カカの天下719「れでぃー?」
トメです。
過去の話を一通り語り終えると、一同は誰からともなく「はー……」と息をつきました。
気がつけば皆して猛然と食べ始めていたチョコに誰も手をつけていませんでした。それほど僕の話に聞き入っていたのか……
あ、全部食べ終わっただけか。すんげー量あったんだけど。ていうか僕は数口しか食べてないんだけど。
ともかく。いま我が家の居間にはなんか大人数が集まっています。僕、カカサエサユカ、テンにサラさん、友人A。
……友人A?
ああ、気のせいだ。久々に話題に出したから集まってきたのかな、亡霊が。
「重い、ですね」
恐る恐る口にするサラさん、それに深々と頷くテン。しかし子供たちはどこか納得していないようだった。
「よくわかんないや。ね、サエちゃん」
「うん。二人とも好きだったんならー、うまくいくもんじゃないのー?」
そうだったら世の中もっと優しくなるんだろうけどねぇ……
「ガキどもよぅ。これはな、そういう油断してっと痛い目見るぞって話だ。覚えておいて損はねーぞ」
「納得できませんっ!!」
おお、サユカちゃん?
「だってトメさんに好きになってもらっておいて不満を言うなんておかしいですっ!!」
「さ、サユカちゃん? それあなたの主観MAXですから……」
「だってトメさんですよ! このトメさんにですよ!? いいなぁっ!!」
「……それが本音だろが」
なんともコメントしづらいなぁ。
「それもありますけど、それだけじゃありませんっ! 特に最後、病室のときの話! 事故は確かに残念でしたけど、なんでそんなケンカになっちゃったんですか? なんで即別れることになっちゃったんですか? 理解できませんっ」
僕も理解できてないと思う。でも、わかってることもある。
「サユカちゃん、恋愛って感情で動くもんでしょ? 感情ってその場その場で生まれたり消えたりするもので、理屈なんか関係ないでしょ? たとえお互い好きであっても、どんなに相性がよかったとしても、どんなにうまくいっていても……悪いタイミングで悪いことが重なるだけで、壊れてしまうこともあるんだよ。嘘みたいなスピードで良い感情が消えて、どこにあったのかと思うほどの嫌な感情が生まれてきて……」
大勢の人にとって恋愛というモノは、心の中で最も激しく揺れる天秤のようなものだと思う。生きる活力に、死にたくなる絶望に、嬉しい気持ちに、悲しい気持ちに、些細なことであっさりと傾いてしまう。
「むーっ! でもわたしは、トメさんが相手なら何があっても別れたくありませんっ」
そう言ってくれるのは嬉しいし、否定したくはない、それでも僕は大人になって知ってしまっている……その言葉も絶対じゃないことに。
信じればいい。その人の想いを。
ただそれだけのこと。
でも大人になるほど、その難しさは増していく。
「やっぱわかりまへんな、サエはんや」
「同感ですわーカカはんや」
……まぁ、小学生のうちから恋愛の難しさに理解を得られても、それはそれでムカつくからいいんだけど。
「おし、教師としてわかりやすい例を出してやろう。サユカよ、てめぇ他に思ったことねぇか? トメの話を聞いて」
「はいっ! わたしもその思い出話に登場させてほしいですっ! そしてユカさんより先にわたしが告白して、事故らずに幸せに暮らしたいです!」
んな無茶な。
「さて、もしオレがトメだったとしよう。そして仕事帰りでボロボロに疲れてカルシウムも足りてなくてイライラしてる状態だったとしよう。そしてサユカのそんな戯言を聞いたとしよう。どうなると思う? オレはキレる」
オイ。
「そして勢い余ってサユカを殺してしまう」
余りすぎ。
「でもテンカ先生ならあり得る!」
カカ……おまえさぁ……たしかに!!
「そういうこともあり得るのが感情ってもんだ。いざというとき感情が爆発したらどうなるかわかんねぇのが人間なんだよ。恋愛ごとしかり、事故しかり」
「なるほどー、恋愛が絡んだサユカちゃんが何を言い出すかわからないのと同じですねー」
「なによっ! わたしがいつ変なこと言った!?」
『さっき』
こんな例題で何か学んだのだろうか。教職ってレベルたけぇ。
「ま、偉そうに語ってみたものの……正直、トメの恋愛に関してはオレもなんとも言えねーな。愚痴くらいは聞けるがよ、結局恋愛のこじれなんつーもんは、本人同士にしかわかんねぇもんだしな」
「そうですねぇ、本当にトメさんが好きって言わなかったのが悪いのか、それとも他に悪いところがあったのか。そればっかりはユカさんと話してみるしかないんじゃないですか? ちょうどよく現れたわけですし」
大人な二人の意見――うん、同感だ。
「そう、だよな。僕もあれから色々考えたし。少しは大人になって落ち着いたと思うし」
懐からそれを取り出す。
あのときユカに庇われて突き飛ばされたときに地面にぶつかったのか、角が欠けてしまった銀の三角板のネックレス。部屋にしまってあったのを語り始める前に持ってきておいたのだ。これがあれば、より思い出せると感じて。
「なんだか皆に話してるうちに、僕の中でも整理がついたみたいだし」
「うんうん、そういうことってありますよね」
「おう、相談する時点で自分の答えは決まってるとも言うぜ」
そこまでハッキリしてるわけじゃないんだけどな……
「ただ、いくら事故があったといってもそれは昔のこと。何をどれだけ言うのか、自分の中で決めておいたほうがいいと思いますよ、トメさん?」
昔のこと……過ぎたことで熱くなりすぎるのも栓ないこと、か……うぅむ、さすが現実的な女性陣。
お?
チャイム音? まさか。
「私見てくるね」
たったったーとカカが玄関へ走る。
「ここで本人が来たらすげぇな」
「それはタイミングいいにも程がありますよテンカさん。そんな空気を読む魔法でも発動してるなら話は別ですが」
玄関のほうからカカの声が聞こえてくる。「お! 久しぶりー。元気してた? 生きてた? よかった」というやりとりから察するに……誰だ久しぶりって。想像つかないな。
あ、もしかして祖母ちゃんか? そういやあのババァ、しまっておいたユカからのパンツどこ持っていったんだか――
「まぁ上がって上がって」
そうしてカカに通されたお方は……老人ではあった。でも祖母ちゃんじゃない。しかしどっかで見たような……
「お久しぶりじゃのう。その節は世話になったのぅ」
「……あ!! たまにコタツ入りにきた、名前も知らないじーさん!」
「そういえば名乗ってなかったの。サワサカっちゅーもんじゃ。苗字は違うがユカの祖父での」
へ? ユカの?
それって、まさか。じーさんがたまにうちに来てたのって……?
「はいはーい、お邪魔するわよ。うわ、なにこの人間密集率。あーあー狭い家にこんなにいっぱい女連れ込んで……トメ、あんた幸せそうね? ワタシと違って」
――そしてご本人の登場となる。
「本当に来るとは思わなかったぜ」
「どうしましょうどうしましょう、修羅場ですよキャーキャー」
「サラさんっ! またトメさんが苛められるかもしれないってのに何で瞳キラキラさせて嬉しそうなんですかっ!?」
「もちろん理不尽な展開になったら口を挟んで助けますけど、女としてはこういうの傍から見るのもオツなんですよね」
「わかるわかるー」
「……なんでサエちゃんがわかんの」
「まーまー、皆して隅によって見てようよー。あ、おじいちゃんもこっち混ざるー?」
「ほっほっほ、チョコはあるかえ?」
「あーほれ、これ余ってたからやんよ。うめぇぞ」
「ふほほ! 女子にチョコをもらうとは何年ぶりかの! 格好いい女子よ、結婚してくれ!!」
「死ね」
「でもテンカせんせー。その人どうせもうすぐ歳で死ぬから保険金を」
「サエすけ黙ってなさい。始まるわよっ」
「トメ兄VSムカシノ女。ラウンド1! れでぃー、ふぁいっ」
えー本当は次の話で過去編を終えるつもりでしたが、もう一話続くことになりそうです。
理由としましては、そこまで一気に書く体力がないからです。またもや私事ですが、絶賛風邪っぴき中で高熱ぼかーんで座ってるだけできっつい状態です。なので勘弁してください……ちなみに感想返信も、も少し溜めさせてください……もちっと熱ひいたら返しますんで。
しかし18時間寝てもひかない熱ってナンナンデスカネ。
あ、あと励ましのメッセージくださった方々、ありがとうございます^^
これからも頑張っていきますのでよろしくです!!