カカの天下732「夜があけて、目もあけて?」
ふぁ……おはようございます、トメです。
昨日はイロイロとありましたが、二人をカカの部屋に押し込んでさっさと眠ってしまいました。なのでイロイロ危ぶまれた僕は無事でして、二人がどうなったか気になるところです。
「ふぁ……あ?」
ベッドから半身を起こそうとして、温かい何かに、ふにゅっと手が触れました。
嫌な予感と共に横を見てみます。
――だらだら。
そこには、僕と一緒の布団をかぶったサユカちゃんが!?
――だらだら。
こ、これはまさか、よくあるパターンの『やっちゃった朝』なのか!?
――だらだらだらだらだら。
などと思うはずもなく。
「おはようサユカちゃん。脂汗すごいよ。無理すんな」
だらんだらんと顔から滝のように流している汗を見る限り、サユカちゃんにとっては大冒険もいいとこの挑戦だったに違いない。ネタに付き合ってあげたいが、倒れそうなほど真っ赤な彼女の顔を見るとさすがに続けるのは気の毒だ。
「おおおおはようございます! ば、ばばばばっバレましたかっ!」
「いいから汗拭きなさい」
「は、はいっ! では失礼して」
そう言ってサユカちゃんは僕のシャツをまくり上げ――
「僕の汗じゃなくて! 自分の汗を拭けってこと!」
「ああああ失礼しましたっ! てっきり朝だからトメさんが大胆になってしまったのかとっ!」
大胆になってるのはどっちだ、と心でツッコミを入れつつ立ち上がる。寝巻きのまんまだけど……いっか。
「トメさんのパジャマ、可愛いっ!」
「そうか? 普通の青パジャマだけど」
「青パジャマ赤パジャマ黄パジャマですね!」
何か増えてる、じゃなくて、よくスラスラ言えたね早口言葉。
「サユカちゃんのケロリンパジャマも可愛いよ」
「ひくっ!?」
なぜしゃっくりする?
「……まぁいいや。ところでサエちゃんはどうしたの?」
「あっ、忘れてました! そうです、それなんです。ちょっと来てくださいっ!」
サユカちゃんは僕の腕をぐいぐい引っ張り出した。やっぱ大胆っていうか強引になってきたよなぁなんて思いつつ、ついて行ってみると……サエちゃんとサユカちゃんが昨日泊まったはずのカカの部屋へとたどり着いた。
「サエすけの様子がおかしいんです、ほら見てくださいっ!」
「お邪魔しまーす」
そーっと部屋に入り、ベッドを見てみると……そこには、半身を起こしたサエちゃんがいた。
長すぎる髪はジャングルのツタを無理やりかき集めたかのようにボサボサ。目は薄らと開いているけど焦点は定まっておらず、視力が働いているのか甚だ疑問である。
「え、っと。サエちゃん、おはよう」
「…………」
返事がない。まるでしかばねのようだ。
「サユカちゃん、昨夜はサエちゃんに一体何を……」
こんな魂抜かれたみたいになるまで……どきどき。
「何もしてませんっ! ベッドに入るなりすぐに寝ちゃったんですからっ!」
なーんだ。少し楽しみにしてたのに、あの後の展開。
……変な意味じゃないぞ? 冗談だぞ?
「しかし微動だにしないな。サエちゃんって寝起き悪かったっけ?」
「聞いたところによると、たまに熟睡したときは悪くなるそうですっ! 深すぎる眠りに入るとなかなか帰ってこないとか……いつもわたしやカカすけと一緒に寝るときはそこまで深くならないらしくて見たことないんですけどっ! やっぱりこれがそうなんでしょうかっ!」
なるほど。昨夜のチョコに含まれた酒のせいでその深すぎる眠りとやらに誘われたというわけか。
「さっきもかなり強く揺すってみたんですけど、全然起きないんですっ!」
「これ、微妙に二日酔い入ってないか……?」
なんだか異様にボーっとしてるような。
「揺すってもダメなら……サユカちゃん、どっかつついてみな」
「つつくって、どこをですか?」
「んー、わき腹とか。指先をぶっさしてみな」
くすぐったがりの人は結構これで起きる。ちなみにうちは父がこういう攻撃に弱かったりして、まだまともに住んでたころに起こしてくれと言われ、よくツッツキ攻撃をしたものだ。そしたら父はとても男らしい声で「オゥ!」「Hou!?」「ぁあん♪」とか叫びながら飛び起きたものだ。とっても気持ち悪い。
「どれどれ……えいっ!」
そんな忌まわしい思い出を振り返りつつ投げ捨てつつ、サユカちゃんのツッツキ攻撃を見守ってみた。
つん。
「……んぅ」
つんつん。
「……やーん」
お、反応あり。
「……んぅぅー。くしゅいー」
くしゅい? くすぐったいってことかな。
「……んぅ! くしゅいー、くしゅいー」
眉根をひそめて静かにくねくねするサエちゃん……ヤバイ、なんか可愛いすぎる。サユカちゃんも頬を赤らめてぽーっとしてるし。
ごん。
「あ痛」
くねくねしすぎて壁に頭ぶつけた。
「……うー?」
起きたかな?
「……千円」
なにが!?
「サエすけ。わたしがわかる?」
「三千円でしょ」
だから何が!?
「……あ。おはよーサユカちゃん。トメおにーさん」
「お、おお。起きたのか」
「み、みたいですねっ」
「んー……私、なんか言ってたー?」
僕とサユカちゃんはあえて教えないことにした。しかしとことんカカっぽくなってるなぁサエちゃん。
さっきの「くしゅいー」状態をまだ引き摺ってるのか、サエちゃんはフラフラしながらサユカちゃんに支えられるようにして朝食のテーブルについた。
「トメお兄さん、朝ご飯はなんですかー?」
「カレートースト。ほい」
並べたのは、昨日のカレーにチーズをあわせてトーストと一緒に焼いたもの。お手軽にできるアレンジメニューで、朝食に結構合うんだ。
「では、いただきます」
『いただきます』
行儀よく三人で手を合わせた、そのとき――
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」
懐かしいその声は!?
「カカすけっ! もう帰ってきたの!?」
「ただいま! 私のご飯は!」
「あ、じゃあ今から作――」
「むしゃむしゃむしゃむしゃ!」
「あ、僕のカレートースト!!」
他人の朝食をものすごい勢いでかき込んだカカは、もぐんもぐんと口を動かし、ごっくんと飲み込んで、
「寝る!!」
そのまま自分の部屋へと直行していった。
「……なんだったんだ、今のは」
「カカちゃん、寝ないで練習するーって言ってたから、徹夜明けなんじゃないですかー?」
はぁ、練習……なんの?
「徹夜かぁ、わたしにはマネできないわね……ところでタケダはどうしたのかしら」
「私の予想だと、向こうも睡眠不足と練習の疲労でくたばってると思うよー」
「そっかぁ、仕方ないわよね。すぐにお楽しみ会なんだし」
あぁ、お楽しみ会の練習してたのか。
……なんの?
――そのころのタケダ。
「息子よ、どうした」
「でゅみゅみゅみゅう」
どうしたのかは推して知るべし。
お楽しみ会の準備完了……やっとです。うーん、本当は春休みの前にお楽しみ会だというのに!
やはり二日に一度だと遅れ遅れになりますね……しかし今の予定だと仕方なく……
まぁ、なんとかします。急がず無理せずほのぼのと。