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カカの天下  作者: ルシカ
75/917

カカの天下75「新入りと帰ろう」

「きりーつ、礼」


 こんにちわ、カカです。


 ようやく今日の授業が終わったところです。もうくたくたです。


 特に最後の社会。漢字が並ぶとすごく眠くなります。聖徳太子とか。あれはもう催眠術です。じゃあ先生は催眠術師なのでしょうか。


 いいなぁ催眠術師。いつでも誰でも寝かせることができるんだよね。便利。イロイロと。でも授業中に使うな。漢字喋るな。聖徳太子喋るな。聞いてるだけにしろ。聞くの得意でしょ聖徳太子。


「カカちゃん、かえろー」


「ん、サエちゃん」


 聖徳太子はさておいて、いつも通りにサエちゃんと帰ろうとしているところで――廊下のほうでちらりと見えた、見覚えのある顔。


「じゃ、ついでにそこにいる人も誘いますか」


「んー、そこの人って?」


 私はランドセルに必要なものを詰め込み終わると立ち上がり、サエちゃん従えてたったかと廊下へ。


「ほら、サユカちゃん。帰るよ」


「んなっ!?」


 怪しげに廊下をうろうろしていた女子生徒は、なんかすんごく身体をのけぞらせて驚いた。


「な、なによっ。別にわたしは君らなんか――」


「はい、いーからいーから」


「ちょ、おいっ、手を引っ張るなカカすけ! 君は昨日から人の話を聞かなさすぎなのよっ」


「いーからいーからー」


「サエすけまで背中を押すな! 別にわたしは君らと一緒に帰る気なんかっ」


 むぅ、気性が激しいなぁ。


 そうだ、こんなときは催眠術。眠くさせればきっとおとなしくなる。


 私はランドセルから社会のノートを取り出した。


「宇治川の戦いは羅針盤の開発によって明治維新は桃源郷、最後にペリーの反乱は織田信長とレッツゴー」


「……なにそれ」


 ぅおう、素晴らしきかな居眠り授業のノート。最後は一体どこへレッツゴーしてるんだろう。教えてよ信長。


「ともあれ催眠術って難しい」


「ほんっとわけわかんないわねっ、君」


「ま、いいから行くよ、お姉さん」


 昨日(前話)のことを思い出して試しに呼んでみた。


 するとサユカちゃんは激しくなっていた表情をピタリと止めて、


「しょうがないなぁ、もう」


 緩む頬を押さえながらあっさりと頷いた。


「ちょろいなー」


「カカすけ何か言った?」


「や、なんにも」




「ところでさ、カカすけ。君、ケンカ強いって本当?」


 いざ一緒に歩き始めれば、さっき文句を言っていたのが嘘のように普通に話すサユカちゃん。たぶんすごい流されやすいタイプだと思う。


「うん、そだね。中三くらいの男子なら勝てると思う」


「はぁ!? いくらなんでもそんな」


「前にカカちゃん、犬さんをいじめてた中三の子を倒してたよー」


「中三ってなんでわかるのよっ」


「その人、ケンカの前に名乗るのが流儀だって言って、最初に自己紹介してきたから」


「律儀なやんちゃすけね……」


「うん、律儀な人だったよ。負けたからってちゃんとお金もくれたしねーカカちゃん」


「おい……それはかつあげと言うんじゃないかしらっ」


「人聞きの悪いこと言わないでよ。大体こんなことくらいは朝飯前の寝ぼけた状態でもできないと、私の姉を名乗ることなんてできないよ?」


「どんなバケモノなのよ、君の姉は」


「忍び込んだドロボウを寝ぼけたまんまベッドの上で袈裟固めかけて、そのまま朝になって目が覚めると隣の男の人が寝てて(死んでて)びっくり! くらいはしないと」


「嘘よね? だってそんな人間いるわけないじゃない」


「実話だよ。三日前にやってたし。小学生のくせに自分の常識が正しいなんて思い込んでたら痛い目みるよ」


「君も小学生でしょっ」


 こんな風に楽しく会話していた私たちの前に、一人の警官が自転車で走ってきた。


 その自転車は道に落ちていた小石をタイヤで弾き飛ばして……近くで居眠りしていたノラ猫に命中させた。


 ぎにゃん!? と無性に可哀想な鳴き声が響く。


 あ、しまったという顔で警官は自転車を停めた。


 私はつかつかと警官に歩み寄って……とりあえず殴った。


 そしてお説教を始める。


「わー、警官まで倒した。カカちゃんすごい」


「……マジで? うわ、ほんとに警察の人が頭下げてるわ……むぅ。認めるのは悔しいけど、カカすけの言った通りだったのかしら。まだまだ常識わかってなかったみたい」


 などと感動されているところ悪いが、


「シュー君、こんなことして……お姉に言いつけるよ?」


「か、カカちゃん、それだけは勘弁してっ」


「じゃあシュークリーム三つね」


 私は単に知り合いにタカっていただけだったりする。


 猫さんありがとう、君の痛みは無駄にしない。経済的な意味で。




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