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カカの天下  作者: ルシカ
736/917

カカの天下736「どんまいテンカ先生」

 よう、テンカだ。


 今日は始業式、その後に入学式がある。それが終われば宿題集めたり話をしたりだの、楽な仕事ばっかりの一日だぜ。ま、宿題をチェックするのは面倒くさいんだがな。


 まずは始業式。校長の挨拶から校歌斉唱へ。


「テンカ先生」


「あん? なんスか校長」


「伴奏のピアノをお願いします」


「……は?」


 そうだ。そういやいつもは教頭がピアノ弾いてたが、今日はいねぇんだ。珍しく校長が行事を仕切ってるなーと思ってたら……


「や、校長が弾いてくださいよ。ピアノくらいできるっしょ?」


「ねこふんじゃった、しか弾けませんわ」


「……マジか」


 この辺りはオレたち全員が教頭頼りだったか。


「というわけでテンカ先生、お願いします」


「似合わねぇっスよ?」


「弾けるなら関係ありません」


 無茶を言うなぁこの人……仕方ねぇ。オレは渋々ピアノ前まで移動する。


 座る。鍵盤を睨みつける。


 さぁ、どうする? 


『校歌、斉唱』


 ま、普通に弾けるんだが。


 何の問題もなく流れるメロディ。そして歌いだす生徒達。悪い、本当に悪い、おもしろくなくて心から謝る。


 ミスもボケもなく終わる演奏と斉唱。オレはこきこきと肩を鳴らしながら教師側の席へ戻った。


『続きまして、新年度についてのお話をいただきます。テンカ先生、どうぞ』


 ……あぁん!?


「ささ、どうぞ。テンカ先生」


 にこやかに促してくる校長。


「普通は校長がすんじゃねぇのか?」


「ねこふんじゃった、しか話せませんわ」


「嘘付けや!!」


 おっと、思わぬ事態についタメ口になっちまった。


「おほほ、わたくしは入学式のためにチャージしなければいけませんの。それにいつもいないわたくしがやるより、教頭の愛弟子であるあなたがやったほうが生徒の皆さんもしっくりくるでしょう」


 そ、そうなのか? っつうか、いつの間にオレはあのデストロイおやじの弟子になったんだ。おやじくさい自覚はあっけどよ。


「それではお願いします」


 オレは再び渋々とステージに上がった。


 教壇に置かれたマイクを見下ろし、さらに下の生徒どもを見渡してため息をつく。


 ま、できるんだが。


『おし! じゃあ聞け、そしてオレを見ろガキども』


 鋭く視線を走らせる。そして、


『三年、宮崎京伍!!』


 唐突な名指し。怒声によって体育館が震える。


『てめぇ、オレの声が聞こえなかったのか? なに俯いてやがる。耳がわりぃのか頭がわりぃのか、それともてめぇが悪いのか、どっちだ!?』


 そして罵声。予想外な展開によって生徒間に緊張が走る。


『……そうだ、てめぇが悪い。そうやって頭を下げるなら許してやる』


 生徒どもは不安そうに、恐る恐るチラチラと周囲の様子を伺っている。オレが名指しした生徒がどこにいるか気にしているんだろう。


『聞け!』


 そんな挙動不審を一喝した。


『いいか? 今みてぇに名指しされたくなかったら、ちゃんとこっちを見て話を聞きやがれ。オレは生徒の顔と名前を全て覚えている。不真面目なやつがいやがったら即、公開処刑だ! いいな!?』


『はい!』


 威勢良く返事をしたのはオレのクラス、さすがにわかってるな。


 しかし、他のやつらがわかってねぇ。


『おいコラ、不真面目なやつがいたら処刑っつったろ? 真面目なやつぁ返事はしっかりするもんじゃねぇのか?』


『はい!』


 まだうちのクラスだけだ。わかってねぇ、わかってねぇなぁ?


『何度も言わせんな!! 返事しやがれ!!』


『はい!!』


 増える声。ようやく意図が伝わったか。だがまだ足りねぇ。


『真面目なやつの返事っつうのはどんなんだ? 大きな声ではっきりと、だろうが!?』


『はいぃ!!』


『おいおいまだ聞こえてねぇのか? それとも意味わかってねぇのか? 恥ずかしいのか? 例えばそこの二年、松崎真太!! 口パクしても誤魔化されねぇぞ!』


 二人目の犠牲者が出たおかげで緊張感が高まったせいか――


『これから新しい学年だ、いいかてめぇら!?』


『はいぃぃ!!』


 生徒の声量は上がるばかり――


『変わるのは肩書きだけじゃねぇ! 授業、環境、教室、何から何まで変わりやがる。それを乗り越えるために何が必要なのか、このオレが教えてやる!!』


『はいぃぃぃぃ!!』


『それだ! その声、その意気、その気合だ!! てめぇらガキどもは元気さえありゃ大抵のもんは乗り越えられる!!』


『はいぃぃぃぃぃ!!』


『いいか! わかったかガキども!』


『はいぃぃ!』


『わかってねぇのか? 返事が小さいと何度言わせる!?』


『はいぃぃぃぃぃぃ!!』


『それだ!! その声を忘れるな! そして一年後にはもっと大きな声を出せるようになっていろ!!』 


『はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』


『また一年頑張るぞオラァ!!』


『はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』


『長げぇ!!』


『はい!!』


『以上だ!!』


『ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁ!!』


『長げぇっつってんだろが!!』


『した!!』


『短けぇ!! 以上!!』


 ふぅー……おお、なんか大勢に拍手されてる。


「おほほ、やっちゃいましたねぇ」


 教師側の席では校長が小気味よさそうに出迎えてくれた。


「でも名指しは感心しませんね」


「大丈夫だって。言っただろ? オレは生徒の名前を全て覚えていると」


 オレが指した名前を持つ生徒はこの学校に居ない。あれは単なるハッタリだ。


「いいえ、いるのです。 宮崎京伍さんと、松崎真太さんが」


「なに!? そんなはずはない。オレは生徒の名前を全て――」


「教師の名前は?」


「そっちは覚えてなかったぁ!!」


 よくよく見てみればシュンとなってる先生が二人! さらに聞けばオレが適当に言った学年も当たっていたらしい。ただし担任として。


「そうか。適当に言ったものの、どっかで聞いた名前だと思ったんだよなぁ……」


「お話自体はとてもよかったですよ。お疲れ様。次の入学式はきちんとわたくしがやりますわね、テンカさんは少々勢いが強すぎるので……おほほ」


 褒められてるのか微妙なとこだが、なんとなく校長と仲良くなれた気がする。


 その後の入学式は、校長によって無難に進められ……滞りなく解散し、生徒たちは各教室で集合して今後の日々に不安と期待を入り混じらせるのだった。


 そして新年度早々、全校生徒の前でオレに怒られてしまった先生二人は……とっても過ごしにくいスタートを切ったそうな。


 いや、マジですまんかった。めんごめんご。




 最近テンカ先生の出番が少ないとの指摘を受けたので、主役にしてみました。

 こんな始業式……ないよねぇ。だからこそ書くのだ!


 それにしても最近、二日に一度というより四日に二度更新になってきましたねぇ。日々のリズム的にこっちのほうがやりやすいんですよねぇ。

 不安定でごめんちゃい笑

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