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カカの天下  作者: ルシカ
713/917

カカの天下713「過去、未熟な時間」

 僕がユカに告白されたのは、二ヶ月前。


 下駄箱の中にラブレター、それに呼び出されて屋上へ……漫画やドラマだけかと思ってたけど、実際にあるんだなぁなんて呆けながら足を運んだそのシチュエーション。


 待っていたのは隣のクラスの女の子。面識は少しだけあった。たしか、体育大会で役員を一緒にやっていたんだと思う。そのときに少しだけ会話した。とは言っても「これ、どこ持っていけばいい?」と聞いたくらいの、色気のないやりとりだったはずだ。


「あ……あ、あ」


 それくらいしか接点のなかったはずの子が、僕なんかを相手に顔を真っ赤に染めているのを見て、なんとも意外な気持ちになった。


「あ……あ……!」


 断っておくが、僕は別に何もしていない。ただお互いに向き合って立ち尽くしているだけだ。僕は彼女の言葉を待ち、彼女は必死に何か言おうとしていて、でも言えなくて。


 僕は待っている間、そういえばこの子はすごい内気な印象だったなぁ、なんて思い出していた。いつもおどおどしていて、おとなしくて、体育大会の役員だって押し付けられたんじゃないかと思うほどだった。


「あ……」


 その証拠に、ほら。言いたいことを言えない彼女は、


「あ……あぅぅ……」


 そのまま泣き出した!?


「おいおいおい! どうしたの!」


「言えないんですぅ……」


「何を?」


「好きって言えないんですぅ……」


 言ってるし。


 ――というわけで、その不器用すぎる告白を僕は受け入れ、付き合うことになりましたとさ。まだ二ヶ月しか経ってないけど、仲良くできてると思う。現に今日も今日とて早めに朝から待ち合わせして、ゆっくり登校しているんだから。


「――でさ、今朝もお腹が痛いんだ」


「ふふ、カカちゃん可愛いね」


 最近は毎朝続いている腹への突進話を聞かせると、ユカは楽しそうにクスクス笑った。


「や、可愛いのは認めるけどさ、こうも毎日続くとさすがにうんざりするよ」


「あー、そんなこといいつつ笑ってるよ? ふふ」


「や、これは」


 ユカと話しているのが楽しいから、とか言えたらとか思うけど言えない。


「結局はカカちゃんが可愛くて仕方ないんだよね、トメ君は」


「そんなことない、とは、言えない、けど」


 ユカだってかなり可愛い、なんてことも言えない。


「あ」


「ん、どした?」


 あまり感情を激しく表に出さないユカだけど、これだけ付き合っているとさすがに表情が読めるようになってきた。これは何か思いついた顔か、思い出した顔だな。


「……あー、あー」


「何をあたふたしてる」


 警戒中の小動物のように挙動不審にきょろきょろと辺りを見渡すユカ。一緒に三つ編みもふるふる揺れる。何を確認してるんだろう。回り道なせいか周囲には誰もいないし。


「……あの」


 違う、周囲に誰もいないか確認したんだ。


「……あの、トメ君」


 ユカは、顔を真っ赤にして、俯きながら、でも上目遣いで僕の目を見ながら、小さな小さな声で言った。


「だ、だっこ」


 脳が固まった。


 言葉を理解した瞬間、石化した意識を粉砕するような勢いで血流が大暴走。身体中の体温が死にそうなくらいに上昇した。インフルエンザ並の熱に達したに違いない、走馬灯っぽいものが見えた、ばーちゃんっぽい顔も見えた、あれ、ばーちゃんって死んでたっけ? いやいやそんなババァはどうでもいい!! そんなことよりだっこってなんですかだっこって! 可愛いんですけど可愛いすぎるんですけど!!


「……あ、あの、トメ君?」


 声に反応して、思わず弾かれるように後退しまくる。ユカから充分に距離をとり、胸に手を当て、ぜーはーぜーはーと深呼吸。


 か、カカから言われ慣れてはいたけど、同年代の女の子に言われるとこれほど破壊力のある言葉とは思わなかった……だっこ、恐るべし。


「…………」


 え、なに。なんでユカさん、てってってーとこちらに小走りで向かってくるんスか? まさかカカみたいに僕の腹へ突進するつもりですか? ちょっとちょっとそれはいくらなんでも――や、でも待ってくださいよ? 僕らは付き合ってるんだからこれくらい、


「…………!」


 ユカの顔を見る。


 必死。顔真っ赤。ちょっと涙目。


 可愛いすぎる。


「だ、だっこ」


「無理無理無理無理無理!!」


 恥ずかしさの許容量を超えた僕は、逃げた。


 意地になったのか、ユカは追ってきた。


 奇妙な鬼ごっこは、学校に到着するまで続いた。

 

  


 そして、教室へ到着。ユカは不満げだったけど、思春期な男の純情を説明して何とか隣のクラスへ戻ってくれた。


 ホッと一息つきつつ、ちょっと残念だったかなとか思っていた僕を迎えてくれたのは、友人A。


「俺に名前と出番をくれ!!」


「な、なんだいきなり」


「トメ! おまえは死ね!」


 なんて友人だ。


「トメ! 死ね!!」


「二回も言うな!」


 今日は放課後にデートなんだから、死ぬわけにはいかないんだ。


「とことん死ね!!」


「三回目!?」


 その後、八十七回言われた。




 カカ天では何気に珍しい、ハッキリと付き合っているカップル。

 いやーうざいですねー(爆

 いえいえコホン……いやぁ、ほほえましいですねぇ(白々しいですねぇ

 

 ともあれ、まだ過去のお話は続きます。

 友人A君が「俺の名前募集!」とか言ってますが気にしないであげてください。

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