カカの天下72「強風注意報!」
こんばんは、トメです。
「おー……」
「おおお」
妹のカカと二人して阿呆みたいに唸っているのは他でもありません。
外があまりに大嵐のため、うちのガラス戸にひびが入ってきたのです。いやー、こわ。
「ねぇ、これ割れるのかな」
「割れたら家の中、水浸しだよなぁ……」
「そしたら水遊びできるね」
「そうだなぁ、楽しそうだなぁ……」
「水たまり蹴ったり、濡れたカーテン振り回したり」
「ワイルドだなぁ……」
「じゃ、割ろうか」
「そうだなぁ……じゃ、なくって!」
あまりのひび割れっぷりに放心状態になっていた僕は、なんとか意識を回復させた。
「楽しくないからっ。片付けのときとか考えたら!」
「えー、でも大自然の息吹が感じられる野生的な味のある部屋になるんじゃない?」
日本の一般家庭にそんな部屋いらねーよ。アマゾンの一般家庭ならともかくさ。
「野生は大事だよ? 本当は一日バケツいっぱい食べなきゃなんないらしいし」
「野生を食べる? 野生動物? 野生動物をバケツいっぱいってどこにの姉だよ……ああ、野菜か」
「それそれ」
バケツいっぱいに詰められた動物達の破片を想像してしまったじゃないか。
そしてそれを貪る姉。うげろ。でもなんか似合う。
「ともかくだ。危ないからテープで塞ぐぞ」
「わかった」
やらないよりはマシなはずだ。
カカは持ってきたテープを適当な長さに切って、それを僕の口に当ててきた。
「ん、貼りにくいな」
「もがらっちゃ!!」
「……何語?」
ぴったりと貼りやがったテープを痛いのをこらえながらはがして、僕はカカを睨んだ。
「な、なにしやがる」
「え、だって危ないから塞げって」
「僕の口は危ないってか!!」
「うん、やらしー寝言ばっかり言う危ない口」
「僕はそんな寝言なんか言った覚えないぞ」
「寝言だもん、そりゃそうでしょ」
「僕に覚えがなければ、それは言ったことがないのと同じだ」
「何その勝手な理屈」
「誰かさんを見習ってみた」
「誰、その自分勝手」
おめーだ。
「とにかく、さっさと塞ぐぞ」
「えー、だってなんか部屋暑いし、雨入ってきたらちょうどよくなるって」
「暑いんなら脱げよ」
「ま、妹に向かって脱げなんて。やーらし」
「……殴っていいか?」
「妹に暴行だなんて。やーらし」
「……こんの」
ビキビキビキ!!!
本気でぶん殴ってやろうかと思ったとき、大きな音をたててガラスのひびが一気に広がった。
「……遊んでる場合じゃないね」
「そだな。テープ貼るぞ」
「うん」
さすがに今のは怖かったのか、悪ふざけもやめてカカも修繕を手伝ってくれる。
数分後、大体のひびを塞ぐことができたが……
「テープの隙間から漏れてるね、水」
「そうだな……これ、どうするか」
「とりあえずちゃんとした修理は明日するとして、今は漏れてくる水を下に雑巾敷いて」
「でも雑巾じゃ間に合わなくない?」
「そうだなぁ……ここで番して、ずーっと漏れてくる水を拭いてくれる人がいれば……」
「やっほ!! 我が弟&妹よ、外は嵐だけど、それ以上の嵐をその心に宿してるかい、べいびー!?」
「お、姉。ちょうどいいときに」
「こないだ私のチョコケーキ食べたよね。その罰として今日一日、そこのガラスのひびから漏れてくる水拭き続けて」
「……え、そんな、今日、一日?」
「そうそう、こないだ僕がへそくりしてた松坂牛食べたよな。罰として以下略」
「……え、ずっと?」
「「じゃ、よろしく」」
僕とカカは安心して、自分達の部屋へと戻っていった。
「な、なんてこったい……あたしの心のほうが嵐で荒んじゃうなんて!! 寒い、心の中にすさまじい嵐が吹き荒れて寒いわっ!!」
なんか聞こえた気がするけど、無視。
めでたしめでたし。