カカの天下710「甘くないチョコ 中編」
どうも、引き続きトメです。
なんともタチの悪いチョコをもらったバレンタイン。しかしもらったこと自体は嬉しいから許してやろうと思う辺り、男って損だよなーなんて思いつつ……メインイベントはこっちだと言って歩くカカとサエちゃんについていきます。
やがて見えたのはいつかの桜の木。もちろん花はまだ咲いていないが、その木の下には一輪の花もかくやの乙女が僕を待っていた。
そう、言うまでもなかろう。
その乙女とは!
「タケダだ!!」
殺していいですか?
「待っていたぞ! 俺はこの日を待っていた!」
殴り飛ばせばいいだろうか。
「頑張って頑張って手作りのチョコを作ったんだ!」
蹴り飛ばせばいいだろうか。
「むしろチョコケーキだ! 特大だ!」
投げ飛ばせばいいだろうか。
「これは俺の愛の大きさを語っている!」
とりあえず殺そう。
「カカ、武器ないか?」
「はい木刀」
「ないす。せーの」
「うぉあぉえあぅあ!?」
即座に木刀が出てきたことをさして疑問に思わず振るった僕の一撃をスレスレで避ける不届き者。うん、不届き、たしかに木刀が届かなかった。今度は届けよう。
「せーの」
「ひぃあ!? な、何をするのだ兄君! 俺はただ、カカ君へ想いと共にチョコを渡そうと!」
「ああ、なるほど」
今のセリフはカカに向けてだったのか。そうかそうか、よかったよかった。
「せーの、せーの、せーの」
「ぅお!? ちょっ! あぶっ!! なぜに木刀を振るうのを止めない!?」
だってそれはそれでムカつくし。
「カカ君! なんとかしてくれ」
「よーし」
「なんで二本目の木刀を取り出すの!?」
「いくよトメ兄」
「よしきた」
二人仲良くせーの、せーの、せーの、せーの、せーの、せーの――ゴン。
「さて、サエちゃん。これがメインイベントなのか? 確かに男からチョコを、しかもケーキなんかもらうとなれば大事件なんだが」
「いえいえー、こんなの用意してないですよ」
「嫌がらせにも程があるでしょ。さすがにここまではしないよ」
ボロクソに言われたタケダは地面に転がっていて返事をしない。できないのかもしれない。
「あ、あのぅっ」
「あれ、サユカちゃん。そんなとこにいたのか」
最初に予想していた人物は桜の木の陰に隠れていたようだ。
「ちょっとサユカン、なんでそんなとこにいるの!?」
「だ、だってタケダがっ、俺が先に渡すんだー! とかいうからっ!」
「トメ兄に!?」
「やっぱりかー」
「やっぱりか!! 恐ろしい!」
殺そう。
「やっぱりって何!? 俺は勘違いしていたのだ! てっきりサユカ君がカカ君へ渡すのだと思って、それより先に渡したかっただけで!」
「せーの」
「なんで問答無用で木刀振り上げるのだトメさん!? どう考えても今のセリフにそれ振る理由なかったでしょ!?」
や、なんとなく。
「しかしそういうことならよかった。身の危険を感じたぞ僕は」
「そ、それは俺のセリフなのだが……」
しかしタケダがチョコねぇ。流行の逆チョコというやつか。
「とりあえず受け取っておくよ、タケダのチョコケーキ」
「お、おお!!」
「さぁ皆で食べようか」
「なにぃ!? カカ君、俺は君のためだけに作ったんだぞ!」
「おまえは私を太らせて食う気か」
たしかに小学生一人にケーキワンホール食えってのはキツイよな。家で食べた後でちゃんと冷蔵しておこう。
「それにしてもサユカちゃん。なんで普通の格好なのー?」
「あ、あれはさすがに恥ずかしくて……っ」
「なんだよ。また何か着せようとしてたのか、おまえら」
「チロルチョコのコスプレ」
見てぇ。普通に見てぇ。
「それはともかくっ! トメさん、はい! チョコです!」
「お、おお」
受け取ったのは結構ずっしりとくる包み、そして先の二人と同じように手紙がついている。
「わたしのは二人みたいに冗談じゃなくて、ほほ、本気の手紙ですからっ!!」
……はい、わかっております。誠意をもって読ませていただきます。
えっと。
『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――』
なげーよ!!
ていうかこえーよ!!
「恥ずかしいっ!!」
「ですよね!?」
「ですよねってどういう意味ですかトメさんっ!!」
や、だって! 微塵も疑問を感じず堂々と清々しい顔でこんな手紙を渡されたらさすがに引くし!!
「サエちゃん、元気出た?」
「うん、ありがとうカカちゃん。トメお兄さんとサユカちゃんの百面相を見ていたら少しずつ元気になってきたよー」
『オイそこの黒い子』
僕とサユカちゃんのツッコミにも全ての元凶は知らんぷり。しかしなんだ、これは元気のないサエちゃんのための企画だったのか?
「サエちゃん発案のラブレター祭り、成功だね」
「いやいやー、まだまだ続くよ」
「続くのかオイ。まだあるのかオイ」
チョコもらえるのは嬉しいけどなんか疲れるんだが。
「そのチョコ全部まずいよ」
「なんで僕はそこまでコテンパンにされなきゃあかんの! 僕が何かしたか!?」
「息」
「したらダメなのか!?」
「一回三百円」
「生きていくのにはお金がたくさんいりますね!!」
「ささ、いいから次行くよ! トメ兄こっち」
「ほらほらー、こっちですー」
「おい、押すなって!」
「あぁ、トメさんっ! もうちょっとわたしと喋りましょうよぅっ!」
「どうしよう……打ち所が悪かったのか、俺、立てない……動けない! カカくぅぅぅん!」
そんなこんなで大騒ぎしながら。
テンとサラさんが待っているらしい場所へ向かってずんずん進んで。
「びりびりですか?」
「いいえ、リハビリです!」
「ふふ、ちょっと待ってくれないかしら? 病み上がりなんだからそんなに速く歩けないの」
サユカちゃんがタケダと交代したかのように、テンとサラさんではない別の団体と出会った。
クララちゃんとタマちゃんという、僕としては初めて見る組み合わせ。そして……誰だ、あの子。僕の知り合いに金髪の人なんかいないんだけど。
「あら」
「え」
でも、目が合った。
中編です。まだ続きます。
はてさてはてさて。