カカの天下716「過去、想い合う時間」
トメでーす!
ふふ、ふふふ……や、顔がニヤけます。やらしいことを考えてるわけじゃないですよ? プラトニックな話ですよ、うん。
「どれになさいます?」
「待って」
プレゼント。彼女にプレゼント。あーなんか甘い響きだ!
「どれになさいます?」
「待って」
こういうのって派手なものあげると失敗するんだよな、うん。僕って高校生だし。それなりに地味で、それなりに心にくる、それなりのお値段のものを選ばないと。
「どれになさいます?」
「待って」
アクセサリーがいいよなぁ。ユカって飾りっ気ないし。お、ペアのもあるんだ、ふーん。
「どれになさいます?」
「待ってってば」
それにしてもうるさいなこの店員。僕と同い年くらいか? 妙に格好いい男だな……店員らしく丁寧だけど、しつこい。
「どれになさいます?」
ああもう! うっとおしい! 怒鳴ってやる!
「うるさ――」
「さっさと選びやがれ!!」
「逆に怒られた!?」
「おまえみたいな若いのがいつまでも店内にいるとな、見栄はった年寄り金持ちがこないんだよ! 儲けが出ないんだよ! 安いもんしか買わない客はさっさと選んで帰れ!」
な、なんて言いにくいことを平然と言うやつなんだ。でも、せっかく買うんだし、ちゃんと選びたいのに……
「客!」
「はい!」
なんで僕のほうが敬語なんだろう。
「何を買いにきた?」
「か、彼女へのプレゼントを……」
「歳は? 派手な彼女か地味な彼女か。普段の服装は? 飾り気は? 付き合って何ヶ月だ? どこまで進展してる? 何度目のプレゼントだ? 財布の中身はいかほどか?」
矢継ぎ早に聞かれ、僕は圧倒されてしまい、なぜか正直に答えまくっていた。
「よし。じゃあ客、これ買え」
そして進められたのが、一つのペンダント。
薄い鎖の先に、シルバーの小さな六方星。控えめに、しかし確かな存在感を持つその星は、文句なしでユカにぴったりに思えた。
「ペアアクセだ、新米カップルにはこれくらいがいいだろう」
ペア? 六方星は一つしか……や、よく見れば鎖は二つある。
「あ、これ。三角形が二つ、くっついてるんだ」
銀の三角板と、中が空いた逆三角フレーム。その二つがくっついて六方星になっているんだ。二人で片方ずつ持っていてもただの三角、でも二人がそろうと星という形になる――いい、すごく、いいかもしれない。
「これで2980円。気にいったか?」
「はい!」
「よし、じゃあ取っといてやるから彼女と二人で買いにこい」
「え? や、今、僕が買って」
「ばかたれ。こういうのは二人で買うからいいんだよ。店員の言うことは聞いとけ」
「は、はい」
いきなりプレゼントして驚かせたかったけど……でもここに連れてくるのも悪くないな、うん。充分にびっくりしてくれるだろうし。
それで、喜んでくれたら、いいなぁ。
――忘れてる方もいますでしょうけど、実は今の僕はサボり中だったわけで。校門前でひっそりと待ち伏せしてユカと合流したのは、それから少し後のことだった。
「ど、どこいくの?」
「いいからいいから。あ、ユカ。お金持ってる?」
「う、うん」
おどおどしたユカを引っ張りながら「金持ってるか?」なんて確認すると、なんだか自分が恐喝しているような気分になる。いやいやそれも今だけ、きちんと説明すればいいんだ。
「あ、あ、トメ君、どこ行くのってば」
目的地に着いた!
「ここだ!」
「ラブホテル!?」
「違う!! 隣!」
「人身売買店!?」
「そこはそういう名前のラーメン屋! その間にあるところだよ!」
「ラブホテルと人身売買の中間……」
「紛らわしい言い方はやめてくれ。僕はどんだけゲス野郎なんだ。そこのアクセ屋だよ」
しかしこんな並びの店ってどうなんだろう。建てた人のチャレンジ精神がよくわからない。
「お、来たか」
店に入ると、なんだかんだで親身にのってくれた男の子がすぐに見つけてくれた。
「ちゃんと取っておいたぞ、ほれ」
あえてラッピングもしないでおいてくれたんだろう。長方形の透明ケースに入った、見た目は一つ、実は二つな星のペンダント。
「ユカ、これを一緒に買おう」
その言葉で、ユカはようやく僕の意図を理解してくれたようだった。
ペンダントを見て、僕を見て、もう一度ペンダントを見る。最初は白黒させていた目は少し熱を帯びて、頬も少し染めて、ユカは答えてくれた。
「……はい」
二人でお金を出しあった。
僕はユカから、三角板のペンダントをもらった。
ユカは僕から、逆三角フレームのペンダントをもらった。
それがお互いの、初めてのプレゼント。たまに一緒にかけあわせて六方星をつくって、二人して恥ずかしそうに微笑みあった。
婚約指輪の交換ほど大げさではなく、バレンタインデーとホワイトデーの交換ほど軽くもない。きっと今の僕らにぴったりな贈り物だったはずだ。
ありがとう店員さん。聞いたところによるとアルバイトみたいだけど。お客に対する口の利き方とかヤバかったけど。でもナイスな店員さんだったぜ。きっと将来は無敵な店員さんに成長すると思う。
「……先を越された、なぁ」
「え、なにユカ。なんか言った?」
ユカと一緒に幸せ気分な僕は、上機嫌に聞いた。
「あー、うん。ちょっとトメ君に伝えたいことがあって……今度の週末、空いてる?」
「もちろん」
「あ、じゃあそのときに」
「なになに、嬉しい知らせ? 悪い知らせ?」
「変な知らせ」
なんだその、うちの姉や妹で腹いっぱいな知らせは。
ちょっとギャグは抑え気味なお話となりました。
なんだか感想を読んでると、皆さんがシリアスを今か今かと身構えているように見えますが……もしかしたらその前兆かも?
焦らすの大好きな私にはハッキリ答えることはできません^^
あ、ちなみに。
ペンダントの話、覚えてる人いますかー?