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カカの天下  作者: ルシカ
714/917

カカの天下714「過去、賑やかな時間」

「俺の名前は友人A! どうぞよろしく!!」


 こ、こんにちは、トメです。


「友人A! なんだ友人Aって! そんな適当な名前にするなら何度も出すなよ! 出るたびに惨めになるだろ!?」


 あ、あの。いま授業が終わって、


「あぁそうか、こう考えればオイシイ! これから皆で俺の名前を募集するんだ、そうしたら俺がどんな名前になるのか皆が気になって、注目が集まりまくりんぐ!」


 や、休み時間に入ったんですけど――


「あぁ、もっと俺を見て!!」


「うっさいわ!!」


 なんか色々大事なものを無視して叫ぶ友人Aを一喝する。すると彼は不貞腐れた顔でしゃがみこみ、人差し指で床に『の』の字を描き始めた。


「だってさー、だってさー、こんなことでも言わなきゃやってられねーべさ。俺ってば名前ないし? 授業中寝てたら怒られるし? 腹いせに消しゴム投げたら先生の後頭部に当たっちゃうし? 先生のヅラとれちゃうし? 先生真っ赤になってトンズラするし? これダジャレだし? 後で俺ってば怒られるし? それに」


 ガラ、と控えめに開けられた教室の扉。


「なんか俺の近くにはラブラブなやつがいるしー……」


 そしておずおずと入ってくるユカ。彼女さんは律儀にも、休み時間になるたびに僕の教室まで遊びに来てくれるのだ。


「死んでしまえ」


「……見た目的に今死んでるのはおまえだぞ」


 あ、『の』の字を書くスピードがアップした。


「あ、あの、トメ君」


「や、ユカ。えっと……」


 とは、言うものの……


 人生初めての交際を始めてまだ二ヶ月。少しずつ慣れてはきたもののやはり恥ずかしく、毎回毎回に気の利いた話題を用意できるわけはない。僕とユカは二、三度だけ言葉を交わした後、二人して黙り込んでしまった。


 やがてユカが耐えかねたのか、思いついた言葉を口にする。


「だっ――」


「それだけはやめてくれ!!」


 朝の恥ずかし暴走大特急を教室のど真ん中でかましてしまったら僕は絶対に死んでしまう。死因? もちろん悶死だ。悶絶して死ぬと書いて悶死だ。血流の流れが速くなりすぎて心臓が耐え切れず爆発するという恐ろしい死因だ。おお、自分で作っておいてなんだが、なんと恐ろしい死に方だ。


「あー……もう、休み時間、終わっちゃう」


「う、うん。そだね。授業、頑張って」


「あ、トメ君も」


「うん、じゃあ」


「ばいばい」


 控えめに手をふりふり振って、恥ずかしそうに去っていくユカ。


 可愛い……恥ずかしくて口にはできないけど、心からそう思う。


「あぁ妬ましい妬ましい。妬ましの神よ、ただちに俺に降臨し、こいつを殺しても罪に問われない力をください。本当に『被告A』とかになるのヤなんで」


 うざい……口にしてもいいけど、心からそう思う。


「なートメ。休み時間の度に可愛い彼女さんが来てるけどさ、たまにはおまえがユカちゃんのとこ行ってやれよ」


「む」


 言われてみればもっともだ。毎回来てくれるユカの好意に甘えていて、僕は応えていない気がする。


「おまえが向こうの教室に行ってる間に机に『死ね』とか書いといてやるから。そりゃもう俺の少ない脳みその引き出しを全開にして思いつく限りの罵詈雑言を」


「……たまには友人らしいこと言うなぁ、なんて思った僕が馬鹿だった」


「バーカ」


「改めて言われると腹立つなこのやろう」


 友人Aなんか置いといて。好意に応えるというのは良い思いつきだと思う。僕から教室へ行くのもいいけど……他のことでもいい。何かお返しとか考えておいたほうがいいかも。


「モテるやつは死ねばいい」


 さて。それはそれとしてとりあえず、このどこかで聞いたようなセリフを言う友人をなんとかせねば。


「僕は彼女がいるってだけで、別にモテてるわけじゃないだろ」


「相手がいるやつは死ねばいい」


「死ぬやつ多いなー。世界にいっぱいいるぞ、夫婦とか」


「俺は構わん」


「自分の両親も?」


「構わん」


「構えよ」


 あ、チャイムだ。ついにこやつを黙らせることができなかった。きっと次の休み時間が始まった途端にいじけ始めるに違いない。はぁ……面倒くさい。


 しかし、そんな僕の心配は杞憂となる。


 授業が終わり、先生が教室を出て行きドアを閉めた瞬間、


「ハイ皆さんこんにちは!! 笠原トメのおねーさん、とーじょー!!」


 響く男らしい女性声。


「とうよぉー!!」


 微妙な復唱をする舌っ足らずな幼い声。


「投与!? そう、授業というクソつまらない時間に毒された教室へ、全世界の元気の源であるおねーさんを投与! 皆!? オラから元気を持っていってくれ!」


「てってってくえ!!」


 ぽかーんとするクラスメイト一同。気持ちはわかります。先生と入れ替わりで私服のおねーさんがワケワカランことを叫びつつ妹を肩車しながら登場すれば、唖然として当然。そう、いくら“慣れているとはいえ”。  


「なぁトメ。またおまえのお姉さんか」


「認めたくはないが……ていうか姉!! なぜ窓から登場する!? しかもここ二階! どうやって上がってきた!?」


 そんな僕の常識的なツッコミをものともせず、


「やーやー皆、弟をよろしくー、弟をよろしくー」


「よぉしくー!」


 選挙活動よろしく愛想を振りまく姉。恥ずかしすぎる、しかし悶死はしない。悲しいかな、この人のやる恥ずかしいことには誰よりも僕のほうが慣れている。


「うちの弟いいやつよー! よろしくー!」


「とめにーちゃんいいおー! よぉしくー!」


「友人Aもいいよー! よろしく!」


 とりあえず邪魔な友人を押しのけて。


「こら姉。学校はどうした」


「大学生って暇なんだよ」


「全国の大学生に謝れ!」


「じぇんきょうでぇやいしぇいあぁれ!!」


 ちなみに今のはカカです。僕が早口で言ったのを頑張って復唱しています。


「……あ」


 そんな大騒ぎの場面に出くわす、律儀にまた訪ねてきてくれた僕の彼女。


 姉と目が合う。


「あ、ども、姉です」


「か、彼女です」


「お、おおお、弟、よろしく」


「こ、こここ、こちらこそ」


 なんだこの空気は。


 悶絶なしに死ねそうなんですけど。


「続く」


「このまま続くの!? こら勝手なこと言うな友人A!!」




 友人A、大活躍の巻。

 本当はこんなはずじゃなかったのに、なぜか自己主張の強い友人A。名前もないくせに。おかげで予定より一話延びたじゃないか過去編が。別にいいけど。

 さて、そんなわけでまだ続きます。


 しかし……毎回言うけど、感想返信をすぐにできなくてごめんなさい。

 言い訳させてもらえば、新しい店が昨日開店したのね? オープンって死ぬほど忙しいのね? そんだけです、あぃ。

 土日終われば落ち着くはずなんで、そしたらまたちゃんと返しまする……申し訳なかとです。

 

 でも本編だけは絶対書く。

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