カカの天下71「トメって意外と……」
「はぁ!!」
「違う違う。まだまだだなぁカカは」
……ども、トメです。
「てや!!」
「だめだめ。気合が足りない」
なんか、橋の上で傘を振り回している姉妹がいます。非常に認めたくないことではありますが、僕と血を分けている人間と言わざるを得ないことを、ここにお悔やみもうしあげます、かしこ。うん、変な文だ。ちょっと変なやつらを見てたから、変な文を書いてみたかったんだ。
「何してる、妹と姉よ」
「あ、トメ兄」
「よ、弟。いまね、修行中」
「なんの」
「ほら、あそこ見える?」
姉が指差す向こうには一本の街路樹。そしてその枝には――
「鳥の巣、か」
「そうそう。この橋通るとね、鳥が警戒して攻撃してくるんだよ。おもしろいでしょ?」
「おもしろくねぇよ!」
目を輝かせる妹カカを叱り飛ばす、が、全く聞いちゃいない。
「その鳥を叩き落そうと、いま頑張ってるとこ」
「うんうん、鳥だって必死なんだからさ、カカちゃんももっと必死に振り回さないと当たらないよ!」
この姉妹はいったいどこへ向かっているのだろう?
警察か。はは――
や、笑えない。烏が人に危害を加えているのかもしれないけど、こんなところを本当に警察に見つかったりしたら!
「おい、そこの君たち」
うわ、都合よく巡回中の警官登場!
ツカツカと近づいてくる警官にカカは怯む、が、姉は――
「よう、シュー君」
「げ、お姉様!!」
「知り合い!?」
しかもお姉様とか言ったぞ。
「姉。おまえ、僕のほかに弟いたのか」
「違う違う。これは弟分」
あんたどこの組の親分だよ。
「シュー君、なんか用?」
「い、いや……さすがにこんなところで傘を振り回して鳥と格闘するのは、ちょっと公共の場では……」
おどおどしながら言いにくそうに進言する警官シュー君。しかしニヤリと笑う姉に「ひっ」と情けない悲鳴をあげる。
「ひったくり、八件」
「うぐっ」
「強盗犯、五件」
「ぐっはぁ!」
「誘拐犯、三件」
「……がくっ」
「見逃せ」
「了解」
なんだこの会話は!!?
「な、なぁ姉。おまえ、なに言ってるんだ?」
「あたしの輝かしい経歴」
「えっ、お姉ってそんなに犯罪やってたの!?」
カカが「あらまぁ」って感じで両手を口にやって驚く。僕も真似してみる。
「やっぱり」
「やっぱりってなんだ!? 違う! あたしが犯人捕まえた事件の数だ!!」
あんた本当に何者だよ!?
「……あ、シュー君とやらが何も見なかったことにして去っていく」
「あたしとあいつ、幼なじみでさ。昔からいろいろ頼ってくるんだよ。警察になってからも」
「へー。ま、とにかくだ。いい加減こんなことやめろ。警官は誤魔化せても、近所で変な噂がたったら僕に迷惑かかるんだからな」
「えー。せっかく始めた戦いだよ。ちゃんと決着つけないと女がすたるよ、ってお姉が言ってた」
「廃らせとけ、そんなん」
「トメ……あんたにも勝負の決まりごとを教えただろう?」
「遥か昔にそんなこと聞いたような気もしないでもない。とりあえず勝負始まったら一発かませ、だっけ?」
「そう! あたしらはまだあの鳥に一発も――」
と、いきなり我ら三人に滑空してくる影。
噂をすればなんとやら、鳥が襲い掛かってきたのだ。
カカが傘を振り回す。はずれ。
姉が腕を振り回す。掠った。
僕が拳を振り回す。鳥の顔面に直撃。
鳥はふらふらと橋の下へと落ちていった。
「さて、これでいいだろ? 帰るぞ」
「えと」
「トメ兄……あれ? なに、今なにしたの?」
「鳥殴ったんだよ」
「えと……弟、あんたケンカとかしない人じゃなかったっけ」
「そうだよ」
「なのに、なんでこんなことができるわけ?」
「誰の兄弟やってると思ってるんだ」
「……納得」