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カカの天下  作者: ルシカ
712/917

カカの天下712「過去、穏やかな時間」

 トメです。


 思い出すは七年前。


 僕がまだ十八歳で、高校に通っていたころの話。


「ふぁ……おはよう」


 ある日の早朝。自室で学校へ行く用意をあらかた終わらせた僕は、朝食をとりに居間へと入った。待っていたのは、テーブルに並ぶ母さんの作ったご飯、それを先に食べている姉。「おふぁお」食ってから喋れ。台所からはまだ何か作っているらしい母さんの声。「おふぁお」あんたも何か食ってんのか。そして、


「とめにーちゃん!」


 元気すぎる妹。


「カカ、おはよ」


「だっこ!」


「……おはよ」


「だっこ!」


「朝はおはようだろ?」


「だっこ!!」


「……よしこい」


「わーい」


 朝っぱらから僕の腹をめがけて全力疾走で突進してくる妹を「ごほっ!」という苦悶の声を押し殺して受け止める。痛い。


「とめにーちゃん、おはよ!」


「あぃ……おはよ」


 こうしないと挨拶をしない妹の癖を直すにはどういった教育をすればいいのでしょうか? 誰か教えてくれ。


「あらあら、今日もトメ君とカカ君は仲いいのね」


「母さん、毎朝これやると疲れるんですけど」


「ママ知ーらない。ねーカッ君?」


「あたしらはカカちゃんから、そんなラブラブ光線もらってないもんねー?」


「ねー」


 この二人は毎朝お腹にダメージを受ける僕が羨ましいらしい。確かに最初は喜んださ、自分に一番懐いてくれる妹なんかができたら可愛いに決まってる。でも毎日ボディーにアタックされる僕の身にもなってほしい。最近お腹の調子が悪くて便通が危うい感じになっているのは間違いなくコレのせいだと僕は思っている。


「いただきます」


「妹を?」


「朝食を!!」


 タチの悪い冗談を抜かす姉に律儀にツッコんだ後はがつがつがつ! 勢いよく朝ごはんをかきこむ。おお、さすがは卵かけご飯、すんなり口に入っていくぜ。


「こらトメ君。よく噛んで食べないと、よく噛んで食べない子になっちゃうぞ」


「母よ、そのまますぎる」


「えー、この間テレビでこんなの言ったらウケたのに」


「きゃははは!」


「ほら、カカ君にはウケてる!」


「むざいほうめん!」


「何にウケてるのかお姉さんさっぱりわかりませんが」


 相変わらず愉快な家族のやりとりを聞き流しながらも引き続きがつがつがつ!


「それにしても、トメ君は何をそんなに急いでいるの?」


「彼女と待ち合わせなんでしょ、どうせ」


 がつがつ……図星を指されて一瞬手を止める、が時間ないのでがつがつ開始。


 朝食終了! 自室へダッシュで戻って準備!


「おーおー急いじゃって。構ってもらえなくてお姉さん寂しい……ね、カカちゃん」


「ギャー!」


「なんであたしが話しかけただけで叫ぶ!?」


「ゆうざい!」


「何が!? 会話してよぅ! 一緒に寂しさを分かち合おうよ! だっこしようよ!」


「……またおんぶして空飛んでくれる?」


「二階からならいいよ」


「じゃ、だっこ」


「たはー」


「あ、いいなー。ママも! ママも!」


 馬鹿やってる家族は放っておいて、


「いってきまーす」


 そそくさと家を出る。少し予定より遅れ気味だ、寝坊したせいだろう。


 高校へ向かう道を、少し遠回りしながら走って進む。


 やがて見慣れたT字路が視界に入り、誰もいないことを確認してホッと一息。


「よかった、まだ来てないか」


「あの」


「っとぁ!?」


 T字路の中心で「っとぁ」を叫ぶ。


 慌てて振り返ると、そこには探していた顔がおずおずといった表情で立っていた。


「いつの間に!?」


「あ、あー、あ、あのね、そこの電柱に、隠れてて」


「なんで」


「驚かそうと……思って」


 意地悪な考えとは裏腹に申し訳なさそうに俯くその子。その拍子に三つ編みまで申し訳なさそうに垂れる。もちろん肩も申し訳なさそうに小さくなる。


 可愛い。


 そう思った。


「うん、驚いた驚いた。成功成功」


「あ、あ、あの」


「大丈夫大丈夫、怒ってない怒ってない」


 可愛かった可愛かった、と言えればいいのにと少し思う。でもそんな恥ずかしいことを口にできるほど僕は大人じゃなかった。


「あ、あー、あー……」


 自分でやっておいて困りきった顔であーあー言うその子。きっとその子にとっては冒険だったんだろう。もっと親しく、もっと気さくに接するにはどうすればいいのか、必死に考えた結果だったんだろう。でも実行して、それでよかったのか自信がなくて、あたふたしている。


 それがわかる。


「はいはい。いいから学校行くよ、ユカ」


「あ、うん。トメ君」


 その子は僕の彼女だから。


 だからわかる。


「今度は僕がユカを驚かしてあげるよ」


「え……そんなことされたら死んじゃう」


「気弱なユカなら本当にショック死とかありそうだなって思えるからすごいな」


「……えへへ。お墓はトメ君の家に作ってね」


「難しいこと言うね」


「居間がいいなぁ」


「すんごく難しいこと言うね」


 わかる――そう。


 わかっていたのに。




 過去編の始まりです。正確に言えば前回から始まってはいたのですが。

 過去に関する話をまとめて過去編として、しばらく展開していきたいと思います。


 ではでは、もう少し過去の世界にお付き合いください。


 追記。更新時間が不安定なのは私の仕事状況も不安定だからです。お店の新装開店って大変ねぇ。

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