協力してあげます」


「ほ、ほんとか!? いや、しかし大事な用なんだろう?」


「学校のお仕事も大事ですからー」


「偉い! なんて偉い生徒なんだ君は、ではそこの――」


 どこの教室に行けばいいかを伝えて、先生は去っていった。


「で、実際は?」


「用事なんて無いよー。これで私の株アップ」


「やっぱ上手いね」


 そこ、私のほうが腹黒いなんて思ってないだろうね? 私は黒いんじゃないの、上手いのだよー。


 ……たぶん。




 そして、帰宅して。


「聞いたわよ、サエ」


「え?」


「私との用事を、松崎とかいう先生に潰されたんですってー!?」


 しまった、妙に情報通なこっちのフォロー忘れてた。


「お母さん、別に用事なんか無かっ――」


「母と子が出会う、それだけで最重要な用事なのよー! テレビでもよく壮大な音楽鳴らしてやってるじゃない!」


「それ何年かぶりの再開のときでしょー」


「私はサエと一秒離れるだけで一年経ったように感じるのよー!」


 じゃー今日はお母さん的に36000年経ったのかー。お疲れ様。


「それをその先公がー! ひーどーいー!!」


 そのとき、家の電話が鳴った。駄々をこねていたお母さんの切り替えも早く、ちゃっちゃとそっちへ向かう。


「はいもしもし。家庭教師のお誘いですかー? すいません、うちの子、学校辞めたんでー」


 そのいいわけ、すごく効きそうだけど、お母さんこそひーどーいー。


 でもそれ、私に子供ができたら使おうっと。ん、小学校は辞めれない? そんなの知ってるけど、言い張れば相手は折れるもんだよ、うん。


 黒いって?


 黒くないもん!!




 はい、地味に普通にありそうないいわけに関する話をお届けしました。

 黒いサエちゃんを書こうとしたんですが、思ったより普通でした。

 や、でも小学生的には黒いほうなのでしょうか。皆さんどう思います?

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