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カカの天下  作者: ルシカ
724/917

カカの天下724「白い手紙たち」

 こんにちは、トメです。


 今日はホワイトデーですね。僭越ながらバレンタインにいくつかチョコをもらった身、お返しをしなくてはならない日なのですが……ここでカカから指令を受けました。


『お菓子はいらない。ただし、お返しは全て手紙とせよ。トメ兄にチョコを渡した人には全て了承済み』


 つまり、お菓子を持ってって「先月はありがとな」で済ますなということ。感謝の気持ちを文章にして返せということだ。あのときのカカたちみたいに……や、カカたちのはエセラブレターだったけど。


 お菓子を選ぶならまだしも言葉を選ぶ羽目になるとは。やれやれ、こいつは難しい。とはいえそれを望まれたならば、お返しする立場としては頑張る他になく……


「おーい、カカ」


 居間にいる妹に声をかける。


「はいよっさ!」


「なんだその粋な返事」


「えいやっさ!」


「どこの祭りだよ」 


「ほわいとでぃやっさ!」


「なぜホワイトデーに気合を入れてドジョウすくいをしているのか理解に苦しむんですけど」


 まぁカカだしな。


「ほれ、約束の手紙だ」


「ほいよっさ!」


 僕が放り投げた手紙を、カカは見事にすくってみせた。だからどうした。


「どれどれ、トメ兄はどんなことを書いてくれたのかなっさ?」


「そんな頑張って言葉使い変えなくても」


「恥ずかしい手紙を期待! えーとなになに? 『いつも元気をくれてありがとう、これからもよろしく。最愛の妹へ』って……」


 カカは突然走り出した。居間を飛び出し廊下を走り、トイレの扉をバーンと開けて、力いっぱい叫んだ。


「くせぇ!!」


「そりゃトイレだから臭いだろ」


「違う! トイレのほうがまだ清純な香りがするほどにこの手紙がくさい!!」


「あぁなるほどそういうことか――ってそこまで言うかオイ」


 わざわざトイレ行ってまで表現しなくても。


「くそぅ、トメ兄に恥ずかしい思いをさせるつもりが逆に私が恥ずかしい」


 にやり。


「カカ、いつもありがと」


「ぎゃー!!」


「最愛の妹よ!」


「うきゃあああああ!」


 おー逃げた逃げた。恥ずかしいんだか嫌なんだか知らないけどたーのしー。


 さて、次だ次。


 外へ出る。すでにメールで打ち合わせした待ち合わせ場所へ移動中……お。


「姉だ」


「おお弟よ。奇遇じゃの」


 そういや姉からもチョコもらってたんだっけ、さりげなく。


 あ。


 こいつにだけ手紙書くの忘れてた。


「ちょっと待ってろ」


「お、なになに? ホワイトデーのやつ?」


 えーと……


「やー、渡すタイミングなくて描写されなかったんだけど、ちゃんとお返しはくれるんだね!」


 なんか言ってはいけないこと言ってる気がするけど、姉だからいいだろう。それよりも……えっと……ポケットに何か……あ、レシートみっけ。これの裏でいいや。常備してるペンでさらさらーっと。


「ほい」


「なに、これ」


 レシートの裏に書かれた文字、『ばーか』を見つめて姉は顔をぐじゃっとしかめた。


「ホワイトデーのプレゼント」


「いらねぇぇぇぇぇ!!」


「はっはっは、ちゃんと白いからいいじゃないか」


「ホワイトデーはそういう日じゃないでしょ普通!」


「あんた普通じゃないからいいじゃん」


「えーんえーん! お姉ちゃん拗ねてやる」


「おーい歳を考えて喋れー……あ、行っちゃった」


 手紙以外にも一応クッキーなんか焼いてみたんだが。身内は後でいっか。


 さてさて、待ち合わせ場所にっと。


「あ、トメさんっ!」


「おやおやー、女を待たせる悪者が来ましたよー」


 サエちゃんとサユカちゃん発見。商店街を回っていた二人はこの後うちにきてカカと合流するらしいんだけど、僕の予定が詰まってたので先に会うことにしたのだ。


 ちなみに二人はカカへのお返しを買うためにうろついていたらしい。カカのやつ、見えないとこでちゃっかりバレンタインのチョコ渡してたんだよな。


「悪い悪い。ほい、ホワイトデーのお返し」


「わ、なんですかこの包みっ」


「クッキーな匂いがしますー。でもトメお兄さん、もちろんアレはー」


「はいはい、書いてきたよ」


 時間もないしちゃっちゃと渡してこう、と封筒を二人に渡す。えーと、黒い封筒がサエちゃんで、ピンクのがサユカちゃん。


「……なんかサユカちゃんのはともかく、私のは曰くつきっぽいんですけどー」


 イメージカラーだから仕方がない。


「えーとー? 『いつもカカのことを見ててくれてありがとう。サエちゃんがいるから僕も安心できてるよ。これからもどうかよろしく。カカの親友として、僕の友人として』とー、なるほどー」


「……何がなるほどなの」


「直球で相手に文句を言わせない作戦ですねー」


 バレたか。


「えへへー」


「な、なに」


「えへへへー」


 なんでニヤけながら背中をバンバン叩くのサエちゃん? えっと、なんだかんだで喜んでくれてるのかな? だったらよかったけど。


「えへへへへへー……あれ、サユカちゃん?」


 気がついたら隣にいたはずのサユカちゃんの姿はなかった。


「あ、いましたー」


 サエちゃんの指差す先には、全力疾走でここから遠ざかろうとしているサユカちゃんの背中が。遠目からも顔が真っ赤だとわかるとはすごい。驚きの赤さだ。


「トメお兄さん……なに書いたんですかー?」


「バレンタインに渡された文章をそのまま返してみた」


「そのまま、って、あれを?」


「うん、あれを」


「……トメお兄さんって、罪作りですね」


「そう? 僕もサユカちゃん好きだし、別に嘘じゃないよ」


「やっぱ罪作りですー」


 仲のいい友達へ『好き』と言って何が悪い。そもそも『そういう意味か』ってのはサユカちゃんが告白してくれた辺りでハッキリしてるんだから、これくらいしても罰は当たらないと思う。


「じゃ、僕は予定あるから」


「そうやって他の女のところに行くんですねー」


「そういうなよ。仕方ないだろホワイトデーのお返しなんだから」


「ふふふー、私へのお返しがこの程度で足りるとお思いでー?」


「……喜んでたじゃん」


「まだ足りません。いずれ徴収しにいきますからー」


「はいはい、わかったよ。今度な」


 何されるかわかんないけど、とりあえずご機嫌なサエちゃんに手を振って別れを告げる。


 次はっと。商店街に来たついでに花屋へ――あれ。メールだ。


「あれ、サラさん忙しくて今日ダメなのか……あれあれ、続けてテンからもメールだ。こっちもダメ? なんだよ、せっかく用意したのに」


 持ってきたチョコのことごとくを自分達で食っていったにも関わらず用意したというのに……仕方ないか。こういうのは気持ちが大切だし。


 気持ちが……大事。


「はぁ、気が進まないんだけどな」


 とぼとぼと歩いて、辿りついたのは病院の前。


 言わずと知れたタケダ医院だ。おずおずと足を踏み入れる。


「はぁ……ねぇねぇ聞いてよお客さん、またうちの女房ったら家を飛び出して旅行に行っちゃってさぁ……え、ユカちゃんの病室? それなら――ってああ! 君はもしやあのときの!」


 落ち込んでいたり普通に答えたり急に興奮したりする院長はさておいて、僕はその病室にノックして入った。


「ユカ?」


「むー?」


 ユカは病室のベッドで横になっていた。やっぱり足がよくないのか――


「むぐっ!?」


 と、いうわけではもちろんなく、うつ伏せにゴロゴロしながらポテチ片手に漫画を読んでいたのだ。足は元気に宙でぶらぶら。傍らには牛乳。


「ポテチと牛乳、合うんだよなーわかるわかる」


「むぐんぐんぐ!」


「でもそーだらしない姿を見せられると男としては萎えるよな」


「んぐん!」


 あ、ようやく飲み込んだ。


「なによあんた! 乙女の部屋にノックもしないで入ってくるなんて変態じゃないの!?」


「ここは病室だ。あとノックはしたぞ」


「漫画を読んでるワタシにそんなもん聞こえるわけないでしょ!」


 カカみたいな言い分だな。それにユカ、そんなに一所懸命にポテチと漫画を隠して佇まいを整えようとしてもすでに遅いぞ。


「それで、何の用よ。バレンタインから連絡もしないでいきなり」


「だって連絡先知らないし」


「こないだ渡したチョコの包みに書いておいたわよ!」


「あれ、そうだったのか。気づかなかった」


「あーあー……相変わらず鈍い男ね! にぶい! にぶ! にぶ? 二部を通り越して三部ね、これは!」


「ますますカカっぽいこと言ってないで、ほれ。受け取れ」


「なによこれ」


「ホワイトデーだから、お返し」


 なんだその呆気に取られた顔。ま、まさか……


「ホワイトデーに、手紙……? ぶ、ぶははははは! くさっ! くさすぎて、さむっ! 寒いし臭いしどうにもならないバカ男ねあなたは! あーあーなるほど、寒い、臭い、バカ、の三部構成というわけね。あーあー愉快愉快、こんなに笑えるなら確かにすばらしいお返しだわ!」


 か、カカのやつ……全員に了承を得たって言ってたのに! こいつには言ってなかったな!?


 後にカカは語る――「だって連絡先知らないもん」と。


「手紙……いい歳した大人が手紙……くひひ」


「じ、自分だってラブレターとか出したくせに」


「あら、これはラブレターなのかしら?」


「ぬぐぐぐ!」


 どうしよう、急激に恥ずかしくなってきた。


「はーずーかーしー♪」


「わ、渡したからな! ほらあとこれ! クッキー! じゃあな!」


「あ、待って」


「なんだよ!」


「メアドと番号交換しよ」


「へ? あ、ああ……」


 今までのドSモードはどこへやら。一瞬だけ素に戻って、赤外線通信をぴっぽっぱ。


「これでよし、ね?」


「おう、こっちも着た」


「おっけー。じゃ――出てけ変態!!」


「なんなんだよおまえは!?」


 蹴ったくられて病室を追い出された。二度と来るなーともまた来いよーとも言われた気がする。やれやれ、数年会わない間にわからなくなったもんだ。


「手紙、どう思うかな」


 大したことは書いてないけど、反応は気になる。


「ま、いっか」


 ……ともかく今日の使命は終わったし。帰ろっかな。


「お……?」


 なんかいる。目の前にいる。


「ホワイトデーとは男の日! つまり男から男へあげるのもアリなのだよトメ君!」 


「いっ……!?」


 その男は、でかかった。


 なぜかというと着ぐるみを着ていたから。


「さぁトメ君!」


 そう、人間サイズのチロルチョコのコスプレ(どっかで聞いたような)をしたキリヤは僕に向かって爆走してきて、


「私を食べてええええええ!」


「ぎゃあああああああああ!」


 なんだか愉快な鬼ごっこをすることになったのでした。


「めでたしめでたしです!」


「ちょっと待てキリヤ、めでたしって言うとなんだか僕がおまえに食べられて終了みたいな感じに」


「いえいえ! トメ君が私を美味しく食べてめでたしなのですよ!」


「アッ――! ってやっぱり逆じゃん!!」


 ちゃんちゃん。 




 なーんかいっぱい書いちゃった〜(笑)

 んーしかし、最近は過去編とか詰め合わせとかばっかですねぇ。ここらでこの上ないくらいふっつーのお話書きたいとこですが……

 カカラジ終わってからね! 次はカカラジですから皆さんよろしく!

 ではでは皆様、幸せなホワイトデーを。

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