カカの天下747「にょー」
トメです。いきなりですが、ちょっと昔のことを思い出しています。
そう、あの頃。カカがまだ小さかった頃……
「トメにー! これどうやって乗るのー?」
「はいはい、ちゃんと教えてやるから暴れるな」
今よりもちっこくて今よりもうるさくて今よりも元気があって今よりも可愛いチビカカが急かしているのは、同じくミニサイズの自転車の乗り方だった。カカは早く乗れるようになりたくて仕方ないらしく、練習場所の公園に着くまでも自転車を引きながら「ぶーん」とか「ずごごごご」とか「ばっしゅーん」とか「でゅみゅーん」とか、どこにトんで行くのか心配になる擬音を立てながら歩いていた。
そして到着した今、ようやく教えることができる。
「補助輪がついてるからなぁ。まーあんまり何も言わなくても最初は乗れるか」
「そなの? いいの? ふとっぱら!」
けっして僕の腹が出ているわけではない。カカが子供すぎて言葉の使い方をわかっていないだけである。
「でぶ!」
僕じゃないからな。デブなのはカカが指差している通りすがりのサラリーマンだ。
「んだとこらぁ!?」
「わ、謝るの忘れてた。ごめんなさい!」
「ごめんちゃい!」
いきなり指さされてデブ呼ばわりされりゃ怒るわな。このショックを機会にあの人やせればいいのに、なんて懲りないことを思いつつカカに向き直る。
「じゃ乗る! のるのるのるのりゅにょる!」
「落ち着け」
「にょー!」
興奮するカカは早速自転車に跨った。
「このペダルを踏んで……」
「おーじょ様とおよび!」
「いくら激しく踏んでもそのペダルに返事をする機能なんか無いぞ。そもそもどこで覚えた、そんなセリフ」
「はっしーん!」
「聞いてよ」
「にょー!!」
とりあえず発進した。
おーおー、補助輪効果で最初はさすがに横転とかしないなぁ。
あ、横転した。
「うわああああああああああああああああああああん!!」
しかも泣いたぁ!!
「だ、大丈夫か!」
「痛いぃ……ひどいぃ……自転車のバカァ……ぱかぁ……人でなし……」
「人じゃないし」
とか悠長にツッコんでる僕が人でなしか。
「もう自転車要らない」
「ま、まぁ待てって」
「自転車屋さんもなくして」
「それはいきすぎ」
「じゃ自転車だけ全部捨てて」
「何屋かわからなくなるし!」
「米屋になる」
「なんで!?」
――お気づきでしょうか? 僕の家で自転車の登場率が極端に低いことに。実は過去にこんなことがあったせいで、カカが自転車嫌いになったからです。もちろん昔のことですし、カカが今に禍根を残して自転車を憎んでいることはありません。すっかり忘れてます。ただなんとなく乗らないだけでしょう。
さて、時は現代に戻ります。なんでこんなことを思い出したかというと。
場所は商店街の試食コーナー。通りすがりの僕らはチョコレートをいただいたわけです。
そしたらなんと激辛でした。人のいい商店街――人のよすぎる商店街は、たまにこんなお茶目なドッキリを仕掛けてしまうのでした。
その結果、見事に騙されてしまったカカはすっかりむくれてしまって、
「もうチョコ要らない」
こんな、いつか聞いたようなセリフを言い出してしまいまして、
「チョコなくして」
「お、お嬢ちゃん? ごめんねぇ、おばちゃん謝るからさぁ」
「全部捨てて」
「しょ、商品なんだけど」
試食を管理していたおばちゃんが必死でなだめているんだけど、効果はなし。
どうでもいいけど、あのときみたいに興奮して「にょー」とか言わないかな。言わないだろうな。あれ可愛いかったんだけどなぁ。
「じゃあ燃やして」
「ちょ、チョコを?」
『じゃあ』の意味が今ひとつわからないんだけど。
「チョコ会社を」
『じゃあ』の意味、把握。根本から潰せということか。
「チヨコも燃やして」
「とばっちりにも程があるぞチヨコさん」
「ご、ごめんねぇぇぇぇぇ! でもおばちゃん燃えたくないの! 勘弁してぇ!」
……試食のおばちゃん、チヨコさんだったのね。
「燃えたくない?」
「え、ええ。なんとかならないかねぇ?」
しかし子供相手に腰低いおばちゃんだ。
「じゃあ萌えて」
ハイ無茶振り入りましたー。
「べ、べつに脂肪だけ燃やしたいとか思ってないんだからね!」
ハイおばちゃん結構レベル高いでーす。
「許す」
ハイ判断基準さっぱり不明でーす。
――と、まぁ。こんな感じに今日も平和な商店街でしたとさ。
意味不明なサブタイトルから始まりました話ですが、実は単なる思い出話だったりします。チビカカを出したかっただけの普通の話です。最近、普通普通と連呼している気がします。お気になさらず。
さてさて、もうすぐ人気投票の〆切りですよー。GWに入る前に発表しちゃうかもしれませんよー。おはやめにー。