カカの天下737「ごろんごろん」
「ふにゃー……」
こんにちは……カカでふぅ……
あぁー、いま? いまね、ふにゃふにゃなの。溶けてるの。太陽さんがあんまりにもポカポカだからね、公園の芝生で大の字に寝っ転がって光合成してるの。
「あーったきぃー……」
解説しよう! あたたかい→あったかい→あったけー→あったきぃー、って感じ。
「あー……ぅうぅー……」
解説しよう! 気持ちよくて、あー、うー♪ な感じ。
程よい雲と、程よい陽気。これだけ春色な気候なら桜もじきに満開だね。あの桜が咲いたらお花見しないとなー。みーんなみんな集めて、騒いで……んあー、それはさておき現在進行形の太陽光が気持ちよすぎるー、草の匂いが心地よすぎるー、花の香りに癒されすぎるー。
たまに体を撫でるそよ風、揺れる草木の静かな囁き、涼やかな鳥の歌、遠くから聞こえてくるのは子供の声……公園って実は、すんごく快適なお昼寝スポットなわけですよ。意外とみんな気づかないわけですよ、気づいても知ってても、忘れてたりするわけですよ。
――なにを? お昼寝の幸せ具合を、ね。
これこれ、そこの大人さん。そんなに急いでどこに行く? ちょっとゆっくり休みなさいな。その辺に転がってる幸せも、けっこーいいもんなんだべよ?
「あー……お?」
私が寝っ転がってる芝生越しの道にて、そんな急いでる大人さんの一人が足を止めた感じ。
なにやらこちらを凝視されてる感じ。
かと思ったらズカズカと――や、芝生の上だからざくざくか。とにかく足音たてて近づいてきた感じ。
んで、見下ろされてる感じ。
私は薄らと開いていた目を向けた。太陽を背にして、ぼんやりと浮かび上がるシルエット。
「……おねーちゃん?」
ふと、自然に口が動いた。
「ワタシはあなたの姉なんかじゃないわよ」
あれ、違ったか。
ほんとだ。うちの姉と全く似つかない金髪さんだ。
「ユカさんだっけ」
「そうよ。あなたのお兄さんの天敵よ」
口元がニヤける。天敵だって? ウケる。
「……なにが可笑しいの」
「んや、日向ぼっこが気持ちよくてさー」
「……そう。じゃ、ワタシはこれ、で?」
目を細めてるからあんま見えないけど、ユカさんが訝しんでるのがわかる。
それもそのはず、私はユカさんの足をがっちり掴んでいるんだから。
「あの、離してほしいんだけど」
ぶんぶん、と首を横に振って拒否。
「なんで」
ばんばん! と空いてる手で私の隣へカモンと叩く。
「……一緒に寝転がれって?」
コクコク、と頷きまくって肯定。
「はぁ……久々に変なのに捕まったもんだわ」
観念してくれたのか、隣へ動く気配がしたので手を離す。寝転がるまではいかなくても、芝生へ腰を下ろしてくれたのがわかった。私は満足げに微笑む。
「意外と、のんびりさんなのね」
「んー? なんで?」
「なんだか、いつも動き回ってるようなイメージがあるから」
「そうでもないよー。まったり大好きよー」
そりゃ面白いこと大好きだから暴れるときが多いけどねぇ。いつも一緒にいるトメ兄がこういう年寄りくさいの好きだから、いつの間にか毒されちゃったんだよね。
「……まぁ、ワタシも最近は空を見上げることもなかったし。いいか」
促されて私も空を見上げる。
「あの雲」
それを見つけて、思わず指を空へ向けた。
「あの雲? うん、面白い形ね。まるで……」
「まるでトメ兄のツッコミみたい」
「どんな雲!?」
「あの雲は私のボケ」
「だからどんな」
「あれは黒いことしてるサエちゃん。愉快なことになってるサユカン。それを見て笑ってるテンカ先生とお姉、サカイさん」
一つ一つ、指を向けていく。
「料理を運んだりしてみんなのお世話をしてるキリヤン、ちゃっかり美味しいものばかり食べるサラさん、走り回ってるタマちゃんとクララちゃん、追い回されてるシュー。あ、あれは学校のみんなかな。あっちのは、サカイさんの動物団」
もう滅茶苦茶だ。でもしーらない。
「ずいぶんと楽しそうな雲の王国ね」
大事なのは、そこだけだから。
あったかくて、気持ちよくて、楽しければ、ただの雲だって――ラクガキし放題の王国なのだ。
「もちろんユカさんもいるよ」
「……そんな楽しそうな国に、ワタシみたいな恐い顔した女はいられないでしょ」
「そう? ユカさんっていつも楽しそうだけど」
「はぃ?」
すっとんきょーな声出してまー。
「え、っと……ワタシ、怒った顔しか見せたことないと思うんだけど」
「でも本当に怒ってはいないでしょー」
「……なんで、そう思うの」
「なんとなくー」
隣を見る。そこにはきょとんとした女の人。
実は穏やかな人。
うん、やっぱり。トメ兄を相手にしてるときの刺々しい雰囲気が全くない。あれはトメ兄とだけの“遊び”なんだよね。
「楽しそう、か」
天敵だなんて、そんな遊び相手の呼び方は聞いたことない。だから、面白い。
「そか」
ユカさんも面白かったのかな?
「……あはは」
笑いながら、頭を撫でられた。
すごく、優しく。
「おねーちゃん?」
あれ、頭を撫でられてたら、なんかまた勝手に口が。
「……お義姉ちゃん、か。そう呼ばせて遊んでたこともあったっけ」
「えと?」
「おっきくなったね、カカちゃん」
そう言って、私の頭をポンポン叩きながら、にっこり笑ったユカさんは。
やっぱり私たちの仲間なんだって、思って。
「それじゃ、また――」
「今度、お花見するの」
立ち上がったユカさんを引きとめるように、また口が動いて。
「そうなんだ……ふぅん」
「みんな、集まると思うの」
「雲の王国のみんな?」
「うん。だからユカさんも」
ユカさんは少しだけ考えるそぶり、そして。
「入国審査に受かったら、行くわ」
冗談交じりにそう言って、踵を返した。
来てくれるかな……
来てくれるといいな……
あと……
「入国審査、か」
なんか考えておかないと。
面白いのを。
最近、日差しが温かくて。
のんびり日向ぼっこしてたら、こんなお話が浮かんできましたとさ。
トメには毒舌満載のユカさんも、子供相手には普通のおねーさんだったりします。
トメ以外の大人へは……はてさて? 入国審査を突破すれば見れるのでしょうか。
それはそうと昼寝したいなーくそー。
あ、次の話のあとがきにでも人気投票の中間発表を載せまーす^^