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カカの天下  作者: ルシカ
752/917

カカの天下752「逆転裁判」

 あ、あのぅ、トメです……なんだか突然おどおどした声を出してすいません。しかしそれも仕方のないことなのです。えぇと、僕がいま座っているのは自宅の居間のテーブル前、ただそれだけなのですが……


 それだけなのですが……


 そのテーブルの上で仁王立ちしているのは――


「我こそは裁判官カツコ!!」


 だ、そうです。おっさんくさいジャージ姿のくせに何をほざいているのでしょうかこのバカは。


 そうツッコみたいです。いつもならツッコんでます。


「ただいまより裁判を行う!!」


 しかし、なぜかツッコめません。それは辺りに漂う、異様な雰囲気のせい。場の厳粛な重圧が僕の心を圧迫し、言葉を発することができないのです。さらにビビった身体は勝手に正座で畏まってます。なんだこれ。ここが裁判所だとでも言う気か? 居間のくせに。姉のくせに。


「罪状!」


 んっと、姉が何かに怒ってるのはわかる。


「此処に座る笠原トメには!」


 でも、何かしたっけ僕。


「カカちゃんに三回もちゅーされた疑いがかかっている!!」


 ……はい?


「笠原トメ君」


「なんスか」


「君は先ほど、カカちゃんに三回ちゅーされたと聞くが、それはまことか!?」


「ま、まことです」


「判決、死刑」


「なんでやねん!!」


 久々にメジャーなツッコミしちゃったよ。


「じゃあ半ケツを死刑。さぁケツをだせ。削いでやる」


「それ結局死ぬから!!」


 ケツから血を吹き出して死ぬなんて勘弁してほしい。


「おいジャージ裁判長! 何を聞いたか知らないけど、僕は妹に襲われただけだぞ! なんでそれであんたが怒ってんだよ!?」


「あたしだってちゅーされたいんだよ!!」


「八つ当たりかよ!!」


「うっさい! 妹にちゅーされてんじゃねぇよ変態! あたしも混ぜろ!」


「ならあなたも変態ですよね!?」


「変態上等!!」


 そりゃさっきは僕も驚いたけどさ、カカがたまーに甘えてくることはあるし、それは猫みたいな気分的なものであってだな、そんな変態的要素なんて全然ないんだぞ? や、本当に。


「おぅけぃおうけぃ、ならばここで証人喚問したいと思う」


「……なんの証人だよ」


「見ればわかる。さぁどうぞ!」


 呼ばれるまで待機していたのか、廊下から居間へと入ってきたのは。


「サラです」


「証人だからしょーちゃんか」


「サラです!!」


「被告に発言は許していない、黙りなさい!」


 姉に怒られた……被告って僕のことだよな。


「ではしょーちゃんに質問します」


「サラですってば!」


「カカちゃんに三回もちゅーされたトメをどう思う!?」


「無視ですかぁ!」


「あたしの質問を無視すんな!」


 ケンカすんな。


「はぁ……わかりました、証言しますよ」


 何言うんだろサラさん。姉の八つ当たりを鎮めてくれるといいんだけど。


「私なんて弟ちゃんどころか妹ちゃんですらちゅーを断られるのに、どうしてくれるんですか!?」


「それも八つ当たりですよね!?」


 僕のツッコミは聞き届けられなかったらしく、サラさんは無視。姉はサラさんに向かって深々と頷きやがった。


「よろしい。それでは次の証人だ。サカイちゃん」


「はいー。トメさんは私と同じ保護者、つまりは同士。私と同じようにお風呂を一緒に入ってハァハァしてるに違いない!」


「それはない! ていうかあんたどっから出てきた!」


「よろしい。続いての証人!」


「ゲンゾウ兄弟、セイジだ」


「トウジだぜ」


「何やってんだあんたら!!」


「証人に質問だ。あなたたちは姉にちゅーができますか?」


『気色悪い、勘弁してくれ』


「そりゃそうだろうよあんたらの歳になれば!」


 そんな僕の魂の叫びはやっと姉に届いた。


 そしたらなんか怒った。


「若ければ許されると!? 若かりし頃の過ちか!! そんな青春を謳歌しているぞと自慢したいのかチミは!? なんだチミは!? なんだチミはってか!?」


 最後のは僕のセリフじゃないのか。


「まったくこの男は!!カカちゃんのちゅーがどれだけ大切なものかわかってないね!! めぐまれない子供がどれだけカカちゃんのちゅーを求めているかわかってない!!」


「めぐまれない子供ってエラい限定的なもん求めますね!?」


「めぐまれない子供に愛のちゅーを! 一万超えるけど」


「ちゅーするの大変すぎますね!?」


「その大変なちゅーをおまえは独り占めしたのだ!」


「会話ができているようでできてない!!」 


 はぁ、はぁ……息切れするほどの大論争。その最中で僕は思いついた。これは裁判、ならば!


「じゃあここで反証に移らせてもらう」


 そう、僕のほうだって無罪を主張するために証人を呼べるのだ。


「カカ!!」


「シュバッ!!」


「うお、カカちゃん!? いつの間にクソオヤジの移動術を!?」


 や、シュバッて口で言いながら普通に入ってきただけですけどね。


「カカ、今回の裁判をどう思う。おまえが僕にちゅーしたのをみんな怒ってるんだけど」


 さぁカカの証言は!


「別にええやん」


「負けたぁぁぁぁ!! あたしたちの負けだぁぁぁ!」


「あんたらここまでやったわりに弱いですね!?」


 ま、まぁカカ本人がいいって言ってるんだし、ねぇ。


「誕生日なんだから、そんくらい」


「……へ?」


 カカの言葉に、その場にいた全員が呆気にとられた。


「誕生日……? 誰の?」


「トメ兄の」


 今日、何日? 


 あ。あー、あー!!


「僕の誕生日か!!」


 忘れてた。すっかり忘れてた。みんなも驚いてる。みんなも忘れてた。なんか寂しいなチクショウ。


「そ。だから三回のちゅーが私のプレゼント。どうだ!」


 どうだって言われても喜んでいいんだかどうなんだか……ん。


 待て。まてまて。マテマテマテマテ。


「マテマテ? なにその可愛いっぽい生き物」


 カカの声は無視しろ。それより大事なことがある。


 僕が、誕生日? 


 つまり。


 サユカちゃんも、誕生日?


 皆さんは気づいているだろうか。実はカカの寄生ちゅー騒動があったのは夕飯どき。それから一時間ほど経って姉が現れ、裁判騒動となった。姉がどっから聞きつけてきたのか、証人たちはこんな時間にここまで来て何をしているのか、阿呆なのか、頭と体裁は大丈夫か、色々と疑問は増えるが……


 大事なのは、今が夜中だということ。


 今日がもうすぐ終わるということ。


 サユカちゃんの誕生日を、祝う前に終わってしまうということ。


 今日が終わるまで、あと二時間。


 ――どうする?




 逆転っていうか別方向な展開になりました裁判。

 さーどうするトメ君。時間はないぞ。


 ……トメとサユカの誕生日、覚えてる人いたかなぁ。いないだろうなぁ。昨日のちゅーはそう思って仕掛けたトラップだったり。

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