カカの天下746「ゆかいなおみせ」
カツコでーす! 姉デース! バケモノと呼ばれることもありマース。呼んだやつは殺しマース。身内はサービスで見逃しマース。その他は滅殺デース。
「すいませーん。この花くださーい」
「オーゥ、お客さんお目が高いデース! オメガ高いデース! 値段はそんな高くないデース! HAHAHA!」
「へ、あ、あの、店員さん!?」
そう、あたしは愉快な店員さん。今も楽しくお花屋さんで販売中なのだ。
「あっはっは。気にしないでよ、ちょっとした病気だから。その辺のおなら好きな霊が乗り移ったとでも思って。んで、どれ?」
「はぁ……これです」
「あー、それならいいよ、タダで持ってきな」
「いいんですか!?」
「うん。その花どうせ今日中に腐るし」
「ちょっと!? 元気なやつ選んでくださいよ!」
「いいけど高いよ? オメガ高いよ?」
「い、いくらくらいですか」
「例えばこの花。298円」
「安っ!!」
「何を言う。角のスーパーのコロッケが15個も買えるんだぞ。オメガ高いじゃないか」
「言われてみれば! 大家族でも満足の数だ!」
毎度ありー、とヒラヒラ手を振りながら見送るあたくし店員さん。あの子は安いが頑張る子だ、きっと社内でも元気に花を咲かせてくれるだろう。
「あ、カツコさん。何か売れました?」
奥にいた仕事仲間のサラちゃん登場。
「うん、これ売れた」
「……また随分と安いお花を」
「だってあの人、会社の使い走りっぽかったからさ。経費もかけられないだろうし、安くてしぶとい花を選んであげたのよ」
ふ、あたしってば意外と考えてるじゃろ? ってな感じで自慢げに言ったんだけど、サラちゃんは複雑そうな顔。
「カツコさんが普通にいい人だと気持ち悪い」
「んだとう!?」
「っていうのは冗談でして。カツコさんってお店のほとんど任されてるわりには、数字を作ろうって思いませんよね」
ふむ。バイト経験の長いサラちゃんは色んな職場を渡り歩いている。そこで「商売は数字を作ってなんぼ」という考え方も染み付いているみたいだ。
「不況な現在の世の中でずっと黒字でいられるのはすごいと思いますけど……」
そんなサラちゃんの凝り固まった考えを、少しほぐしてやらねば。
「そろそろ何か考えないといけませんよね。カツコさん、何かないですか?」
「ひらめいた!」
「もう!? っていうか、ひらめいたっていうのがすごく不安なんですけど!」
店の中にある適当な草を、ほいほいっと摘まむ。どりゃどりゃ? おまえらはやがて花を咲かせる草かいの? 咲かせなくても別にいいけど。これと、これもー。
「あの、カツコさん? そんなに草を持ってどうするんですか?」
「よし、こんくらいかな。集めたこの草をどうするかというと、サラさんに」
「え、ちょ、え!? どこ触ってんですか! あ、やん、そこ……あぁ、んっ、んぅ、やらしぃ、ですぅ」
「うへへへ、ねーちゃんえー乳しとるのぅ。えーケツしとるのぅ」
「ひぁぁん!? じょ、じょ」
「もみもみもみも――」
「冗談はいい加減にしなさい!! このハレンチバケモノ!」
わー怒ったー! でも目的は達成したー! バケモノって言われたのは身内だからスルー!
たったったーっと店頭へ出て、商店街の往来に向かって全力の大声で叫ぶ!
「いらっしゃい、いらっしゃい!! 今日の特売品はなんと、『おっぱい草』だよ! その名の通り、サラさんのおっぱいへ直に揉み込んだステキな草! たった今のことだから香りと温もりがまだ残ってるよ! さー買った買った!!」
「なっ!? ちょ、待っ」
『買ったああああああああああああああああああああ!!』
押し寄せる男性陣!! おっけーもう一押し!
「この草から花を咲かせた野郎はね、夢の中でサラさんのおっぱいを揉み放題にできるという伝説があるんだよ!!」
『もう一つ買ったああああああああああああああああああああ!!』
「だから大切に育ててねー」
『はーい!!」
もちろん伝説は今作った。いっぱい売れるし大切に扱ってくれるし一石二鳥。
「ちょ、ちょっと! 買わないで、買わないでくださーい! うあ何この恥ずかしさ! やめてお客さん! おっぱいおっぱい連呼しないで! 頬を赤らめて私を見ないで!!」
サラさんもバカだねぇ。そんな必死に言ってたらおっぱい草の信憑性を高めるだけなのに。
んー……おし、客層が男だけだし、女狙いも言っとくか。
「さらに!! 女性がこの草から花を咲かせてそれを食べると、サラさんと同じくらい胸が大きくなるという伝説が!!」
『買うわあああああああああああああああああああああ!!』
おおお!? 予想以上の反応! みんなそんなに胸を気にしてんのか。あたしはそんなに気にしてないからピンとこないけど……あともちろんこの伝説も即席適当に作った。ま、育てて「大きくならなかったわよ!?」って責められたら「所詮は伝説だし」とか「所詮おまえはその程度だし」とか答えればいいや。あれ、あたしって結構ひどい?
「うぅ……カツコさんひどい……私、これから商店街の皆さんに変な目で見られちゃいます……」
あー、サラさん泣いてる。でも気にすることないのになぁ。ここの人たちってノリいいだけで、本気か冗談かは大体わかってるのに。世の男がこんな往来で大っぴらに「おっぱいおっぱいフンゴー!」なんて本気で興奮するわけないでしょうに……多分。
ま、おもしろいから放っておこ。
「うう……しくしく……」
「いらっしゃい! 草を十本? や、お一人様一本なんですよ、その代わりこの、特に揉み込んだ草を十倍の値段で――」
「しくしく……ごそごそ……しくしく……ごそごそ」
「え、一番揉み込んでないやつを安値でくださいだって? 情けない! サラちゃんのおっぱいをなめてるね! 舐めてるって意味じゃないよ? とにかくそんなヤツには売らん!」
「ごそごそ……よいしょっと」
あれサラちゃん、あたしの隣で何やってんの? なんか涙もいつの間にか消えてるし。
「さぁいらっしゃい! 今日のもう一つの目玉がこれ、カツコこと姐さんパワー花! 不思議なパワーで朝から夜まで元気いっぱい!!」
なにぃ!? あたしのマネしやがった。しかもその花、あたしと何の関係もない! おっぱい揉み込んですらいない分、あたしよりハッタリ度が上だ!
「この無駄な元気を少しでも分けてもらえれば! えーと、腰が痛い人とか肩こりがひどい人とか治ります!」
なんでそんな健康思考なの、あたし花。
『買うのじゃあああああああああ』
なんだかご老人に大人気!? 世の中、健康ブームはまだまだ去っていなかったか。いやしかし、いつの世もエロブームに勝るネタはなし! あたしも負けてらんないわ!
「おっと、草を仕入れなければ! もみもみもみ!」
「ひぁぁん!! ん、この――あ、八百円になります!!」
「うお、あたしが仕入れてる(揉んでる)間にも販売するとは、まさに商売人! 負けん、負けんぞあたしは!」
「いらっしゃーい!! 空も飛べるかもしれない花はここデースよー!」
「それ麻薬みたいデースよー! こっちの夢が叶う草のほうがいいデース!!」
「そっちは悪徳商法みたいデース!! こっちのほうがー!」
『いいぞー! もっとやれー!』『金なら少しくらい払うから!』『はっはっは、やっぱこの店おもしれー』
老若男女問わずノリのいいこの商店街。
なんか黒字なのは人柄のおかげなのかなぁ、なんて思ったり。
……それともあたしとサラちゃんのおかげか。
危ない危ない、三連続投稿後にまた遅れるとこでした。
今日の話を思いついた発端?
べ、別におっぱいは関係ないんだからね!




