カカの天下727「ねーよ」
こんばんは、カカです。
もうすぐ夕飯の時間、なのにトメ兄は帰ってきません。先ほど届いた携帯メールによると、残業により遅れるそうです。
でも私はそんなにお腹が空いてません。余裕があります。トメ兄を待っていられます。ここは――余裕のあるうちに夕飯の用意をして、トメ兄をびっくりさせてあげるべきでしょう!
そんなわけで、私はまず献立を考えることにしました。
「んー、何が食べたいかなぁ? ご飯はいっぱいあったよね、たしか。じゃ、ご飯に合うもの……」
鶏の唐揚げ。これしかない!
「よし、メインは決まった。次は材料だね」
鶏の唐揚げに必要なもの……揚げるってことは、あぶらがいるよね。
「アブラカタブラ!」
言ってみただけ。
「こういうのは台所にあると思うから……鶏がいるね」
そんなわけで私は外出することにしました。
玄関を出て、鍵を閉めて、道路へ出て……五分も歩かないうちに目的地に到着します。
ピンポーンと呼び鈴を鳴らしてしばらく。
「あらあらー、カカちゃんじゃないですかー」
でっかい家の主、サカイさんが顔を出しました。
「サエはまだ帰ってないですよー?」
「知ってます」
さっきまで遊んでたからね。
「今頃は埋まってるはずですし」
「埋まってる!? サエが!! こうしちゃいられません」
「あ、間違えました。埋めてるとこです」
サユカンを。
「ならいいわー」
いいんだ。
「それで、サエに用事がないなら私に用事かなー?」
「はい。鶏をください」
あれ、なんで黙るのサカイさん。
「……あのー? カカちゃん、うちに鶏はいませんよー?」
「え、豚も牛も山羊までいるのに、なんで鶏がないの?」
「うちは肉屋じゃないですしー」
「知らなかった」
「知っとけー」
お、サカイさんにツッコまれるとは思わなかった。本人も珍しいことして小気味いいのか「うふふー」と笑ってる。
「ま、無いならいいや。今度は仕入れといてね」
「だからー」
適当に流してサカイさんと別れる。さて、どうしたものか。他にあるかなぁ、食材を調達できるとこ。うちの近くで……あ、セイジ食堂! きっと材料あまってるよね。
えっと、裏に回って……懐かしいなぁ。この辺りに捨てられた総理大臣のダンボールを置いてたんだよね。そしてこの扉の向こうが食材置き場――そういや私もひどいことしたな。食材置き場のまん前に総理大臣を置いたんだから。どうぞ食べてくださいと言っているとしか思えな――
「…………!」
絶句した。
扉を開けて勝手に進入した食材置き場。並ぶ大型冷蔵庫&冷凍庫の前には、まだ収納していないらしい食材の詰まったダンボール箱が並んでいる。
そのダンボールに囲まれるようにして、猫がびっしりと詰まっていた。本物の猫だ、なんだかお行儀よく座って整列してる!
「ま、まさか……」
これも、食材!? なんということだろう、この猫たちは揃いも揃って食べられるのを順番待ちしているのだ。なんてこと……こんなに可愛い猫ちゃんたちが食べられるなんて、あってはならない! ちょっと味見したいけど!
ここは一発、前のように書いておかないと。えっと、ペン、ペン……あ、でっかいホワイトボードがあるからすぐに見つかった。よーし、ちょうど猫ちゃんたちの背後にあるし、このホワイトボードに書いてやれ。
『食べないでください』っと。これでよし。
「わ、誰か来る」
逃げろ逃げろ!
「――というわけで家に逃げ帰ってきたというわけさ」
「ほほう。それで?」
なんだかんだやってるうちに帰ってきてしまったトメ兄に、私は先ほどの出来事を語っていた。
「結果として唐揚げは作れませんでしたとさ」
「……なぁ、なんで商店街に行かなかったんだ?」
「面倒だったから」
「これから夕飯を作るのは?」
「トメ兄」
「……面倒」
「許さん」
「エー」
「さっさと作れ」
「……そもそも唐揚げの材料だって、元々うちの冷蔵庫にあったのに……なぁカカ、おまえうちの食料状況を把握してないな?」
「してるよ」
「ならうちに何の食べ物があるか言ってみろ」
「アブラカタブラ」
「ねーよ」
一方。セイジ食堂のセイジは。
「さーて夜の仕込み前に納品物の整理……うお!? まーた猫の集会か。最近は総理大臣がいなくなったんだから場所変えりゃいいのに……あぁくそ、またホワイトボードで爪研ぎやがって! これじゃ書いてあった文字が読めないじゃ――あぁん?」
セイジは眉をひそめた。
ホワイトボードには、まるで猫の大群の総意とばかりに文字が書かれていた。
爪を研がれたために書かれていた文字は濁点に傷がついてしまい、はっきりと読めたのは三文字だけ。
それはまるで漫画の吹き出し。だから猫の大群が声を揃えてこう言っている気がした。
『食べて』
猫の大群が一斉にセイジを見る。
「ねーよ」
猫の大群は一斉に首を傾げた。
ふっつーの話を書きたい。
というわけで普通の話を書きました。
多分普通。おそらく普通。結局は猫食べてないし普通に違いない。
しかし気づけばもう三月も終わり……ようやく温かくなってきたところですな。私は花粉症でうぎゃあです。
うぎゃあ。
あーそうそう。どうやら小説家になろうのサイトの作品数が四万を越えたようで。あと色々と決まったようなのでおめでとうございます!
ってここで言っても仕方ないかもしれないけど、他にいう場所もないので……笑
ずっと使わせていただいている身として、心からお祝い申し上げます^^