カカの天下733「2008年度カカ天ダイジェスト」
こんにちは、トメです。
今日はカカの通っている小学校でお楽しみ会があるとのことなので、例年通り見学に来てみました。
「楽しみですね、トメさん!」
「楽しそうでお気楽で化粧濃くていいですねーサラさんはー」
「うるさいですよサカイさん。私だって去年みたいな小芝居することになって疲れてるんですから」
いがみ合うサラさんサカイさん。今年は二人とも保護者としてすんなり入れるはずだったんだけど、受付の子が「あ、去年のおもしろいお兄さんたち」とか覚えてたもんだから、またもや家族ごっこしなきゃならなくなったのだ。
「弟君も大変だねぇ」
「……姉。あんたはどうやって入った」
「天井から忍び込んだ」
さすが人外。忍者の娘。
「はっはっは、それに便乗させてもらいました」
「お、キリヤ……あれ、姉と仲良かったっけ?」
「いやだなぁトメ君。私は笠原ファミリーの誰とでも仲がいいですよ!」
笠原ファミリー……なんか単純に家族って意味じゃなくて、芸人とかでよくある団体的な意味に聞こえるな。例えばここにいる皆とか。
「あ。ほらサエすけ、いたわよっ!」
「トメお兄さーん、お母さーん」
向こうからぶんぶん腕を振りながら寄ってきたのはサエちゃんとサユカちゃんだ。
「サァァァァァエェェェェェェ!!」
「サカイさんうるさいです! 今回はサエちゃんが出るわけじゃないんですから!」
「私は常にサエを応援しているんです! あなたとは家族への愛情が違うんです!」
「そうですね、私のは真摯な愛情ですが、あなたのは変態的な愛情ですから」
「オラそこ! 周りの迷惑になっからケンカしてんじゃねぇ!」
「あ、テンカ先生っ! 一緒に見ましょうっ!」
「ここ空いてますよー」
「ふ、私の隣でよろしければ」
「よくない。キリヤンどいて、あたしがそこ座るわ。おーいテンちゃんこっちー」
「ったく騒がしいヤツらだ……おぅ!? シェー、いたのか。気づかず踏んじまったぜ」
「……た、タマ様は大丈夫……よかった……た、タマ様をご無事にお連れするのが僕の役目……ならばこのくらい……」
「シェー、いいからかたぐるましてー」
「鬼子ですか!? ていうか僕はシェーじゃなくてシューです」
「似てるからいいじゃん」
「クララ楽しみです!!」
うーん、どんどんファミリーが揃ってく感が……ところでクララちゃんはいつの間にいたんだろうか。
「そろそろ五年生の演目ですよー」
サエちゃんの言葉を聞いて、騒いでた笠原ファミリーが演目表に目を向ける。
ええと、なになに? まず最初が……
『タケダのワンマンショー』
なるほど、これが噂の。
じゃあ、その次が……
『タケダのワンマンショー』
待てい。
「あの……なんか同じ項目が二つあるように見えるんですけど」
「それはですねー、最初がカカちゃんのワンマンショーなんですけどー、そのワンマンショーの名前がー、タケダのワンマンショーなんですよー」
そんなにワンワン言われてもわけわからん。犬じゃないんだから。
「つまりー、タケダのワンマンショーっていう題でカカちゃんがワンマンショーをするんです」
「サエすけ、同じことワンワン言ってるだけよ、それじゃ」
「わんわーん?」
要約すると次がカカのステージってことだし……まぁ、見ればわかるか。
『それでは次に、五年生の演目に移りたいと思います』
アナウンスが流れ、うちのファミリーはステージに注目する。たった今の今まで四年生が何かしてたんだけど、失礼ながら全く見てなかった。ごめんな、名も無き四年生。
『まずは、笠原カカさんでタケダのワンマンショーです』
それにしても並べて『カカのタケダの』とか言ったらすごくわかりにくい演目名だ。ワンマンなんだかそうじゃないんだか。
ツッコミは心の中だけに留めておき、緞帳が上がり始めると同時に皆で拍手。賑やかな声援に迎えられて現れたのは……まず直立不動のタケダ。そしてその後方にカカ。なんだか脚の高い椅子に座って、台本のような冊子とマイクを持っている。
『えー、どうも。私は笠原カカといいます、初めましてこんにちは』
マイクを通してスピーカーから体育館に響く声。大勢の人前だというのに緊張の色はほとんどない。数々の経験から場慣れしてきたのかね。
『今から私のワンマンショーを始めます』
ワンマンのわりにはステージに二人いるんだけど、そこは触れないのだろうか。
『えっとですね、今から私が何をするかと言いますと……今年度、つまり五年生を振り返ってみようと思います』
お? 意外とまともじゃないか。で、どこがワンマンなんだ?
『そして、その思い出を、そこのタケダ君にどうにかして表現してもらおうと思います』
ワンマン……
『タケダ君、挨拶をどうぞ』
「ワンワン!」
マテ。
『景気よく挨拶したところで、早速去年の四月の話からいってみたいと思います。えー、昔々、まだテンカ先生も二十代だったころ』
「今はもう三十代みたいな言い方すんじゃねぇ!!」
『……え!?』
「意外そうな顔もすんじゃねぇ! オレはまだ二十――」
『なかったことにします。えっと』
客席からの苦情を華麗にスルー。怒りつつもステージを優先してあげたのか、テンは不貞腐れた顔で黙り込んだ。
『えっと、五年生になったばかりの私たち! 桜が咲いて、気持ちのいいスタートを切りました』
うん、ここは普通だ。
『そして、お花見!』
「桜が舞い散る中で、儚さと美しさを知りました!」
なんだか卒業式のやりとりみたいだけど……タケダの家まで行ってたのは、これを練習してたのかな?
『そして最初の事件が起こりました』
ん?
『なんと、クララちゃんという愉快な女の子が現れたのです!』
学校行事とか振り返るかと思いきやプライベートな話かよ! こいつぁ確かにワンマンだ! ワンマンプレイだ! んなこと言われても身内しかわかんないってのに!
「く、くらら登場です!!」
しかもタケダが何か言ったぁ!? とても気持ち悪い!!
「クララの偽者です!?」
本物キター!
『クララちゃんはいろいろあって、私たちの仲間になりました』
RPGのあらすじじゃないんだから。皆さんポカーンとしてますよ?
「く、くららしょっくでぇす!!」
黙れタケダ。おまえのセリフが僕らにとってショックだよ。
「クララしょっくです!」
本人も繰り返さんでいい。
「ふ、ふむ。こうか? くららしょっくです!」
練習もせんでいい!!
『えー、そしてですね。桜の季節も終わり』
進行はえーなー。
『次に、お母さんが帰還しました』
脈絡ねーなー。
『いつも、知らないうちに帰って、知らないうちに仕事へ出て行くお母さんに、いってらっしゃいを言うことができました』
……あぁ、そんなに心に残ってたんだな、あの日のこと。
今ここで、発表したくなるくらいに。
「いってきます、カカ君!!」
でもタケダがそのセリフを言うのがとてつもなく気に食わない。そんなん母さんと違う。
『次に誕生日!』
「知り合い二人の誕生日ということで、わたしってばどっきどき♪」
注:これはタケダのセリフです。
『まずトメ兄、っていう私のお兄ちゃんと』
カカの言葉に反応して、タケダが僕の紹介を始めた。
「はぁぁー、ツッコミツッコミ!(とても気合の入った声)」
ぶっ飛ばしていいか?
『私の親友の一人、サユカン』
次はサユカちゃんの紹介。
「とめさんラッブラブ♪(とても気色の悪い声)」
「ぶっ飛ばしていいですかっ?」
僕と同意見が出たが、周りのファミリーに「どうどうどう」と押さえられる。こいつらはどうやらこの続きを見たいらしい……まぁ、ぶっ飛ばすのは後でもできるか。
『この二人が同じ誕生日だったので、デートさせました』
「うふふ、あはは、うふふふあはははは」
つい一瞬前まで感じていた怒りが霧散した。
だってタケダ……笑いながら泣いてるんだぜ……
デートを表現するために、ステージに立って、一人で、道具もなく、なんかできそこないのパントマイムでカップルのマネしようと必死なんだぜ……
想像してみてほしい。百を優に超える人間の前で、一人「いやんばかん!」と叫ばなければならない姿を。
もし自分なら全力でやりたくない。今は春だというのに、心は冬を越える寒さとなるだろう。
「はぁぁぁぁ! いちゃいちゃいちゃいちゃぁぁぁぁ!」
どう考えても僕らがバカにされてる展開なんだけど、タケダがんばれーと応援したくなってしまった。それはサユカちゃんも同じらしく、同情っぽいものを込めながら、壊れていく彼を見ている。
『そんな梅雨を過ぎると』
どんな梅雨なのか詳しく説明していただきたい。
『今度はあの時期がやってきました』
夏、か。それとも夏休みか?
『お見合いです』
とことん学校関係ない方向へ行くのな!?
「我らがテンカ先生が、お見合いをすることになりました」
卒業式よろしく口上を述べたタケダが、さらに言いました。
「俺たち、私たち、三十二名は!」
はぁ。クラス全員がどうしたって?
「思いました。似合わねー」
「ぶっ殺すぞてめぇ!!」
今度はぶちキレたテンを止めるハメになった僕ら。がんばれタケダ、テンの形相を見ないようにしながら怯えて震えてるけど、逃げるなタケダ!
『そんな似合わないお見合いを、もちろんテンカ先生は完膚なきまでに破壊していきました、物理的に』
「フハハハ! どかーん、ばこーん! すぽーん!!」
街を壊す怪獣よろしく暴れる芝居を続けるタケダ。その憐れな姿にさすがのテンも怒りを鎮め――
「壊したのは誰だっつうんだアノヤロウ……だがここで騒ぎ過ぎればオレのことだとバレるし、それが本当だと認めることになっちまう……我慢……我慢……いつでも殺れる、いつでも殺れる、オレならヤツをいつでも殺れる……」
――て、なかった。自分に言い聞かせるようにブツブツ呟いてる。このあとどうなっても知らないぞ、カカ。
『そして夏祭りがやってきました!』
「あーらえっさっさー!」
盆踊りを踊るタケダ!
『繰り広げられる、漫才大会!!』
「いちゃいちゃいちゃいちゃぁぁぁぁ!!」
誰と誰のコンビ漫才のことを言ってるのか知らないけど叫ぶタケダ!
『優勝は、私!』
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
『疲れてるんじゃないよ!!』
「はぃぃぃぃぃぃ!!」
タケダ、がんばれ。もうそれしか言えん。
『その後、私の親友であるサエちゃんのお母さんが帰ってきました』
「この話は十八禁なので言えぬ!!」
ざわ……ざわ……騒然とする体育館。説明が不足すぎて、またもや身内しかわからないネタなんだけど、それでもざわめく十八禁。みんな注目、十八禁。サカイさんのやったことも、十八禁……というか、単純に禁。
『私たちの、誕生日は!』
「十八禁!!」
ざわざわざわざわ!! 十八禁が大人気!
でも、なんちゃって結婚式はやりすぎた感があるし、伏せておいて正解かもしれない。
しかし運動会を飛ばしたね。少しは一般の人にわかる話を入れようよ。やなヤツと張り合ったりして色々あったんだしさ、って、ヤナツ君を最近見てないな。生きてるのかな。出番あるのかな。
『クリスマスには、日ごろの感謝の気持ちを大人の皆さんに返しました』
あー、あのお呼ばれした日のことね。ペアに別れてカカサエサユカの部屋に入って遊んだ……タケダはどうやって表現するのかな?
「いやああああああ! 見えちゃう! 見えちゃううううう!」
うげろ。サユカちゃんのイヤンなシーン……あえてそこを選択するか……
ん、なんかキモいタケダがカカのほうをチラチラと見ている。
タケダは目でこう言った。「本当にやるのか?」と。
カカは目でこう言った。「やりやがれ」と。
「み、見えちゃうぅぅぅ」
控えめにもう一度そう言ったタケダは、少しずつ、自分の服を脱ぎ始め……
カカに蹴られた。
『本当に脱ぐやつがあるか!?』
「だ、だってぇ! 脱げっていったではないかぁ!」
『冗談に決まってるでしょ!』
僕は知っている。タケダが脱がなかったらそれはそれで「なんで脱がないの!?」とカカは怒るだろう。あいつはそういうやつだ。人でなし。
『そして迎える新年で、私たちは初詣から元気でした』
「すっぽんぽーん! すっぽんぽーん! 何が何でもすっぽんぽーん!」
『タケダ君はバカですね』
「なにをぅ!? 君らは新年からこればっか叫んでいたんだろうが!」
『んなわけないじゃん』
「んがぁぁぁぁー! また騙されたぁぁぁ! でもカカ君だから許す!」
いや、まぁ、実際は叫んでましたけど。
『バレンタインでは、私の兄のイヤンな過去が明かされました』
うをぃ!? まさか喋る気か!!
「いやん、だめ、あぁん、そこは」
タケダよ……その演技は何が言いたいのだ? またもやキモすぎて殺したくなってきたんだが。
『これが――その過去に出てきたトメ兄の元彼女、ユカさんの全貌です』
「うっふんあっはん!!」
「ワタシそんなんじゃないわよ!」
ユカいたの!?
『あ、いました。あの人、あの人がトメ兄を捨てたひどい彼女です』
「違うわよ!!」
『じゃあトメ兄に捨てられた可哀想な彼女です』
「それも違うわぁぁ!」
ユカ、落ち着け。注目の的だぞ。僕も注目されたくはないから声はかけんが。
『さて、次です。ホワイトデーにトメ兄は恥ずかしい手紙を配りまくっていました。ここで、そのトメ兄がユカさんに充てた手紙を朗読したいと思います』
『やめろおおおおおおおおおお!!』
ハッ!? 思わずユカと同時に叫んでしまった!
『タケダ君、朗読』
「ユッチー、愛してるZE!」
「書いてねえええええええええ!!」
「トミー、ワタシもYO!」
「返事なんて書いてないわよおおおおおおおお!!」
『どうですか? 私はこんなに愉快な人たちと一緒に今年度を過ごしてきました。何が言いたいかわかりますか?』
長々と続けてきた身内ネタしかない小芝居。それを見て何かわかる人間は、笠原ファミリーを含め誰一人としていなかった。
カカは、何を言いたかったのか?
その答えは、すぐにわかり、
『そう、これは単なる自慢です! どうだ、羨ましいだろー!』
そして脱力。
自慢……そうは言いつつ、何も知らない人にとっては微塵も理解できない展開だった。これを聞いてカカを羨ましがる人はいないだろう。
理解できるのは本人だけ。そしてその一年を実際に経験してきた僕らだけ。
それでもきっと、本人は満足なのだ。あとでみんなで食事会でも開いて、そのときに話の種にさえなれば、それで。
たった一人だけが満足する自慢会。たしかにワンマンショーといえるだろう。でも、まぁ。心底楽しそうに話すカカの表情を見て、心温かになった人もいるかもしれないし、これはこれでよかった……のかな?
『それでは私のワンマンショーは終わりです』
ぺこりとお辞儀して、なにやら真っ白に燃え尽きたっぽいタケダを引き摺ってフェードアウトしていくカカ。緞帳も下りる。
呆気にとられている会場の中で、僕ら身内の拍手だけが響いていた。
『次の演目に移りたいと思います』
さて、見るもん見たし、帰るかな。
『つぎは、タケダのワンマンショーです』
また!? と体育館中でツッコミが響く。そうだそうだ、これも見ておかないとな。
またもや上がっていく緞帳。そこんは、今度こそタケダが一人で立っていた。真っ白なままで。
「はぁ……はぁ……はぁ……身も……心も……ズタボロだ俺……もう何もできない」
無理くさい。退場か?
誰もがそう思った、そのとき!
意外な救世主が現れた!
カカだ!
「もしもネタがないならーって授けたのがあるじゃないの!」
なんと、カカは自分の演目に付き合わせたせいで失われたタケダの練習時間を気にして、ネタを授けていたのだ!(後で聞いた話)
タケダは目をくわっと見開いた。これしかない、これをするしか生き残る道はないのだと、大きく息を吸って――
「でゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅ――」
一発芸、連続百でゅみゅみゅみゅう。
しかしその日、覚醒したタケダが続けた「みゅ」の言葉は三百を超えた。
ギネスに載った。
嘘です。
予想以上にまとめるのに時間かかったり長くなったりで更新遅れまくっちゃったYO!
というわけで丸々一日遅れの更新となりましたが、お楽しみ会改め今年度を振り返ってみました笑
多分、予想を裏切った形だと思います。でもまぁ、イベントの後はゆっくりのんびり〜が私の基本スタンスですので。大げさに長々とイベントやるより変わったことを一発でやりたかったのです。長かったけど。
で、大きな事件をまとめたものの、深くツッコんで書くよりもタケダの妙ちくりんな動きで表現したほうがカカ天っぽいかなーと思ってこんなんなりました。
そのわりには動きの描写が少ない? いつものことじゃん。そこはタケダの魂を想像するんだよ。想像力と発展力と愉快力とアハハ力はでゅみゅ力を最大限に発揮するんだよ!
まー色々とありましたが。
カカ、五年生お疲れ様!!