カカの天下754「ぺたぺた」
んちゃ、カカだよ!
今日も楽しい学校が終わり、うちに帰ってサエちゃんサユカンと遊んでいました。やがて夕方になるとサユカンが「今日は夕飯の準備をお手伝いするのっ!」と帰ってしまい、サエちゃんと二人だけになりました。
やがてトメ兄が帰ってきたものの、そっちも夕飯の準備。結局二人だけになってしまい、何して遊ぼうか悩み中。
「うちはまだお母さんが帰ってくるまで時間あるから、もう少し遊びたいんだよー」
「うーん、何しよっかなぁ。遊び道具は何がある?」
サエちゃんと二人して、私の部屋の中をキョロキョロ。やがて見つけたのものは、
「紙、ペン、そしてやたらと粘着力のあるテープ」
「それでどうやって遊ぶのー?」
この三つがそろっているなら、やることは一つしかないね。
私はサエちゃんを誘って部屋を出る。足音を忍ばせて台所へ移動。そこには鼻歌を歌いながら包丁を動かすトメ兄の背中が。
「サエちゃん、あれ見てどう思う?」
「主婦」
まったくもって同感。
だから私は紙に『主婦』と、ぶっとーい字で書いて、トメ兄の背中に貼ってあげた。
ぺた。
「……ん、カカ。いつの間に」
「今の間に」
うん、貼り紙は気づかれてない。
「カカ、あのさー」
「どのさー?」
「あの」
「どの?」
「あれ」
「どれ?」
「えぇい、うざい! 最後まで喋らせろ!」
えー。これトメ兄に教わった返し方なのに。
「えーっと、僕さ。ちょっと商店街に買い忘れがあったから買ってくるわ。外に出るときは戸締りよろしくな」
「ん、いってらっしゃい」
「いってらっしゃいトメお兄さん」
そしてトメ兄は背中に『主婦』という文字を背負ったまま、商店街へと出かけてしまった。
「あーあ、いっちゃったねー」
「大丈夫、トメ兄はちゃんと主婦っぽいし」
「それもそだねー」
よし、外へ飛び出そう。
紙とペンとテープを手に!
ちょっと歩いて通行人がちらほらいる道路へ出る。さてさて獲物は? や、その前に。
「サエちゃん、何か思いつく言葉ない?」
「可哀想」
なんでそんな言葉がスッと出てきたのかは聞かないでおこう。
「よーし、『可哀想』と。これ書いた紙、誰に貼ろうかな」
そう呟いたとき、いいタイミングで一人の男性が通りかかった。
「ふんふんふーん、今日は彼女とデ、イ、ト! むふふ、むふふふ」
ご機嫌で歌う彼の背中に、私は無言で『可哀想』の紙を貼ってあげた。ぺタ。
「浮かれ具合が目ざわりでつい貼っちゃった」
「なんだかあの人、あれ貼られただけで今日フラれそうだよねー」
「めでたしめでたし」
「どうせならあそこの疲れ果てたサラリーマンに貼ればよかったのに」
「それはさすがにアレじゃん」
「アレすぎるかー」
さぁ次いこう。
「サエちゃん、次の言葉は?」
「気持ちイイ」
だからなんでそんな言葉が……ってツッコまないツッコまない。私はボケだ。
「よし、『気持ちイイ』と。うまく書けた、じゃあこれは誰に……」
サラさんが通りかかった。こっちには気づいてないので、無音で忍び寄ってぺタリと背中に貼ってあげた。
「サラさん気持ちイイってさ」
「なんかエロいねー。おっぱいおっきいし」
良いことをした。さ、次!
「サエちゃん?」
「今なら1980円」
何がだろう。サエちゃんは謎がいっぱいだ。そこが好き。
「これどこに貼る?」
「人に貼るのはさすがにねー」
「あ。でもあそこにピッタリの人がいるよ」
「ほんとだ。カカちゃんごー!」
なんかボロボロな服を着て道の端で寝ている男の人にペタリと貼ってあげた。今なら1980円。
「結構安いけど、売れるかな?」
「私なら買うかなー」
「サエちゃんてばお金持ち! 私はもう少し安くなってから買うなぁ」
まぁ、なんでこんなとこに転がってるか知らないけど頑張れシュー君。
「あ、こんなところに車があるよサエちゃん」
「安全運転」
「お、サエちゃん優しい!」
サラサラーっと書いて、車体にペタリ。
「安金運転って書いちゃった」
「安いお金で運転。タクシーと間違えられるかなー?」
「いいんじゃない? 退屈な人生に刺激を!」
「――勝手に持ち主の人生を退屈にさせるなよ」
後ろから聞きなれたツッコミ。トメ兄だ、商店街から帰ってきたらしい。
「ったく、カカ! またおまえはこんなことして」
「あ、車行っちゃった」
『あ』
車の中に運転手がいたらしく、『安金運転』と貼られたまま発進してしまった……あ、すごい。ちゃんとタクシーと間違えて手をあげてる人がいる。この街の人って本当にノリいいなぁ。あ、しかも乗せちゃった。ノリよすぎ。
「あ、私そろそろ帰る時間だー」
「ん、サエちゃんまたね」
「カカちゃんまたねー!!」
こうして、私たちは手を振って別れた。
「なぁカカ」
「なんじゃらほい」
「サエちゃんの背中、何か貼ってあったな」
「うん。『今日はあんまり黒くなかった』って書いて貼っておいた」
「感想かよ」
どっちかというと私みたいなこと言ってた気がする。一心同体化が進んでるね。さすが結婚しただけはある。
「そしてカカ、おまえの背中にも何か貼ってあるぞ」
「なんて書いてある?」
「……『ぬくぬく』」
「……私って、ぬくぬく?」
「……なんか平和で温かそうな緩そうな感じで、似合ってるんじゃないか?」
「ならいいや。帰ろ」
「待て待て、そんな紙を貼り付けたまま外を歩くな!」
トメ兄はわざわざ紙を剥がしてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして。紙なんて貼ってたら格好悪いからな」
そっか、そうだよね。
ところでトメ兄は『主婦』の紙をいつまで背中に貼ってるつもりなんだろう。私の知ったこっちゃないけど。
ほのぼのっぽい普通のお話書いてみました。ええ普通に子供が遊ぶだけの話です。
安金運転。その言葉を思いついたっていうだけの理由でこの話が生まれました。ただそれだけです。
しかし最近黒いサエちゃんあんま書いてないなぁ。何か書きたいなぁ。リクエストありませんかー?