カカの天下730「ちぇ、ちぇんじ?」
こんばんは、トメです。
今日も今日とて夕飯を作ってます。肉カレーです。どれくらい肉いカレーかというと、牛肉、豚肉、鶏肉と全種類入れたカレーです。肉いです。なんか最近のカカは肉を食べたいみたいでしたからね。唐揚げとか。
「よしできた」
味見おっけー。さぁ妹を呼ぼう。
「おーい! 夕飯できたぞー!」
呼びかけるとすぐに妹の声が返ってきた。
「はーい」「はいっ」
なんと二つも。
……二つ?
居間を覗く。するとそこにはテーブルにスタンバイして今か今かと夕飯を待っている――サエちゃんと、サユカちゃんが。
「……あれ、うちの妹は?」
「今日は私たちがトメお兄さんの妹ですよー」
「ふっ! 不束者ですが! よろしくお願いしますっ!」
なんか、随分と前に似たようなことがあったような……
「じゃカカは、またどっか泊りに行ったのか?」
「さすがトメお兄さん、話が早いー」
「さ、さすがですっ! お、おお、おおおお、おにーちゃーんっ!!」
そんな頑張って妹やらなくても。
「おにぃぃぃぃぃちゃあああああんっ!!」
頑張りすぎ。
「んで、カカはどこ行ったんだ。サエちゃんち? あ、今度はサユカちゃんちかな」
「タケダんちー」
ほわっつ?
「……ぇ? サエちゃん、今、なんと?」
「だからー、カカちゃんはタケダ君の家にお泊りへ行ったんですよー」
「な、なんで?」
「なんか、お楽しみ会について打ち合わせがあるとかでー」
「卒業式しながら何か思いついたみたいですよっ! お、おお。おにぃっ!」
頭が真っ白になった。
うちの妹が……うちのカカが……あんなカス男のところに……
「コロス」
「トメお兄さん、落ち着いてー」
「落ち着けるか! うちのカカが! あぁうちのカカが! 男の家に外泊だなんてお兄さん許しません!! タケダ医院をデストロイしてやる!!」
「か、カカすけがいなくなった寂しさはわたしが埋めますからっ!」
「そういう問題じゃない! カカは嫁にはやらん!!」
「まーまーまー落ち着いてー!! 私もあんなゴミにカカちゃんを譲る気はありませんからー!」
「ほ、本当か? カカは大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよー。変なことしそうになったら、カカちゃんの手でタケダが消滅するだけですからー」
そ、そういえばそうか。そうだよな、タケダごときがカカをどうにかできるわけないよな。
「……しかし気にくわん。まさかカカのやつ、タケダに気があるのか?」
「それはないですってー。私が保証しますよー」
「そうか……」
ん、あれ。なんか、さっきからのサエちゃんの言動って……ま、まぁいいか。
「後で電話しよ……」
「はいはい、心配性なお兄さんですねー」
「で、ですから今はわたしたちで我慢してください! お、お兄ちゃんっ!!」
「や、別に僕は妹がいないとダメなわけではなくて」
「シスコンが今更なにを言っても無駄ですよー。ご飯ご飯ですよー」
「わたしでは妹として不足ですかっ!?」
だから別に妹になる必要は……って、ツッコんでも無駄か。はぁ。
「じゃ。飯、食べるか。今日はカレーだぞ」
「わーい」「わーいっ」
「お肉たっぷりだぞ」
「お肉! ウッホー! ウッホー!」「ウンババッ! ウンババッ!」
「……あーっと、そこの、なんか焚き火を囲む原始人のごとく踊ってる二人は何をしたいんだ?」
「カカちゃんのまねー」「カカすけならこれくらいはするかとっ」
するけどさ。
「別にさ、うちに遊びに来たってことで……無理してカカの代わりしなくてもいいんだぞ?」
「それじゃおもしろくありませんよー」「どうせやるなら楽しくいきましょうっ」
……こういうとこまでカカっぽい、なんて思いつつテーブルにカレーライスを並べていく。
「はい席について。それではいただきます」
いただきます、と手を合わせて行儀よくお辞儀。二人の妹(仮)もそれに倣う。
そして揃ってカレーを口に運んだ。
うん、我ながら美味い。でもカカ仕様で肉っ気多いんだけど……二人は大丈夫か?
「さすがですお兄ちゃんっ! すごく美味しいです!」
ほっ、よかった。しかしサユカちゃんにお兄ちゃんとか呼ばれるのはどうにも違和感が……
「サユカちゃん、その美味しさを例えるならー?」
「世界中のお肉がオーケストラを奏でている感じよっ!!」
なんだかとても暑苦しい光景が浮かんだ。
「それにこの甘口ながらも小さな辛み! これは愛がスパイスになってるんですねっ!」
サユカちゃんも恥ずかしいことを堂々と言うようになったなぁ。
でも、小さな辛み? おかしいな、けっこー完全に甘口なはずなんだけど……
「きゅう」
ぱたり、と。サユカちゃんが顔を真っ赤にして倒れた。
「え、なに、どした!?」
「ふふふー」
倒れた相棒を楽しそうに見つめるサエちゃん、その手には『後からくるビックリな激辛さ。ふりかけましょう鷹の爪』が握られていた。
「サエちゃん、それ」
「実はいつぞや誕生日にもらったのですよー」
「入れたの? サユカちゃんのカレーに」
「はい」
「いつの間に?」
「いただきますのお辞儀してる間にー」
「……で、後からきたのか。辛さ」
「ですねー。美味しい美味しいってがっついてましたから、見事な効果です」
「……なんでそんなことを?」
「サユカちゃんも言ってたじゃないですか、『スパイスが愛』だとー。これが私の愛ですよー」
なんか逆だった気がするんだけど。
「さぁトメお兄さん! 今ならサユカちゃんをいじり放題ですよー! 何します? 何しますー? イロイロ持ってきたんですよー。服とか耳とか鼻輪とか」
鼻て。
「とりあえず水を飲ませる」
「鼻からですね」
「ほんとカカっぽくなってますねアナタ!」
やれやれ、先が思いやられるわ……
「むー、つまらないですー……あれ、そういえば」
「どした?」
「いえ、こっちの話なんですけどー。カレー、タケダ、といえば……あの娘はどうしてるのかなーなんて思いまして」
「……?」
よくわかんないけど、とりあえずこの話は続くみたいです。
おまけ。
そのころのインドちゃん。
「むむ……!」
きゅぴーん、とその目が妖しく光りました。
「今日のカレーは……四味違う!」
残念ながら特別な力はありませんので、カレーの同士が増えても好きな人の家に女がいても、インドちゃんが気づくことはなかったのでした。
「豚肉、牛肉、鶏肉……山羊肉は?」
た、たぶん。
ふ、まさかタケダの家とは予想外だったでしょう。その辺りの様子は次回にでも、トメ家の様子と連動でお楽しみください。
ちなみに肉肉カレーは私が実際作ったりしたものだったりします。結構イケますよー。
それにしてもどら焼きは美味しいなぁ(話飛び&超私事